写真は、2018年のココロハコブプロジェクトの一環として森ビルとチームラボが共同で開催した「地図のないミュージアム」の一場面
– MOBILITY INSIGHT –
本記事は平素、雑誌版に上稿頂いている識者によるNEXT MOBILITYの連載コラムです
本コラムが掲載される頃には、新型コロナ禍による日本各地での諸自粛が適正に緩和されているであろう。月並みながら、医療従事者を始めとするいわゆるエッセンシャルワーカーの全ての皆様の献身的な努力と勇気に、心からの感謝と敬意を表したい。
翻って筆者自身は、献血の実施や親しい飲食店のデリバリーサービスの利用以外は、家族とともに“巣籠もり”の徹底をしてきたぐらいで、社会的な貢献という意味で申し訳ない気持ちが強い。
9年前の東日本大震災時には、3月下旬にいち早く開設された福島県相馬市でボンランティア活動をした。しかし今回のコロナ禍では、感染自体の恐怖に加え、不用意に自分が感染させてしまうことだけは避けるために“自重と自粛”をせざるを得なかった。忸怩たる思いはあるが、これも今回のような感染症対応の特殊性の一面と自分に言い聞かせている。
称賛できる自動車業界の新型コロナ禍への多層的な支援
さて、支援と言えば、1月後半から国内外の自動車業界も業界団体レベルや個別企業レベル、さらには社員個人レベルでの様々な施策を打ち出してきている。その内容も多岐にわたる。定番の義援金の他、マスク、フェイスシールド、防護服といった医療物資の提供と、人工呼吸器や体外式膜型人工肺などの医療機器製造、並びに製造支援など。
また、自動車業界らしいと言えば、重症患者搬送救急車両や軽症患者搬送車両、医療従事者向けフードトラックやキャンピングカーなどの製作や提供が特徴的である。さらには、病院向け簡易ベッド台や患者輸送用の陰圧搬送用簡易カプセルの開発・提供なども加わり、いわゆる“医療崩壊”抑止のために大きな貢献をしている。
それぞれが持つ既存のノウハウを最大限活用し、人の生命に直結する難易度の高い機械装置等の提供に短期間にチャレンジする姿勢は称賛に値する。
また、こうしたハード面の支援以外にもいろいろ挙げられる。まず、企業ロゴ構成部分を離して表現した“ソーシャル・ディスタンス”啓発活動や、“ステイ・ホーム”啓発動画のアップロードなど人の心に訴求する施策。
5月18日、日産のEV救急車がゼロエミッション東京の実現に向けて東京消防庁で稼働を開始した
それ以外にも、自動車会社らしく廉価なカーシェアリングサービスや中古車リースサービスの提供など。さらには自動車業界だけではないが、“新型コロナウィルス感染症対策に貢献する知的財産の一時的開放”措置の実施などがあり、ソフト面の支援も急速に拡大してきている。
自動車業界は新型コロナ禍の影響を最も受けている業界の一つであることは間違いない。今まさに業績の回復や雇用の維持、諸取引先への支援など、本業での課題が山積している状況であろう。そんな中にあっても、今年の秋冬に懸念される新型コロナ禍の第2波、第3波に備え、こうした多くの支援が継続されることを願ってやまない。
トヨタグループの“ココロハコブプロジェクト”に見るCSRの本気度
こうした自動車業界全体としての積極的な諸支援活動の中にあって、国内メーカーではトヨタグループの支援が質・量・スピードいずれの面も群を抜いていると言えよう。
それは、同グループの規模が業界最大であるというだけでなく、東日本大震災直後に発足したトヨタ被災地支援プロジェクト“ココロハコブプロジェクト”の存在と、トップ層の理解の下の地道な活動の継続があってこそではないかと思う。同プロジェクトは、東日本大震災被災地支援に事実上特化した形で多岐にわたる支援活動を展開してきており、昨年11月にも“いわて・みやぎ・ふくしまフェスタ”を開催している。
今回のコロナ禍に関しても、同プロジェクトはその活動範囲を拡げる方針を掲げてトヨタグループ支援の母体になっている。今回のコロナ禍対応のように短期間に多層的な支援が必要な状況にあっては、こうした強い求心力を持つ母体の存在は欠かせない。同プロジェクトの存在と活動は高く評価できる。
豊田社長の言葉を借りれば、モビリティの元語“ムーブ”は“動く”という意味の他、“感動を与える”という意味がある。前者が抑制されている今、“支援の先にある危機克服の感動”に向けた今後の地道な継続を期待したい。
熊澤 啓三
株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。