車両セキュリティ監視センターのイメージ
パナソニックは3月23日、サイバー対策ソフト大手のマカフィーと共同会見を行い、自動車向けセキュリティ監視サービスの事業化に向け、「車両セキュリティ監視センター(車両SOC)」の構築を共同で開始すると発表した。同社は商品を売るだけでなく、それに関連するサービスも継続して提供する“コト”ビジネスに力を入れており、今回の車両SOCもその1つと言っていいだろう。(経済ジャーナリスト・山田清志)
車両向けセキュリティ監視サービスのイメージ
パナソニックからマカフィーに声を掛けた
パナソニックといえば、真っ先に家電の会社と答える人がほとんどだと思うが、実はセキュリティ事業にも定評があり、工場の生産設備・生産プロセスを管理・制御するシステムやネットワークをサイバー攻撃から守る、工場SOCを2016年から手がけてきた。
また、自動車向けには、車両へ搭載し、サイバー攻撃の発生やその攻撃種別などを判定して、車両SOCへ分析用データを送信する車両侵入検知システムや、車両SOCにおいて、車両進入検査システムから受信した大量のデータを分析し可視化するセキュリティ情報イベント管理システムを開発してきた。
一方、自動車業界では、自動運転技術が人工知能(AI)によって加速度的に進化しつつあり、コネクティッドカーと呼ばれるネットワークに接続する車両が増加している。それに伴い、自動車を狙ったサイバー攻撃のリスクが年々高まっている。
監視システムの画面イメージ
「実際に自動車に対するサイバー攻撃が多数報告されている。なかでも2015年には、『チェロキー』に対するリモートの攻撃があり、クルマに直に触れることなく、プログラムの書き換えによって、アクセルやブレーキなどをリモートでコントロールできることが実証された。
それによって、140万台のリコールになった。そういった背景があって、自動車に関するサイバーセキュリティに関する国際基準が2020年6月に成立した」とパナソニックのオートモーティブ社開発本部プラットフォーム開発センターの中野稔久課長は説明し、サイバー攻撃を検知して防御すること、分析のためのデータを持つことなどが求められるようになるという。
そこで、パナソニックはこれまで培ってきた技術やノウハウを結集した車両SOCを設置し、世界中のコネクティッドカーを監視するサービスを事業化しようと考えたわけだ。その際、工場SOCで世話になったマカフィーに声をかけた。
パナソニック、オートモーティブ社開発本部プラットフォーム開発センターの中野稔久課長
車両SOCでの両者の役割
マカフィーはパソコンのセキュリティソフトで有名だが、グローバルでは企業向けのセキュリティコンサルタントが主力で、セキュリティ戦略の立案から製品導入、人材教育、運用支援までトータルでセキュリティに関するサービスを展開している。
車両SOCはパナソニックが自動車のシステムからサイバー攻撃の情報を受け取り、AIなどを使って詳細に分析。結果を契約した自動車メーカーに知らせ、システムの一時停止や更新といった対策に役立てる。
マカフィーは「SOCの現場における人材の育成と維持、実効性のあるプロセスの策定と定期的な見直し、さらに業務の標準化と自動化のノウハウをこのプロジェクトで適用していく」(プロフェッショナルサービス本部ソリューションサービス部の川島浩一マネージャー)そうだ。
マカフィー、プロフェッショナルサービス本部ソリューションサービス部の川島浩一マネージャー
サービスの開始時期について、中野課長は明確に答えなかったが、「自動車メーカーと協議を進めていき、数年以内には始めたい」とした。自動車のサイバーセキュリティの法規が、自動運転の新型車については2022年7月から適用され、24年7月からはすでに市場に出ている自動運転車にも適用されるので、遅くとも24年には開始されそうだ。
また、料金については「サービスの性質上、売りきりというものではなく、セキュリティをアップデートしていく必要があるので、継続的にお客さまから費用をいただく形になる」(中野課長)という。
このように継続的に料金を得るリカーリングビジネスは、パナソニックが弱かった分野であり、何としても成功させたいところだろう。しかも、自動車の台数は膨大で、大きな収益を得られる可能性が高い。しかし、そのためには、他社に先駆けてサービスを開始し、「車両SOCはパナソニック」と言われるようなぐらいに知名度を上げていく必要があるだろう。