日産自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市西区高島、社長:西川 廣人)は、9月9日に開催した報酬委員会で株価連動型インセンティブ受領権(SAR)の付与を廃止することを決めた。なお同決定は来年度からの付与を廃止するもので、これまでに付与された権利は継続されるとしている。(坂上 賢治)
この株価連動報酬とは、業績連動型のインセンティブ報酬にカテゴライズされるもの。日産が導入していたSARこと「ストック・アプリシエーション・ライト」は、複数年度の評価に基づく中長期インセンティブにあたる。これらを端的に表現すると「バーチャルなストックオプション」のようなものだ。
ちなみに株価連動報酬でも、賞与のような格好で年次インセンティブが与えられるものなど、業績連動報酬の仕組みには複数のスタイルがある。
昨今は日本国内企業でも幾らか変化の兆しが見えていたのが、そもそも日本に於ける古典的な業績連動型報酬では、報酬の半分を固定の基本額面で賄って、残り3割分が年次インセンティブ。さらに残りの2割分が中長期インセンティブとするなど、結果的に支払い総額の高止まりが是正されるような仕組みが多い。
対して諸外国の経営者報酬は、固定の基本報酬が1割。2割が年次インセンティブ、残り7割が中長期インセンティブに設定するなど、業績連動の比率を高くするのが特徴だ。日産が取り入れたSARは、こうした多くの諸外国型にあたる。
なおこの場合、予め定めた期間で株価が高騰した際、売却した差額分を売却益相当額として現金で手にできる仕組みになっている。ここが株式を購入できる権利が与えられる「通常のストックオプション」とは大きく異なっている。
結果、例えばゴーン前会長の場合、一説に50億円と言われている役員報酬のうち、およそ40億円分が株価連動報酬として受け取れるよう権利が付与されながらも、それが記載されていなかったという疑惑が浮上した。
但し連動報酬にも利点はあって、自社株を大量に保有する経営者の場合、中長期的に企業価値が下がるような施策が取り難くなるため、コツコツと株主利益を享受する機関投資家にとっては安心材料になる。
一方で経営陣にある程度、配分設定の自由度を与えられるケースが高いので、経営者自らが手中にする報酬額を柔軟に采配できるという部分も併せ持っている。
ちなみに日産で、現報酬制度の方向性が決まったのは2003年6月。同月19日に開催された株主総会で取締役の報酬の引き上げと株価連動型インセンティブ受領権を役員に付与することが決議された。この結果、業績と株価がアップすれば役員は高額報酬を得られる仕組みとなった。
当時、ゴーン前会長は「グローバル企業として優秀な人材を維持するためグローバル基準の報酬が必要」と語って株主に理解を求めた。実際、業績がアップすれば高額報酬が得られることから、役員のやる気を引き出せるからだ。