先頃(2020年4月1日)、アウディの最高経営責任者(CEO)に就任したマルクス・ドゥスマン氏は、社内グループ(VW/フォルクスワーゲン)に於ける車両開発プロセスの変革を目指し5月29日、新パイロットプロジェクトにGOサインを出した。(坂上 賢治)
プロジェクト名は「Artemis(アルテミス)」と命名され、部門責任者にはモータースポーツの世界で華々しい成績を挙げ、今はVWグループ内で自動運転技術の熟成に携わるアレックス・ヒッツィンガー氏を指名した。ドゥスマンCEOとVWの取締役会は、このArtemisプロジェクトがVWグループの車両開発を牽引していくことに熱い期待を賭けている。
そうした流れからヒッツィンガー氏はドゥスマンCEOの直属となり、この6月1日付けでArtemisプロジェクトの責任者に就任した。そんなヒッツィンガー氏は、これまでVWの商用車部門で技術開発・担当取締役を務めてきただけでなくVWグループの上席副社長も兼任していた。
対してVWの研究開発責任者として活躍していたこともあるドゥスマンCEOは「私はヒッツィンガー氏の革新的な考え方と優れた行動力を高く評価しています。我々VWグループが大きな技術的進化を達成し続けるには彼の資質と実行力が不可欠です。
また彼が達成するであろう数々の成果をグループ傘下の開発部門に広く浸透させ、企業成長に役立てたいと思っています。彼がこれまでの過酷なレースの世界で培ってきた素早い開発能力をArtemisでも発揮して貰えれば、きっとその成果をグループ全体へ惜しみなく注入してくれることでしょう」と述べた。
この言葉を受けたヒッツィンガー氏は「今後も、より先鋭的なアジャイル開発を目指して愚直に推し進めていきます」と語り、「しかしそのためには、自社グループが抱えるノウハウや技術を余すことなく活かしていく必要があります」と畳み掛けた。
「当社グループ傘下の各ブランド車は、どれも永年の歴史を踏まえた高度な技術的蓄積を保持しており、それゆえにどの車両を採っても多彩かつ深い潜在力を秘めています。そうしたなかでVWグループは来る2029年までに75の電動車導入を計画しており、その間、我々は持てる力を75ものモデル開発全体に如何なく活かしていく必要があります。
その際に於ける課題は、プロジェクトの管理/進行を妨げることなく新技術のベンチマークを打ち立て、変わりゆくマーケットでチャンスを掴み・活かしていくことです。幸い我々のチームには大きな自由度が与えられており、ハイテク技術の中心組織として機能しているインゴルシュタットのINCampusから米国・西海岸の研究開発センターに至るまで、グループの能力をグローバルに活用できます。
例えばデジタルサービスは、インゴルシュタットに拠点を置くグループの新しい組織、〝car.Software.org〟から提供・獲得できるでしょう。その分、Artemisは電気自動車の新たなテクノロジーや高度な自動運転技術の実現などに焦点を当てます。
なかでも最も重要かつ最初のタスクは、来る2024年導入予定の電気自動車開発にあります。我々はこの仕事で広範囲なエコシステムを実現させつつ、車両利用時を含めたライフスタイルの構築などで新しいビジネスモデルの提案を求められることでしょう」と結んでいる。
ちなみにヒッツィンガー氏は、かつてトヨタモータースポーツの開発エンジニアとして自動車業界のキャリアをスタートさせた。その後のフォード/コスワース時代にはF1史上最年少のチーフエンジニアに就任して注目を集め、2006年には彼の指導の下、最高20,000rpmのレブリミットを備えた最初のF1エンジンを開発した。
その後、同氏はレッドブルテクノロジーを経て初めてVWグループ入りしてポルシェチームで力量を指揮。2015年から2017年に掛けてル・マン24時間レースを含む世界耐久選手権での優勝などで大きな成功を収めた。
先のポルシェ時代を経て、シリコンバレーのアップル社で3年間勤務。自動運転車の製品開発プロジェクトを立ち上げて2019年にVWグループに戻り、商用車部門で自動運転やID. BUZZ(アイディ.バズ)の開発を担当していた。