ロールス・ロイスのプライベート・オフィスを通じて世界で限定10台販売
ロールス・ロイス・モーター・カーズ8月16日(英グッドウッド、ウエスト・サセックス発)は、プライベート・コレクションのファントム・シンティラ(Phantom Scintilla)を発表した。
このファントム・シンティラは、スピリット・オブ・エクスタシーの伝統、幻想的な美しさ、優雅さを讃えるため世界限定10台の限定コレクションとして仕上げられたもの。そのエクステリアのフォルム&インテリア空間の設えを貫くものは、スピリット・オブ・エクスタシーの優美なドレスの動きにインスピレーションを得たものだという。
ファントム・シンティラの源流となったスピリット・オブ・エクスタシーは、過去より1世紀以上に亘って、音楽から写真、映像に至るまで、数えきれないほどの芸術作品にインスピレーションを与えてきた存在だ。
その物語は、今を遡ること1910年、当時ロールス・ロイスのマネージング・ディレクターであったクロード・ジョンソン氏が、彫刻家でイラストレーターでもあったチャールズ・サイクス氏に、ロールス・ロイスのマスコットの制作を依頼した時に始まる。
その際ジョンソン氏は、パリへの旅行でルーブル美術館を訪れた時に、天から舞い降りた神の姿を表現した紀元前約190年の大理石のギリシャ彫刻「サモトラケのニケ」に大きな感銘を受けことに想いを馳せ、そのインスピレーションを活かしたいとの想いを伝えていた。
しかし、これを聞いたチャールズ・サイクス氏は、その彫像をマスコットに仕立てるには、あまりにも威圧的で適切な題材ではないと感じた。普段から旅することが多かったサイクス氏は、ロールス・ロイスの優雅でありながらも、さりげなさが包括した力強さを表現するには、より繊細で優美な姿の方が良いと提案したことが今日に於いても語られている。
そのクロード・ジョンソン氏が手掛けたロールス・ロイスのマスコットの原案は、今車両のグローブ・ボックスに隠れたようにエンボス・プレートに飾られている。
1910年に書かれたこの言葉は、プライベート・コレクション、ファントム・シンティラの本質〝スピードと静寂性、振動を感じさせない滑らかさ、神秘的に引き出される大いなるエネルギー、そして優雅さを備えた美しい生命体〟を見事に表現されている。
今回のロールス・ロイス設立120周年にもあたるビスポーク・コレクティブには、そんな「サモトラケのニケ」の魅惑的なイメージをさりげなく想起させるデザイン要素を取り入れ、当時ジョンソン氏が感じていた考え方を、例えばインテリアでは優雅なビスポークの刺繍などとして施し、スピリット・オブ・エクスタシーの躍動感を、ラテン語で「閃光」(一瞬だけ現れる明るい光)に由来する〝シンティラ〟と名付けられた。
大理石像にインスピレーションを得たフィギュアは精巧なセラミック仕上げ
そんな世界限定10台販売のファントム・シンティラについて、ロールス・ロイス・モーター・カーズで最高経営責任者を務めるクリス・ブラウンリッジ氏は、「プライベート・コレクションの発表は、我々にとっても心躍る瞬間です。世界に数台しか存在しないこれら希少で収集価値の高いクルマ達は、我々が世に送り出した歴代車両のの中でも真の傑作と言えるものであるからです。
これらのクルマに施した職人たちの限りない創意工夫と技能は、お客様のアイデアを引き出す切っ掛けとなり、それは作り手と車両を受け取る側、双方との繋がりを示すものといえます。
そこには、私たちは単に自動車を製造し提供するだけの存在ではないこと。精巧なビスポーク製品を介して特別な体験価値を提供するものであることは、ロールス・ロイスが真のハウス・オブ・ラグジュアリーであることの意味を象徴しています。
加えて現在、ロールス・ロイスの本拠地グッドウッドでは、ビスポークの事業規模をより充実したものにすべるく鋭意、拡張を進めており、今後は世界で最も複雑で洗練されたビスポークのラグジュアリー製品を、より効率的にお届けしてまいります。
その皮切りとして、私たちの永遠のミューズであるスピリット・オブ・エクスタシーを称えるファントム・シンティラは、我々の理念を完璧に表現したものといえるでしょう」と述べた。
更にロールス・ロイス・モーター・カーズでビスポーク・カラー & マテリアル・デザイナーを務めるセリーナ・メッタン氏は、「かの有名なサモトラケのニケは、古代ギリシャのパロス島で採掘された、きめの細かい白い大理石で彫刻されています。純度の高さと輝きで知られるこの素材は、数センチの深さまで光が届くため、内側から輝いているかのような光沢を生み出します。
