ロールス・ロイス・モーター・カーズ(本社:英ウェスト・サセックス州グッドウッド、CEO:トルステン・ミュラー・エトヴェシュ)は、2016年に常設のビスポーク・モデルとして「ブラック・バッジ」を披露したが今回、英国時間の10月28日、同シリーズを象徴する新型車を発表した。(坂上 賢治)
それはミニマリストの心を捉えるポスト・オピュレンス(脱贅沢)をブラックのカラー表現で昇華させたモデルであり、ルールを破り、リスクを冒し、古い因習に挑んで成功を収めるような「反逆心を尊ぶ」顧客に向けたクルマだという。
ちなみにロールス・ロイスにとって、こうしたブラック・バッジモデルは、過去の製品ラインの中でも大きな成功を収めてきたモデルラインナップであり、現在も世界のロールス・ロイスの全受注比率上で27パーセントを超えるという。そもそもそんな常設ビスポークモデルを代表するクルマと言えば「ファントム」があるが、 その後の2016年に、新たなブラック・バッジ・モデルとして「レイス」と「ゴースト」がデビューした。
このゴーストは、〝俊敏かつ控えめで余分なデザインを施さないロールス・ロイス〟をという顧客の要望に応えて開発されたクルマで、当時、発表12ヶ月間に於いて世界から3500台以上の受注を獲得。ロールス・ロイス史上、最も早いスピードで売り上げた新型車のひとつとなった。続く2017年には「ドーン」を。さらに2019年には「カリナン」を発表。その一連の動きの中で、着実に進化を果たして登場したのが今発表のブラック・バッジ・ゴーストだ。
そんなブラック・バッジモデルも、先のゴーストと同じく、ミニマリズムさを徹底的に追求したリダクション(削減・縮小)と、サブスタンス(実質) をテーマに。優れた素材を厳選搭載したミニマリズム感を表現。控えめながらも知性を感じさせるデザインとなっている。
車体骨格は、ロールス・ロイスが〝アーキテクチャー・オブ・ラグジュアリー〟と呼ぶオールアルミ製のスペースフレーム構造であり、同フレームは極めて高いボディ剛性を実現しているだけでなく、その持ち前の柔軟性により、四輪駆動システムや四輪操舵システム、タイヤと路面の微細な路面入力を拾い上げて抑え込むプラナー・サスペンション・システムの搭載に応える。
これにエアダンパーを組み合わせる事でコーナリング時のボディロールを効率的に抑える。搭載エンジンは最高出力600ps(441kW)、最大トルク900Nmのツイン・ターボ付き6.75リッターV12エンジンを搭載。これにZF製8速ギヤボックスを組み合わせた。ちなみに最大トルクはわずか1700rpmという低エンジン回転域から発生する。静止状態から時速100キロに到達タイムは4.7秒。
ブラック・バッジのボディサイズは全長5546×全幅2148×全高1571mm、ホイールベースは3295mmという数値。エクステリア面では44000色ものカラー・パターンの中から自由にボディカラーを選択し、自分 だけのオリジナルカラーをオーダー出来るのだが、多くの顧客はシグネチャー・カラーのブラックの一択を選択するため、販売車両の多くは45キログラムもの塗料を電着塗装させた上でオーブン内で乾燥。その後、2層のクリア・コートを施しつつ4人の職人の手で磨き上げてハイグロスなピアノカラーを作り出す。
この深みのあるブラックは、ハイ・コントラストな手塗りのコーチラインを描くための完璧なキャンバスとしての役割も担っており、ロールス・ロイス・モーター・カーズ・ファ ミリーの鮮やかさを印象づけるものとなっている。
またその独特のダーク感は、本来は鏡面に磨き上げられる〝スピリット・オブ・エクスタシー〟や〝パンテオングリル〟などのロールス・ロイスの特徴的な部分をも覆い尽くす。但しこれらのパーツは単に黒く塗装が重ねられるのではなく、元々のクロームメッキ工 程に特殊なクローム電解液を導入。ステンレス・スチール製の下地に共析させてダーク仕上げとされる。
エクステリアの仕上げには、ブラック・バッジ・ゴーストの専用デザインが施されたビスポーク21インチのコンポジット・ホイールが装着される。そのバレル部分には22層のカーボン・ファイバーを3方向に交差させて配置したものを使用しており、これをリムの外周で折り返すことにより合計44層の カーボン・ファイバー層で強度を高めた。3D鍛造のアルミニウム製ハブは、航空宇宙分野規格のチタン製ファスナーでリムに固定され、ロールス・ロイスの特徴的なフローティング・ハブ・キャップも付属する。
インテリアでは、スイートと呼ぶに相応しい雰囲気を醸し出すべく、カーボン・ファイバーとメタ リック・ファイバーを使った深みのあるダイヤモンド・パターンの複雑かつ、繊細な生地がロールス・ロイスの職人たちの手によって生み出される。
インテリア・パーツのベース部分には、複数のウッド・レイヤーを圧着させ、そこにテクニカル・ファイバーの層のための基盤となるブラックのボリバル・ベニアを使用。ベニアの固定のため100度の温度下で1時間圧着して硬化させる。
これにレジン・コーティングされたカーボンとメタ リック・ファイバーと、メタル・コーティングされた糸をダイヤモンド・パターンで織り込んだ生地を手作業で貼り合わせて立体感を演出する。その後、サンド・ブラストと6層のラッカーを使い手作業でサンディングとポリッシュを行なった後、車両に組み込む。
なお室内は総じてブラック・バッジ・ゴーストのノワールな雰囲気を高めるため、金属光沢の部品を減らす選択を行い、ダッシュボードや後部座席のエア吹き出し口は経年劣化や反復使用によって部品が変色したり変質したりしないよう金属着色法のひとつである物理蒸着法(PVD)を使って暗色化されている。
ダッシュボードの助手席側に配 置された星座のモチーフは、ルームライトが点灯していない時は見えないようになっ ている。また「ゴースト」と同じく、キャ ビンの時計や計器盤の照明に合わせて念入りに調整されている。個別型リヤ・シートのテクニカル・ファイバー製「ウォーター フォール」部分には、ブラック・バッジ・ファミリーのモチーフである無限の可能性を表す数学記号の「レムニスケート(極座標の方程式を表す曲線)」があしらわれる。