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2023年2月9日【新型車】

BEVクーペのスペクター、200万kmの開発テストを消化

坂上 賢治

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現在、南アフリカでの過酷な高温環境テストに突入

 

ロールス・ロイスのBEVクーペ〝スペクター( Spectre )〟は2月8日( 英国時間 )、同社118年の歴史の中で最も過酷なテストプログラムの第3段階を完了。これにより、ほぼ200万キロの走行テストを消化した。

 

 

この長距離テストについてロールス・ロイスのトルステン・ミュラー・エトヴェシュCEOは、「ロールス・ロイス初のBEVとなったスペクター は、当ブランドの歴史上に於いて技術に係る領域での新しいパラダイムシフトを表すだけでなく、我々のブランドの未来像を示しています。

 

そんなスペクターのクルマづくりに取り組んだロールス・ロイスのエンジニア達の仕事は、単にいつも通りの新型車をテストするという取り組みでは無く、これまで歴史を刻んできた自動車という工業製品の卓越性に関して、既存のベンチマークを更に高めていく作業となりました」と述べた。

 

世界を股に掛けた約200万キロメートルのテストが既に完了

 

また同じくロールス・ロイスのエンジニアリング・ディレクターであるDr.ミヒアル・アヨウビ氏は、「これまでのロールス・ロイスの足跡を再定義するに値するスペクターは、118年の歴史の中でも最も厳格なテスト プログラムの第3段階をようやく完了。現在ほぼ200万キロを走行しました。

 

 

これによりスペクターの車両開発テストプログラムは、過酷さに於いては歴代ロールス・ロイス車づくりで手掛けてきた多様なテスト内容を既に上回っています。しかしそれでも道半ば、テスト完了に至るには、ほど遠い状態にあります。それ程、我々はこのスペクターの開発に熱を入れているのです。

 

そもそもスペクターは、約400年間の通常使用が再現出来るよう設計された様々な試験を潜り抜ける必要があります。結果、同車は延べ累積で250万キロメートル以上を走行しなければなりません。それは地球62周分に相当します。

 

テストプログラムの皮切りは厳寒の北極圏近隣の試験施設から

 

そんなテストプログラムは、まず北極圏から僅か55キロ離れただけのスウェーデン・アリエプログにある特別な試験施設で2021年の冬に開始されました。

 

このマイナス40度の気温下で、スペクターのパフォーマンスと雪や氷でのハンドリング性能を調査して改良を加えました。また長時間の極寒が、蓄電池やその他の電子システムに与える影響も調べ上げました。

 

 

その後、スペクターは2022年の夏をフランスのリビエラとコートダジュール周辺で過ごした。この間はプルービング・グラウンドや60キロメートルを超えるクローズドコース、過酷のトラック環境を持つ元グランプリサーキットに於けるテストも含まれます。

 

現在は、南アフリカの50°Cの環境下で行われる高温環境テストに臨む

 

そしてスペクターは現在、南アフリカで高温環境下のテストを受けています。そのひとつは北ケープ州のオーグラビーズ。ふたつめは西ケープ州のワインランドです。

 

ひとつは北の乾燥した非常に暑い条件。ふたつめは南の湿度の高い環境下に於いて試験走行を繰り返す事になります。テスト中、最も暑い環境下では気温が50度を超え、テストコースには砂利やほこり、曲がりくねった田舎道など多種多様なテスト環境が待ち受けています。

 

この段階でエンジニアは1500時間以上を費やして、車両の回生ブレーキのフィーリングを微調整し、どのような運転条件下でも静けさが損なわれないような配慮を重ねています。

 

 

全てはお客様に愛されるマジックカーペット・ライド〟のために

 

そのためには長年のロールス・ロイスのクルマづまりに関わった経験値と判断だけが頼りです。実際、現段階に於いても、ほぼ200万キロメートルに亘るテストの過程で、車両に組み込まれた全てのシステム、ハードウェア、アイテム、およびソフトウェア プロトコルを綿密に観察・改良を施し続けています。

 

ロールス・ロイスの車両開発エンジニア達は、そのような骨の折れる場面から導き出される評価のみを信じて、お客様に愛される〝マジックカーペット・ライド〟を造り出していくべく精力的に取り組んでいます。

 

今後、テストプログラムが後半に近づくにつれて、そうした走りの性能のみならず、ロールス・ロイス車としての音響性能を実現するためのファインチューニングを行う事となります。

 

 

特に天然素材であるゴム製シーリング材などは、異なる温度環境で理想の性能を発揮するため、こうしたチューニングプロセスはとしても大事なものとなります。

 

例えばスウェーデンの氷点下テストと、南アフリカでの高熱下テストのそれぞれを満足させるため、キャビンが極端な気候下に於いても断熱される性能が求められる事になります。

 

最終章でスペクターは、いよいよ最後の4シーズン目終盤に突入する

 

従って残りのテストプログラムでは、車載の17個のスピーカーからの絶対的なサウンド性能を確保するべく、オーディオ システムも徹底的に調整される事になります。

 

 

そんな完璧な音響性能を確保するための努力は、時に車体の主要な機能にまで及ぶ事もあります。実際、ドアが開閉時の音響変化も踏まえ、自動閉鎖式コーチドアの閉まる際の速度も再精査される事になるでしょう。

 

今後、南アフリカでの収集したデータを完全分析し各部の改良措置が整えられると、スペクターの開発テストプログラムは約8割が完了。その次は我々がオールシーズンテストと呼ぶ、より凝縮された50万キロメートルに及ぶテストプログラムの洗礼を受ける事になります」と話している。

 

 

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。