そこでファントム・シンティラでは、スピリット・オブ・エクスタシーにセラミック仕上げを施し、お馴染みのたおやかさと優美な雰囲気はそのままに、パリアン大理石の質感を巧みに表現しました。
これにより、ジョンソン氏とサイクス氏両者のビジョンを融合させたロールス・ロイスのアイコンが誕生しました。
私たちは、パリアン大理石の特質に魅了され、この素材を何か月にも渡って研究しました。かの有名な彫像との明確でエレガントな繋がりを生み出すために、この唯一無二の石が持つ透明感や純度を捉え、私たちのアイコンの優美な面影を宿すセラミック仕上げを新たに開発したのです」と説明した。
コーチドアとリアシートのファブリックに86万9,500ものステッチ刺繍
加えてロールス・ロイス・モーター・カーズでビスポーク・カラー & マテリアル・デザイナーを務めるカトリン・レーマン氏は、「ファントム・シンティラのエクステリアは、ビスポークのツートーン仕上げで、ボディ上部にはアンダルシアン・ホワイト。
ボディ下部には〝サモトラケのニケ〟の由来となったサモトラケ島を囲む海の色から着想を得たトラキアン・ブルーが配され、繊細なメタリックフレークが海面を照らす太陽光の輝きを模しています。
また手塗りのダブルコーチラインとスピリット・ブルーのホイール・ピンストライプが、優雅なエクステリアとしています。
対してインテリアは、スピリット・オブ・エクスタシーの表情豊かで躍動感のある姿にインスピレーションを得た、様々なデザイン要素、質感、連続的なグラフィックで彩られています。
これは、ビスポークのデザイナーと職人たちの緊密なコラボレーションの賜物です。グラフィックはキャビン全体に広がり、途切れることのないエネルギーの流れで乗る人を包み込みます。
私たちは水彩画のように見える単一のグラフィックを作り上げようと考え、これを〝糸による絵画〟と呼んでいます。
光沢を与えるために4つの異なる色、糸の太さ、様々な方向のステッチを織り交ぜました。これにより、ロールス・ロイスでは、これまでに探求したことのない領域をカバーし、これまでのロールス・ロイス車で最も密度の高い刺繍を実現しました」と語り掛けた。
スピリット・オブ・エクスタシーの優雅さ、躍動感、幻想的な美しさを表現
最後にロールス・ロイス・モーター・カーズでビスポーク・クラフト・スペシャリストとして務めるブライエニー・ダッドレー氏は、「これまでに述べられたアイデアを具現化するための同車に係る開発チームを率いたブリエニー・ダドリー氏は、数々のステッチや色合いの試作を経て、6層にわたって様々な密度で複雑に織り込む〝タタミ・ステッチ〟という技法に辿り着きました。
インテリア全体で、その要素は86万9,500ものステッチで構成されることになり、その制作時間は40時間以上に及びます。従って、このデザインを立体的に表現することは創造的挑戦だったのです。
刺繍のディテールや質感、触感を適切なレベルにまで高めるために、ビスポークのデザイン・チームと2年半以上にわたって緊密に協力し合う必要がありました。
レザーとファブリックという2つのキャンバスは、刺繍を施すとそれぞれ異なる表情を見せるため、更に複雑さが増しました。別々に刺繍を施した36種類のパネルを慎重にぴったりと合わせて配置することで、インテリア・スイート全体にシームレスで流れるようなモチーフを造り出すべく腐心しました。
ドアに施された刺繍のモチーフは、ブルー・グレー、アークティック・ホワイト、スピリット・ブルー、パウダー・ブルー、パステル・イエローの糸を組み合わせた約63万3,000ものステッチにイルミネイテッド・パーフォレーションを加える、これまでのロールス・ロイスで最も複雑なドア・デザインとなっています。
夜になると、刺繍は魅惑的な輝きを帯び、内側から光を放っているような趣を呈します。シートは、ほのかに反射する光沢のあるツイル生地仕立てで、インテリア内の素材の相互作用による表情に深みを与えます。
その結果、ブルー・グレー、アークティック・ホワイト、スピリット・ブルーの糸による約23万6,500に及ぶステッチは、4つのドアに展開された複雑なデザインを描くことになりました。
そんなファントム・シンティラのハイライトが、フロントのフェイシア全体に伸びる、ギャラリーを飾るビスポークのアートワークです。
〝セレスティアル・パルス(天空の鼓動)〟と名付けられたこの作品は、7本のリボンで構成され、それぞれが無垢のアルミニウムから削りだされた後、スピリット・オブ・エクスタシーの像と同じきめの細いセラミックで仕上げられています。エッジは光を取り込むように鏡のように磨き上げられ、動きと流動性を演出する仕上げとなっています」と結んでいる。