日産の内田誠社長
3社のアライアンス、2030年までに新型EV35車種を投入
日産自動車、三菱自動車、仏ルノーのアライアンス3社の首脳が1月27日、オンラインで記者会見を開き、2030年までに35車種の新型電気自動車(EV)を投入すると発表した。(佃モビリティ総研・松下次男)
会見冒頭に、アライアンス会長のジャン・ドミニク・スナール氏は電動化を加速させるため、3社は「今後5年間で230億ユーロ(約3兆円)を投資する」と表明。これまで投資してきた電動化への投資額100億ユーロから大幅に積み上げる。
3社の連携も着実に進展しているとし、ルノーの欧州工場で日産のマイクラ(日本名マーチ)後継の新型コンパクトEVや三菱自ブランドの新型2車種を生産、販売する方針を明らかにした。
アライアンス会長のジャン・ドミニク・スナール氏
EVを巡っては、世界の主要自動車メーカーの積極的な投入計画発表が相次いでいる。トヨタ自動車も2021年末に2030年度のEV販売目標を従来の200万台から350万台に大幅に上乗せしたBEV戦略を公表した。
すでに自動車分野の時価総額ではEV専業の米テスラ―が断トツとなっており、世界の主要国の2050年カーボンニュートラル宣言に合わせ、ますますEVシフトの動きが鮮明になっている。
こうした中で、ルノー、日産、三菱自のアライアンス3社が新たなEV戦略を公表。激化するEV競争へ打って出ることになった。課題は計画をどう成果へとつなげるかだろう。
3社協業による「リーダーとフォロワー」は着実に浸透している
3社協業によるEV戦略の特長は、それぞれの文化、強みを生かし、分業・協力、効率的な開発、生産体制を目指している点だ。
代表的なものが2020年5月に発表した3社協業のビジネスモデル「リーダーとフォロワー」。車種や地域ごとに、1社が主導し、他はこれを有効活用する。
今回の会見でもこの取り組みは「着実に浸透している」とし、EV戦略ではこれをさらに深化させる。
3社アライアンスのEV商品化では、5つのEV専用プラットフォームを開発、活用する。具体的には、新型ダチア「スプリング」のベースとなっている「CMF―AEV」や「軽専用」「LCV(小型商用車)EV専用」のプラットフォーム。
三菱自動車工業の加藤隆雄社長
それに日産「アリア」などグローバルに展開するフレキシブルなEVプラットフォームの「CMF―EV」とコンパクトEV用の「CMF―BEV」を開発する。主力のCMF―EVプラットフォームは2030年までに15車以上のEVに採用され、最大で年間150万台の生産を計画する。
CMF―BEVは2024年に投入する予定で、最大航続距離400キロメートルが可能な空力特性を実現し、コストも現行のルノー「ゾエ」と比べて33%低減できるなど、非常に競争力の高いものになるという。
ルノーや日産などが投入計画する年間26万台分のEVのベースになる。
課題は共有化、分担がスムーズに展開できるかにある
日産がマイクラの後継として欧州に投入する新型コンパクトEVは同プラットフォームをベースにルノーが開発、日産がデザインする。生産は仏北部のルノー・エレクトリシティで行う。
これらにより3社アライアンスはプラットフォームの共有化率を現在の60%から2026年には合計90車種80%以上へ高める。
課題はこのような共有化、分担がスムーズに展開できるかだ。
これに対し、日産の内田誠社長はプラットフォームや生産工場、車種セグメントなどの共用化の度合いを定めた「スマート差別化」手法を開発し、効率、効果的な商品化プロセスが可能になったと強調した。
しかも協業することにより「低コストで、イノベーションを推進できる」とし、最終商品は「それぞれ各社独自の魅力あるモデルになる」と自信を示した。
アライアンスの連携についてもスナール会長はカルロス・ゴーン退任の後、一時期、信頼関係が欠如していたことを認めたうえで、「それは過去の話。今や協力関係は高い」と大きく改善していると述べた。
電動化に向けた技術面では、共通のバッテリー戦略を強化し、全固体電池(ASSB)の開発を日産がリードするとした。ルノーは一体型の共通電気・電気アーキテクチャーの開発やソフトウェアの定義を主導する。これによりスケールメリットを生かし、バッテリーでは2026年までにコストを半減し、2028年には65%削減することを目指す。
日産主導で開発するASSBについては2024年に横浜工場でパイロットプラントを稼働させたあと、2028年に量産し、アライアンス各社へ供給する計画だ。
現段階は日産、三菱自も欧州向けEVの発表が中心に
ただ、量産に向けてどのようなプロセスを歩むか、サプライヤーへ外部委託するなどの言及はなかった。
日産は日米英などでEV用バッテリーをエンビジョンAESCグループと組んで生産するが、本格的なEV量産に向けて、新たなサプライヤーとの協業なども課題となるだろう。
それと今回のEV戦略発表で目立つは欧州事業が主体になっている点だ。国策で欧州主要国の脱ガソリン車の動きなどが先行していることもあるが、日産、三菱自動車も今回は欧州向けEVの発表が中心となった。
日産のアシュワニ・グブタCOO
日産のアシュワニ・グブタCOOは欧州市場向けに投入するマイクラ後継の新型コンパクトEVについて「EV」専用とし、ガソリン車などは設けない方針を示した。加えて、マイクラ後継となる他市場への投入計画については言及しなかった。
三菱自動車の加藤隆雄社長はルノーの量販車種をベースに新型車2車種を欧州市場に投入し、欧州市場開拓に再チャレンジすることを表明。アライアンスを活かし、生産も「ルノーの工場を活用する」と話したが、具体的にどの工場かは「今後、話し合って検討する」と述べるにとどめた。
3社アライアンスはコネクテッドでも共通化を拡大、推進する。ルノーのルカ・デメオCEOはグーグルのアンドロイドをベースに2025年までに「ソフトウェア定義された車両を発売する」ことを表明。
ルノーが技術開発をリードして電子機器のハードウェアとソフトウェアのアプリケーションを統合し、一体型の共通電気、電子アーキテクチャーを開発。クルマのライフサイクル全体を通じて「OTA(オーバー・ザ・エアー)のパフォーマンスを向上させる」意向だ。