独・アウディAGは、ドイツ・ベルリンにあるエネルギ関連の研究機関「EUREF-Campus」に使用済みリチウムイオンバッテリー(以下、LiB)を利用した蓄電ユニットを設置し、EVなどの電動化車両と電力インフラなどの間にネットワークを構築し、クルマの新しい活用法を模索する様々なテストを開始する。
5月28日に日本法人のアウディジャパンが明らかにした。
この蓄電ユニットは、同社新型EVであるe-tronの開発車両で使用済みとなったLiBを使用したもの。同社側からの具体的な発表はないものの、写真を見る限りクルマの使用済みLiBを複数台並べ、蓄電や送電を行うための装置であることが伺える。
「EUREF-Campus」内の約110平方メートルのエリアに設置されたこのユニットは、1MWの電力でベルリンの中電圧送電網に接続されており、これは電気自動車200台分の充電量に相当するという。
また、1.9MWhの容量を備えたこの蓄電ユニットは、約2時間にわたって、蓄えた電力を5.5ヘクタールのオフィスと科学キャンパス全体に供給することが可能となっている。
加えて、同社によるとバッテリーは「自動車で使用した後も、充電容量の大部分が維持されるため、再利用して資源を節約する」ことが可能なため、当装置は、これを実証することで、将来的なLiBのリサイクルに関する研究にも使われる。
当ユニットを配置した背景は、アウディAGの電動化車両に関する事業計画にある。同社では、早ければ2025年に全販売台数の約40%を電動化車両とし、2020年代半ばには年間約100万台の電動化モデルを販売する目標を掲げている。
そして、EVやPHEVなどの電動化モデルは電力を蓄える機能を有するため、もし計画通りに電動化モデルが順調に市場に増加していけば、同社では「膨大な数の走るエネルギー貯蔵ユニットのネットワークが成長する」ことになるとしている。
つまり、同社は、将来的に電動化車両の数が増えれば、それらが蓄える電力も膨大となり、様々な電力インフラとの間にネットワークを構築しインテリジェントに活用することで、クルマがより社会的に有用な蓄電ユニットになると考えているのだ。
これについて同社は、「ドイツの乗用車の10台に1台が電気自動車だとすると、これは容量約200GWhの柔軟な蓄電ユニットに相当」するという。
そして、これら電動化モデルを太陽光や風力などの再生可能エネルギーの発電設備とインテリジェントな方法でつなげることで、それら設備からの電力をクルマに充電することが可能となる。
それにより、例えば、クリーン発電が一時的に過剰な電力を出した場合でも、風力タービンの接続を電力網から外す必要がなくなるなど、効率的な電力の運用が可能となる。
また、逆に夏などで地域の消費電力量が高い場合は、クルマに蓄えた電力を家庭の電力源などに使うことで、ピーク需要を相殺し、送電ネットワークを安定させ、停電防止などにも役立てることも可能。
このような電力インフラ、特に太陽光や風力などのクリーンな発電と連携することによる新しいクルマの活用法を模索することが、今回同社が蓄電ユニットを開設した大きな目的のひとつなのだ。
自動車メーカーだけに留まらず、電力インフラなどにも関わることで新たなゲームチェンジャーとなることを目指す同社の戦略。「電動化」という大きな潮流がもたらす、自動車産業の大きな変革に興味が付きない。