航空機製造会社として
スタートしたSUBARUの
企業風土は、事業経営のなかで弱みでもあり、またはそれが強みでもある
実際問題として自動車に限らず、組立などの最末端のモノ造りの現場に於いて、いわゆる製造工場の「班長」以下のグループと、係長クラスの間に於いて、相互の意思疎通が直結しないという状況自体はどの企業でも起こるだろう。
しかし一方で日本の自動車市場は、既に車両への投入技術で成熟し、個々車両の性能優劣で競合他社との差別化を図ることが難しくなっている。従って、今や車両選択もブランド価値という「見た目では見えない価値」で「勝負が決まる」と言っても良い時代だ。
それゆえに経営から車両企画・設計・開発・製造に至るモノ造り全域を通して、働く従業員の一貫した「こころざし」が商品性の優劣を決めてしまう。
そう考えると、今のSUBARUは「モノ造り企業」として、今後の行く末を左右する程の難しい局面を迎えているように思われてならない。
その真の理由はまだ見えておらず、それは長年技術畑の人材が企業のトップを務めてきた同社に於いて、初の営業畑出身の吉永氏がトップについたことによるものなのか。
またここ7年間、現体制を支え続けて来た経営陣達の采配によるものなのか。さらには事業の大幅な伸張を実現させたストレスが、最終の車両製造の現場に押し寄せたものであるのか。または、それ以外の理由によるものかは定かになっていない。
ここで過去を翻(ひるが)えれば、吉永社長は昨夏、東京ミッドタウンで行われた『Advertising Week Asia 2017(アドバタイジング・ウィーク・アジア2017)』の基調講演に登壇し、筆者はSUBARU伸張の理由を求めて同講演を聞いた。
この際、吉永社長は「今や自動車産業全体が来たるべき2020年に向けて世界市場1億台を、具体的な通過点として据えている中、SUBARUのシェアは、その全体に於ける1%に過ぎないのです」と語り、「我々SUBARUは2010年以降、ビジネス市場で好調さを取り沙汰されてきましたが、社内では目指すべき未来に向けて、今後どうやって生き抜いていけば良いのか、永らく悩んできました」と話した。
そして世界の自動車ビジネス全体が、東アジア市場の拡大に向けて一斉に走り始めるなか、「SUBARUは、そんな流れを常識的なことだとは捉えていません。
世界販売1億台規模を目前に、激しいシェア争いを繰り広げる大手自動車メーカーに対して、我々は独自の視点を持たなければなりません。それは車両販売のボリュームが最終的に勝敗を決するような土俵で、SUBARUは勝負すべきではないということです」と畳み掛けた。
それこそが吉永社長自身が云う量産自動車メーカーの規模で末席にあたるSUBARUのオンリーワン戦略を読み解く鍵であり、それが米国を筆頭とする自動車市場に於いて、SUBARUが評価されている『真の理由』であると。
そのひとつは、『SUBARUが航空機会社としてスタートを切っている』こと。ふたつめは『そのために非常に技術オリエンテッドな会社になっている』こと。つまりは『常に良いモノを作りたい』と考えてしまう高コスト体質であると云う。
そしてこのSUBARUの弱点を裏返せば最大の長所になる。それこそが、SUBARUが生き残る鍵になるのだと。
つまり徹底した技術主導的な企業風土ゆえに、『開発・製造コストが勝敗を分ける戦いで、競合他社に勝つ事は難しい』という結論に行き着いたというのである。
そこで2011年に、代表取締役社長に就任したばかりの吉永氏は、全社員の完全雇用を維持しつつも、同社の自動車産業としての礎となった軽自動車市場からの撤退を決めたのだ。