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2019年12月2日【アフター市場】

日産自動車の内田誠社長、COOを率いて就任会見を開く

坂上 賢治

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 日産自動車株式会社(本社:神奈川県横浜市西区、代表執行役兼最高経営責任者:内田 誠)は12月1日付で社長兼最高経営責任者(CEO)に東風汽車有限公司・総裁として活躍した内田誠氏が就任。その翌日となった2日の午後5時から同社横浜グローバル本社で社長就任会見を実施した。(坂上 賢治)

 

 

 同社は、元会長のカルロス・ゴーン氏が羽田空港で拘束・逮捕されてから1年の刻を刻んだ。しかしその日産自動車の経営を引き継いだ西川氏は、その1年間という期間、事業経営の舵取りに苦しんだ。

 

それは同社の株式の約4割を握るルノーとの連携ばかりではなく、肝心の収益でも、2020年3月期の連結純利益が1100億円と前期比66%減の見通しとなり、新車の販売不振に伴う業績の悪化。またこれからの自社の行く末で、どのような舵取りを行うかといった経営上の混乱すら充分に収束させることが出来ていない。

 

 また低迷したのは車両販売だけではない。事業のコストセンターである工場の稼働率も平均69%に達するなどで、世界14工場で生産能力を減らし、全従業員の約10%にあたる1万2500人を削減すると既に発表されているものの、同計画の実行も相応の痛みが伴うため、経営者の勇気と英断を必要とする。

 

 

いずれも何よりの課題は、以下の1点に尽きる。それは今回のCEO、COO、副COOというトロイカ体制による経営スタイルだ。集団指導体制を聞くと聞こえは良いが、3名による経営スタイルで、スピード感ある決断が果たして実行できるかどうかに懸かっている。

 

 結局、どれだけ大きな航空機であっても、操縦の決断は機長の英断に懸かっており、自動車を運転するのも常識的にはひとりのドライバーがその責務を担う。

 

巨大な国際企業を操縦するには、強い意志とスピード感ある決断が問われる場面が必ず出てくる。その裁断を、内田CEOが迷う事無く実行できるのか。合意体制のバランスを取りながらも自らの経営哲学を活かせるのかに日産の行方は握られている。

 

 

新CEO 就任スピーチは以下通り

 

 この度、 12 月 1 日付で社長に就任致しました内田です。まずこの1年、当社は大きな混乱を来たし、世間の皆様をお騒がせしましたこと、厳粛に受け止めております。

 

私は、日産が創立 70 周年を迎えた2003年に入社致しましたが、当時の社会人になって約10年の私から見ていても、日産は大きな存在でした。

 

日本経済をけん引する自動車メーカーであり、ルノーとのアライアンスによって、ダイナミックに拡大展開するグローバル事業は新しい日本企業の今後のあり方を示していると感じていました。

 

そして、これまでの日本の企業としての強みと、アライアンスによるグローバルな価値観を併せ持つ日産に、大きく飛躍する可能性に魅了され、日産に入社しました。

 

 ルノー・日産共同購買組織での仕事が、日産でのキャリアのスタートとなりましたが、今申し上げたことをまさに肌で感じました。また、日産社員一人ひとりの能力や多様性への順応力の高さ、大きな目標を信じて前に進む力強さを感じました。

 

私が入社して以降、現在までの間に於いて、日産自動車は着実に成長を遂げましたが、その中でアライアンスは大きな貢献をしてきました。

 

部品や資材の共同購買、車台やパワートレイン、部品の共用化、人材の活用などの、様々な成果を生み出しました。

 

しかし、国内工場における完成検査問題や経営者不正が明らかになり、事業の運営上の問題や脆弱なガバナンスなど、大きな問題が表面化しました。

 

これにより、企業としての社会的な信頼を失うだけでなく、計画を推し進めた結果、急激な業績低下を招いてしまいました。何故、日産がこれまでの成長の過程で、こうした問題を起こしたのか。

 

 日産は、これまでもクルマの技術の本質を追求し続ける一方で、一つの価値観にとらわれることなく多様な意見をみとめ、先進的な商品の開発に、他社に先駆けて挑戦し、数多くの「ブレークスルー」を起こしてきました。

 

その精神を受け継ぎながら、グローバル競争に打ち勝つべく、アライアンスという経営面での新たなブレークスルーを起こし、1990 年代の経営危機を乗り越え、再び成長軌道に戻す事に成功しました。

 

決して経営戦略、事業戦略などに誤りがあったとは思いません。しかし、その運営過程に於いて、企業文化に関わる問題が生じてきたのではないかと私は思っています。目標設定上で「出来ないことを出来る」と言わせてしまう文化をいつの間にか作り上げてしまった事であると思います。

 

