京都府・伊根町にてデマンド交通の予約実証を始動させる
トヨタグループ傘下の「デンソー」と、道路交通情報コンテンツの開発・運営を手掛ける「順風路」の2社は9月1日、京都府・丹後半島北東部に所在する伊根町にて、デンソーの地域情報配信システム〝ライフビジョン〟を使ったデマンド交通の予約機能を使う実証実験を開始した。(坂上 賢治)
実証期間は、2021年9月1日から10月31日迄の2ヶ月間。総人口1880人(2021年8月1日現在)の住民を抱える伊根町では、この実証で得た知見を活かし、来年4月からデマンド交通サービスの本格始動を予定している。
今回、利用される〝ライフビジョン〟は、デンソーが長年開発を重ねてきた地域情報配信システムの総称で、タブレット端末やスマートフォン端末を介して、自治体から住民へ向けて、行政上の様々な情報を個別の住民に向けて配信出来るもの。
初めて開発を手掛けて以降、香川県直島町・徳島県上勝町・岩手県陸前高田市など全国各地でシステム実証を積み重ね、サービスの充実を図ってきた。その基本機能は、災害情報や日頃の地域情報が先の通りタブレットやスマートフォンへ送り届けられるだけでなく、当該地域のタクシーを予約したり、遠隔医療のサービスを受けるなど、個々の地域行政が用意した公共サービスを受けられる。
路線バスでは対応し切れない細やかな移動ニーズに応えていく
今回の伊根町では、地域防災無線の更新を契機に、それまでのアナログ音声で情報を伝えるだけでなく、ITを活用した付加価値の高い情報を提供していくための新たなツールかつ手段として、地域の全世帯に向けてあらかじめ専用のタブレット端末を配布。2020年の4月から、同タブレットを介して、伊根町の地域情報や防災情報を配信するデジタル回覧板〝いねばん〟の配信デバイスとして鋭意活用してきた。
そして今回はこの〝いねばん〟に、伊根町内で運行中の電動巡回車両のデマンド予約機能を追加する。これにより住民宅の〝いねばん〟端末から、誰もが自由に電動巡回車の乗車予約を行えるようにして、町内の各目的地へ全ての住民が気兼ねなく移動出来るようにする。
またこのサービス拡充により高齢者の町内移動に拘らず、小中学生の登下校での利用など、一般的な路線バス形式を使った移動サービスでは、対応し切れなかった細やかな移動ニーズに応えていくという。
伊根町、デンソー、順風路の3者は、この電子デバイスとシステムの利活用により、来年の本格的なデマンド交通サービス提供に向けて、運用上の課題出しや改善に取り組む構え。また同活動により、住民の自由な移動を支えるだけなく、地域の交流や活性化にも大きく貢献して行ける事も目指す。
住民のみならず観光振興の寄与へも繋げて行きたい考え
こうした取り組みについて伊根町では、「診療所への通院、幹線バス路線への接続などに利用出来る電動巡回車両のデマンドサービスを開始します。
利用する車両は電動モビリティであることから、エネルギーの効率的な使い方を工夫し、地域の新たな仕組みづくりとしても動機付けたいと考えています。また利用にあたっては住民のみならず、当町を訪れる方々にも気軽に利用できる仕組みを敷いて、観光振興への寄与へも繋げたいと考えています」と述べた。
対して〝いねばん〟のソフトウエア基盤となっている〝ライフビジョン〟の開発・提供を担うデンソーでは、「新導入するデマンド交通予約機能は、ご利用年齢を限定する事無く多彩な方々が簡単に操作頂ける予約画面の改良・開発に取り組んで行きます。
実はこの〝ライフビジョン〟にデマンド交通予約機能が追加された事例は、この伊根町が初です。従って弊社システム基盤(ライフビジョン)と多彩なモビリティサービスとの連携が、この地域の新たなモデルケースとなるよう、今後も鋭意、開発を進めて参ります」と話している。
また今回、乗合いオンデマンド交通システム〝コンビニクル〟を提供する順風路は、「当社が開発した交通システム〝コンビニクル〟は、当社と東京大学と共同で開発を手掛けたシステムであり、電話やWebアプリを通じて、乗り降りしたい場所や時間のリクエストを受け、あらかじめサーバーが自動で運行計画を作ります。今後はこれを機会に〝ライフビジョン〟とのAPI連携をさらに進めて参ります」と結んでいる。
視覚的なインターフェイス表現は今後さらに進化していく
ちなみに利用者の要求に応じて、生活情報や予約サービスなどを提供するビデオテックス(Videotex)系技術の歴史は想像以上に古い歴史がある(Videotexは、VideoとTextから作られた造語)。その仕組みは一般家庭に置かれた情報端末機器と、画像・文字データのコンテンツ情報を送り出す専用サーバとを接続したもの。
今から40年前の1980年代に画期的なネットワークシステムとして鳴り物入りで登場した。具体的な海外事例では、今回の事例とは異なり広域サービスに属してしまうが、当時のフランステレコム(今のOrange)のミニテル(Minitel)などがあり、一方で日本では、かつてキャプテンシステムという名のビデオテックス・サービスが提供されていた。
現在の地域情報配信システムの仕組みは、インターネット回線などを経由したHTML技術がユーザーの視覚的インターフェイスの基幹として使われているが、今後将来的には、高品質の音声や動画をAIによって自動生成する「シンセティック・メディア(シンセティック・データ)」へと進化していくものと見られている。
スマートシティ構想や乗合送迎サービス拡大も開発動機のひとつ
最後にデンソーが同事業領域に進出した理由は、トヨタグループに於けるスマートシティ構想が背景にあるものと見られ、またそれ以前に、同じトヨタグループ傘下のアイシンが展開する乗合送迎サービス〝チョイソコ〟が目下、順調に全国拡大している事もその動機のひとつだ。
その〝チョイソコ〟は、高齢者を利活用ユーザーの中核に据え、地域社会の健康維持・増進を目指した移動支援サービスだ。
昨今の日本では、全国各地で急速な高齢化が進むなか、特に自家用車による移動が生活の基盤となっている地方都市に於いては、免許返納による高齢者の移動機会の減少や、買い物難民の増加が社会問題となっている。〝チョイソコ〟はそんな地域の諸課題に対して、医療機関、公共施設、商業施設への移動を積極支援する事で、外出機会の創出と健康寿命の拡大に取り組んでいる。