パナソニックの楠見雄規CEO
パナソニックの楠見雄規CEOは5月27日、オンライン会見を行い、パナソニックグループが目指す今後の方向性について説明した。楠見CEOは2021年4月1日付で同職に就任し、6月24日付でパナソニック社長に就任する予定で、経営方針を説明するのは今回が初めてとなる。津賀一宏社長はパナソニックを「くらしアップデート」の企業にするという目標を掲げ、単品の家電を売る発想からの脱却を狙ったが、楠見CEOはどんな経営を目指そうとしているのか。(経済ジャーナリスト・山田清志)
トヨタの日々カイゼンを見習え
楠見CEOが会見で真っ先に強調したのは、それぞれの事業領域での「専鋭化」だ。「今後2年間は、すべての事業において、攻めるべき領域を定め、そこでの競争力を徹底的に高めていく。そのために、戦略とオペレーション力を両輪として、その強化に取り組んでいく」とし、2021年度はとくにオペレーション力の強化にグループあげて取り組んでいくという。
地球環境問題解決への貢献
それも当然だろう。どのセグメントもパッとせず、2020年度の決算を見ても減収で、利益率も低い。売上高は30年前の水準とあまり変わらないのだ。ライバルのソニーに業績も株価も大きく差をつけられてしまった。
「圧倒的な競争力を身につけることが不可欠。そこで大きなポイントになるのが、改善に次ぐ改善である。そこには2つの取り組みがある。ひとつはムダや滞留の徹底的な撲滅により、社会から預かった経営リソースを最大限有効活用することである。1秒1滴のムダに気がつき、それをなくす改善を続ける。もう一つは、お客さまにとっての本質な価値を起点に、理想の未来を見据えた高い目標を掲げ、その実現に向けて日々力を磨き上げていくことである。新たな時代をリードする商品を開発したり、その商品の普及を加速するために圧倒的なコスト力を実現することにつとめることだ」
楠見CEOはこう話し、創業者の松下幸之助氏が1930年代に「従来より半値で、より多くの家庭にラジオを届ける」として、ラジオの原価半減を実現したことを例に挙げた。いわゆる松下氏が唱えた「水道哲学」で、水道の水のように良質なものを低価格で消費者に行き渡るようにしようという思想だ。
「パナソニックには本来、そうした伝統がある。この考え方を、すべての事業の現場に改めて徹底し、オペレーション力や商品性能、環境性能など、事業ごとの明確な目標を設けて改善に取り組んでいく。これによって、事業の競争力を高め、それぞれの事業を業界ナンバーワンにしていきたい」と楠見CEOは強調する。
オペレーション力の強化
楠見CEOは前職がオートモーティブ事業の担当者で、トヨタ自動車と3年間一緒に仕事をしてきた経験を持つ。そこで、トヨタの“カイゼン”のすごさを目の当たりした。「日々改善することが現場まで浸透しており、この状況そのものが戦略になっていると感じた。パナソニックもそれを見習っていかなくてはならない」
こう話す楠見CEOによると、パナソニックの場合、一定の利益を出している事業の中に、それに満足して、改善が止まっていることがあるそうだ。そういった風土を変えることによってオペレーション力を高め、収益の向上につなげようというわけだ。
2030年までにすべての事業所でCO2排出量ゼロに
もう一つ楠見CEOが優先事項として取り組むべきこととしてあげたのが、地球環境問題の解決への貢献である。パナソニックは1991年に、世界に先駆けて「松下環境憲章」を制定。2017年には「環境ビジョン2050」を発表している。
その中で、使うエネルギーの削減とそれを超えるエネルギーの創出、活用を進め、2050年までに「創るエネルギー」が「使うエネルギー」を上回ることを宣言している。そして、楠見CEOは「気候変動問題の解決に大きな貢献を果たすリーディングカンパニーなる」とし、「2030年までにすべての事業会社で、自社での生産に使うCO2排出量を実質ゼロにするという目標を新たにコミットする」と強調した。
エナジー
CO2排出量ゼロは、省エネと再生可能エネルギーなどによる発電の組み合わせで実現する。すでに再生可能エネルギーの100%化はグローバルの5拠点で行っている。22年4月からは草津工場(滋賀県)でも、水素が燃料で発電時にCO2を排出しない新型燃料電池を中心とする発電システムを設置し、太陽光発電や蓄電池を組み合わせて、製造工程の使用電力をすべて賄うようにする。
「草津工場がショーケースとなり、実証を重ねながらRE100ソリューション事業として磨き上げていく。同様の拠点を積極的に増やしていく」と楠見CEOは話し、そのシステムを保守・運営まで含めたビジネスとして展開していくこと狙っている。
また、省エネでは、71億ドル(約7700億円)を投じて年内に買収する米ブルーヨンダーの技術を活かす。同社が手がけるAIを通じた需要予測などから最適なサプライチェーンを提案するソフトウェアを全社で活用して、ムダなものをつくらないことで廃棄や滞留を減らし、環境負荷を低減する。
そのほか、テスラ向けの円筒形車載電池について、楠見CEOは「テスラの急激な需要変動に対応するためのモノづくりのオペレーション力が十分ではなかった。2021年度は北米工場の生産ラインを増強し、オペレーション力を徹底的に磨き、業界をリードする原価力を実現しながら、生産能力の向上力を図る」と話す。
記者会見では、終始表情が硬かった楠見CEOだったが、質疑応答で一度だけ表情が崩れたときがあった。それは、「くらしアップデート」についての質問が飛んだときだった。「いま目の前に津賀社長がおられますので、なんというか、どう答えたらいいか」と苦笑いしながら「それ進化させるとしたらどういう姿になるのか具現化していく」と答えた。
各事業についての具体的な取り組みについては、現在検討を深めている段階で、22年5月頃に予定している新体制での中長期戦略のなかで詳しく説明するそうだ。そのときに、楠見CEOの経営のカラーが出てくるだろう。