これにより、社員の自発的な横の連携や、問題解決に対する意欲を削いでしまい、成長目標達成のために短期的成果を求めた行動を起こす事となり、技術開発や商品開発のプロジェクトや、将来に向けた設備や人材などへの必要な投資に影響を及ぼす事となりました。

 

販売面に於いては、インセンティブに頼った短期的な販売増が、ブランド力と収益力の低下を招きましたが、これは、その典型的な事例です。

 

 本日より新しい体制がスタートしましたが、私と、COOのグプタ、副 COOの関を柱とした経営体制で議論を尽くして事業運営にあたっていきます。

 

 

 私は大切にしている言葉が 3 つあります。それは、“尊重、透明性、信頼”です。ルノーの仲間やサプライヤーの皆さんと進めてきた購買での経験、中国の合弁会社の総裁を務める中でも、改めてこの言葉の重要性を確信しました。

 

部下を信頼し、権限移譲を進め、役員・従業員全員が会社の方向性を自分の事として捉えて取り組む「ONE TEAM」の風土を醸成し、社員にとって透明性の高い業務運営を行います。

 

お客様、販売会社、やサプライヤーの皆さまをはじめ、広く社内外の声にも耳を傾けて、意見が言い合える、異論や反論が許される会社風土を作っていきたいと思います。

 

このような考え方が企業の体質として浸透するように、日産の経営陣及び社員の行動指針である「Nissan Way」を見直し、確実な浸透に向けてリードします。

 

 先ほども申し上げましたが、日産の社員の持つ力、能力は高いと信じています。グローバル化を推進する事業運営、CASE に代表されるモビリティの在り方に関する社会的な変化への積極的な対応、どれも間違いない方向性です。

 

しかし、それに向けた進め方、目標設定には現状の実力の認識とそこからどこまで頑張って伸ばせるかの論議を充分に尽くし、納得した「チャレンジできる目標」を設定することが大事だと思います。

 

これまで、日産が基本的に変わらなければならない部分について説明をしてきましたが、信頼の回復と業績の立て直し、という足元の現実的な課題にも対処しなければなりません。

 

私の役割は、前経営陣がこの 1 年間かけて築き上げた信頼の回復と業績の立て直しの基礎を、実行に移して形にしていくことです。当社は、今年 6 月には指名委員会等設置会社に移行しました。

 

事業運営は私たち執行側がこれまで通り責任を持って行ってまいります。そしてその事業運営を健全に保つために取締役会にはしっかりモニタリングをして頂きたいと思います。

 

 私は、この原則をしっかり守り、CEO として会社経営のかじ取りを行います。 また業績の立て直しに関しては、既に皆さまにお知らせしている通り、「米国事業の立て直し」、「事業及び投資効率の適正化」と「新商品、新技術や NIM を軸にした着実な成長」を柱とする事業構造改革に取り組んでいます。

 

 

「米国事業の立て直し」と「事業及び投資効率の適正化」については、先の決算会見でご説明した通り、着実に進めております。

 

 この計画は、効率化・リストラとよく理解されがちですが、この事業改革のもっとも重要な柱は、3 つ目の「新商品、新技術や NIM を軸にした着実な成長」で描く将来の成長戦略です。

 

つまり計画通りにしっかりと新車開発を行い、お客さまが適正なタイミングで適正な価格でお買い求め頂ける魅力的なクルマを提供し続けられる体制を作るという事です。つまりは「お客様第一」を全ての日産の企業活動の根幹に戻すことです。この言葉の持つ意味の大きさは、昔も今も変わりありません。

 

そしてその先、大きな事業の変革への準備を強化するため、新たな計画策定に向けた準備に着手しました。これは、私が直接指揮をとり、進めてまいります。これら事業の立て直し、そしてその先の着実な成長には、アライアンスの活用は欠かせません。

 

 約 20 年前、イコールパートナーとして、お互いを尊重し、Win-Win の原則のもと、更に双方のメリットを追求しながら協力関係を深めた結果、日産はここまで成長出来ました。今後もこの原則に従い、会社の独立性を保持しながら活動を進めていきたいと考えています。

 

ちょうどこのステージにフェアレディ 240Z があります。このモデルも当時、スポーツカー市場にブレークスルーを起こしました。そして50年たった今、このアリヤコンセプトで EV や SUV の枠組みに捕らわれない、新しいクルマや将来のモビリティの実現に向けたブレークスルーを提案いたします。

 

お客さまに常に新たな価値をご提案する、そのためにチャレンジし、ブレークスルーを果たす、私たち日産にはクルマづくりの DNA、グローバル競争に打ち勝つためのアライアンスの活用という新たな事業プラットフォームなど、先達が築いた強い基礎があります。

 

