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2024年8月17日【新型車】

RR、フライング・レディをオマージュした限定車を発売

坂上 賢治

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ロールス・ロイスのプライベート・オフィスを通じて世界で限定10台販売

 

ロールス・ロイス・モーター・カーズ8月16日(英グッドウッド、ウエスト・サセックス発)は、プライベート・コレクションのファントム・シンティラ(Phantom Scintilla)を発表した。

 

このファントム・シンティラは、スピリット・オブ・エクスタシーの伝統、幻想的な美しさ、優雅さを讃えるため世界限定10台の限定コレクションとして仕上げられたもの。そのエクステリアのフォルム&インテリア空間の設えを貫くものは、スピリット・オブ・エクスタシーの優美なドレスの動きにインスピレーションを得たものだという。

 

ファントム・シンティラの源流となったスピリット・オブ・エクスタシーは、過去より1世紀以上に亘って、音楽から写真、映像に至るまで、数えきれないほどの芸術作品にインスピレーションを与えてきた存在だ。

 

 

その物語は、今を遡ること1910年、当時ロールス・ロイスのマネージング・ディレクターであったクロード・ジョンソン氏が、彫刻家でイラストレーターでもあったチャールズ・サイクス氏に、ロールス・ロイスのマスコットの制作を依頼した時に始まる。

 

その際ジョンソン氏は、パリへの旅行でルーブル美術館を訪れた時に、天から舞い降りた神の姿を表現した紀元前約190年の大理石のギリシャ彫刻「サモトラケのニケ」に大きな感銘を受けことに想いを馳せ、そのインスピレーションを活かしたいとの想いを伝えていた。

 

しかし、これを聞いたチャールズ・サイクス氏は、その彫像をマスコットに仕立てるには、あまりにも威圧的で適切な題材ではないと感じた。普段から旅することが多かったサイクス氏は、ロールス・ロイスの優雅でありながらも、さりげなさが包括した力強さを表現するには、より繊細で優美な姿の方が良いと提案したことが今日に於いても語られている。

 

 

そのクロード・ジョンソン氏が手掛けたロールス・ロイスのマスコットの原案は、今車両のグローブ・ボックスに隠れたようにエンボス・プレートに飾られている。

 

1910年に書かれたこの言葉は、プライベート・コレクション、ファントム・シンティラの本質〝スピードと静寂性、振動を感じさせない滑らかさ、神秘的に引き出される大いなるエネルギー、そして優雅さを備えた美しい生命体〟を見事に表現されている。

 

今回のロールス・ロイス設立120周年にもあたるビスポーク・コレクティブには、そんな「サモトラケのニケ」の魅惑的なイメージをさりげなく想起させるデザイン要素を取り入れ、当時ジョンソン氏が感じていた考え方を、例えばインテリアでは優雅なビスポークの刺繍などとして施し、スピリット・オブ・エクスタシーの躍動感を、ラテン語で「閃光」(一瞬だけ現れる明るい光)に由来する〝シンティラ〟と名付けられた。

 

 

大理石像にインスピレーションを得たフィギュアは精巧なセラミック仕上げ

 

そんな世界限定10台販売のファントム・シンティラについて、ロールス・ロイス・モーター・カーズで最高経営責任者を務めるクリス・ブラウンリッジ氏は、「プライベート・コレクションの発表は、我々にとっても心躍る瞬間です。世界に数台しか存在しないこれら希少で収集価値の高いクルマ達は、我々が世に送り出した歴代車両のの中でも真の傑作と言えるものであるからです。

 

これらのクルマに施した職人たちの限りない創意工夫と技能は、お客様のアイデアを引き出す切っ掛けとなり、それは作り手と車両を受け取る側、双方との繋がりを示すものといえます。

 

そこには、私たちは単に自動車を製造し提供するだけの存在ではないこと。精巧なビスポーク製品を介して特別な体験価値を提供するものであることは、ロールス・ロイスが真のハウス・オブ・ラグジュアリーであることの意味を象徴しています。

 

加えて現在、ロールス・ロイスの本拠地グッドウッドでは、ビスポークの事業規模をより充実したものにすべるく鋭意、拡張を進めており、今後は世界で最も複雑で洗練されたビスポークのラグジュアリー製品を、より効率的にお届けしてまいります。

 

その皮切りとして、私たちの永遠のミューズであるスピリット・オブ・エクスタシーを称えるファントム・シンティラは、我々の理念を完璧に表現したものといえるでしょう」と述べた。

 

 

更にロールス・ロイス・モーター・カーズでビスポーク・カラー & マテリアル・デザイナーを務めるセリーナ・メッタン氏は、「かの有名なサモトラケのニケは、古代ギリシャのパロス島で採掘された、きめの細かい白い大理石で彫刻されています。純度の高さと輝きで知られるこの素材は、数センチの深さまで光が届くため、内側から輝いているかのような光沢を生み出します。