この財産を大切に受け継ぎながら、これからも変化する事業環境を見越して、挑戦を続けます。「時代に先駆けて挑戦し続ける日産」ならではの価値をお客様に提供すると共に、将来のモビリティのあり方を提案し、その実現に向けて取り組み続け、従業員が日産で働くことに誇りを持てる会社を目指します。

 

 そうなれば、きっとお客さまも日産を信頼し、好きになって頂けると私は信じています。従業員が持つ高い能力を一つにまとめ、会社として大きな推進力を生み出す、当たりまえの事です
が、これが社長として私の大きな使命だと考えます。

 

ここにいるメディアの方々をはじめ関係者の皆さまの暖かいご支援を今後ともよろしくお願いします。

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新CEO、COO、副COOの経歴は以下の通り

 

 

内田 誠(うちだ まこと)氏
代表執行役社長兼最高経営責任者
1966年7月 生

 

学歴:1991年 3月 同志社大学神学部 卒業

 

職歴
1991年 4月 :日商岩井株式会社 入社
2003年 10月 :日産自動車株式会社 入社
2006年 4月 :同社 RNPO 主担
2012年 9月 :ルノーサムソン自動車会社
2014年 4月 :日産自動車株式会社 プログラム・ダイレクター
2016年 11月 :同社 常務執行役員(CVP) アライアンス購買 担当
2018年 4月 :同社 専務執行役員、東風汽車有限公司 総裁
2019年 4月 :同社 専務執行役員、中国マネジメント コミッティ(MC CHINA)担当、東風汽車有限公司 総裁
2019年 5月 :同社 専務執行役員、中国マネジメント コミッティ(MC CHINA)議長、東風汽車有限公司 総裁
2019年 12月 :同社 代表執行役社長兼最高経営責任者

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Ashwani Gupta(アシュワニ グプタ)氏
代表執行役最高執行責任者兼チーフパフォーマンスオフィサー1970年9月 生

 

学歴:1992年 6月 ジャワハルラール・ネルー工科大学(インド) 卒業

 

職歴
1996年 4月 :ホンダシエルカーズインディア・リミテッド 入社
コモディティ バイヤー
2006年 4月 :ルノー入社
ルノー・インディア購買担当 ゼネラル マネージャー
2008年 5月 :RNPO(共同購買本部)ブレーキ・シャシー部門
グローバル サプライヤー アカウントマネージャー
2009年 9月 :Renault Nissan B.V.
グローバル購買担当 デピュティゼネラルマネージャー
2011年 5月 :日産自動車株式会社
ダットサン担当 グローバル プログラム ダイレクター
2014年 4月 :ルノー
LCV(小型商用車)ビジネス部門 バイスプレジデント
2017年 4月 :ルノー・日産
ルノー・日産アライアンス LCV(小型商用車)ビジネス
アライアンス シニアバイスプレジデント
2018年 4月 :ルノー・日産・三菱
ルノー・日産・三菱 アライアンス LCV(小型商用車)ビジネス
アライアンス シニアバイスプレジデント
2019年 4月 :三菱自動車工業株式会社 COO
2019年 6月 :同社 代表執行役COO
2019年 12月 :日産自動車株式会社
代表執行役最高執行責任者兼チーフパフォーマンスオフィサー

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関 潤(せき じゅん)氏
執行役副最高執行責任者
1961年5月 生

 

学歴:1984年 3月 防衛大学校理工学専攻機械工学専門課程 卒業

 

職歴
1986年 4月 :日産自動車株式会社 入社
1999年 7月 :同社 パワートレイン生産技術本部 パワートレイン生産技術部 主担
2001年 8月 :北米日産会社 出向管理職
2006年 4月 :日産自動車株式会社、パワートレイン生産技術本部 パワートレイン技術統括部 主管
2007年 4月 :同社 生産事業本部 生産企画部 主管
2009年 4月 :同社 プログラム・ダイレクターオフィス プログラムダイレクター
2012年 4月 :同社 執行役員
MC-ASIAサポート、日本/アジア事業統括室、国内ネットワーク戦略部、グローバル資産管理部、関係会社管理部、マリーン事業管理室 担当
2013年 4月 :東風汽車有限公司 副総裁
2014年 1月 :日産自動車株式会社 常務執行役員 中国マネジメントコミッティ(MC China) 担当、東風汽車有限公司 総裁
2014年 4月 :同社 専務執行役員 中国マネジメントコミッティ(MC China) 担当、東風汽車有限公司 総裁
2018年 4月 :同社 専務執行役員、アライアンス SVP、生産技術 担当
2019年 5月 :同社 専務執行役員、パフォーマンスリカバリー 担当
2019年 12月 :同社 執行役副最高執行責任者、パフォーマンスリカバリー、グローバル商品企画、グローバルプログラム マネジメント、グローバル市場情報、ビークル インフォメーション テクノロジー、ニューモビリティーサービス

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。