 

そこでファントム・シンティラでは、スピリット・オブ・エクスタシーにセラミック仕上げを施し、お馴染みのたおやかさと優美な雰囲気はそのままに、パリアン大理石の質感を巧みに表現しました。

 

これにより、ジョンソン氏とサイクス氏両者のビジョンを融合させたロールス・ロイスのアイコンが誕生しました。

 

私たちは、パリアン大理石の特質に魅了され、この素材を何か月にも渡って研究しました。かの有名な彫像との明確でエレガントな繋がりを生み出すために、この唯一無二の石が持つ透明感や純度を捉え、私たちのアイコンの優美な面影を宿すセラミック仕上げを新たに開発したのです」と説明した。

 

 

コーチドアとリアシートのファブリックに86万9,500ものステッチ刺繍

加えてロールス・ロイス・モーター・カーズでビスポーク・カラー & マテリアル・デザイナーを務めるカトリン・レーマン氏は、「ファントム・シンティラのエクステリアは、ビスポークのツートーン仕上げで、ボディ上部にはアンダルシアン・ホワイト。

 

ボディ下部には〝サモトラケのニケ〟の由来となったサモトラケ島を囲む海の色から着想を得たトラキアン・ブルーが配され、繊細なメタリックフレークが海面を照らす太陽光の輝きを模しています。

 

また手塗りのダブルコーチラインとスピリット・ブルーのホイール・ピンストライプが、優雅なエクステリアとしています。

 

 

対してインテリアは、スピリット・オブ・エクスタシーの表情豊かで躍動感のある姿にインスピレーションを得た、様々なデザイン要素、質感、連続的なグラフィックで彩られています。

 

これは、ビスポークのデザイナーと職人たちの緊密なコラボレーションの賜物です。グラフィックはキャビン全体に広がり、途切れることのないエネルギーの流れで乗る人を包み込みます。

 

私たちは水彩画のように見える単一のグラフィックを作り上げようと考え、これを〝糸による絵画〟と呼んでいます。

 

光沢を与えるために4つの異なる色、糸の太さ、様々な方向のステッチを織り交ぜました。これにより、ロールス・ロイスでは、これまでに探求したことのない領域をカバーし、これまでのロールス・ロイス車で最も密度の高い刺繍を実現しました」と語り掛けた。

 

 

スピリット・オブ・エクスタシーの優雅さ、躍動感、幻想的な美しさを表現

最後にロールス・ロイス・モーター・カーズでビスポーク・クラフト・スペシャリストとして務めるブライエニー・ダッドレー氏は、「これまでに述べられたアイデアを具現化するための同車に係る開発チームを率いたブリエニー・ダドリー氏は、数々のステッチや色合いの試作を経て、6層にわたって様々な密度で複雑に織り込む〝タタミ・ステッチ〟という技法に辿り着きました。

 

インテリア全体で、その要素は86万9,500ものステッチで構成されることになり、その制作時間は40時間以上に及びます。従って、このデザインを立体的に表現することは創造的挑戦だったのです。

 

刺繍のディテールや質感、触感を適切なレベルにまで高めるために、ビスポークのデザイン・チームと2年半以上にわたって緊密に協力し合う必要がありました。

 

レザーとファブリックという2つのキャンバスは、刺繍を施すとそれぞれ異なる表情を見せるため、更に複雑さが増しました。別々に刺繍を施した36種類のパネルを慎重にぴったりと合わせて配置することで、インテリア・スイート全体にシームレスで流れるようなモチーフを造り出すべく腐心しました。

 

ドアに施された刺繍のモチーフは、ブルー・グレー、アークティック・ホワイト、スピリット・ブルー、パウダー・ブルー、パステル・イエローの糸を組み合わせた約63万3,000ものステッチにイルミネイテッド・パーフォレーションを加える、これまでのロールス・ロイスで最も複雑なドア・デザインとなっています。

 

 

夜になると、刺繍は魅惑的な輝きを帯び、内側から光を放っているような趣を呈します。シートは、ほのかに反射する光沢のあるツイル生地仕立てで、インテリア内の素材の相互作用による表情に深みを与えます。

 

その結果、ブルー・グレー、アークティック・ホワイト、スピリット・ブルーの糸による約23万6,500に及ぶステッチは、4つのドアに展開された複雑なデザインを描くことになりました。

そんなファントム・シンティラのハイライトが、フロントのフェイシア全体に伸びる、ギャラリーを飾るビスポークのアートワークです。

 

〝セレスティアル・パルス(天空の鼓動)〟と名付けられたこの作品は、7本のリボンで構成され、それぞれが無垢のアルミニウムから削りだされた後、スピリット・オブ・エクスタシーの像と同じきめの細いセラミックで仕上げられています。エッジは光を取り込むように鏡のように磨き上げられ、動きと流動性を演出する仕上げとなっています」と結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。