EVトラックの経済性・環境性能は、ディーゼル車の半分前後と試算
三菱ふそうトラック・バス(MFTBC)は、小型電気トラック「eキャンター(eCanter)」をフルモデルチェンジし、今春、発売した。2代目となる新型eキャンターは車型を増やし、バッテリー搭載量も選べるなど使い勝手を大幅に高めている。(佃モビリティ総研・松下次男)
電費や回収ブレーキなどの効率性も向上し、EV(電気自動車)トラックならではの経済性、環境性能の利点がより実用的になったといえるだろう。
そのような新型eキャンターを、MFTBCの喜連川研究所の敷地内で4月13日に試乗、体感した。その印象は、EVのスムーズな加速性能はもちろんのこと、坂道からの発進、減速にもEVの特色が生かされていた。
車室内の静粛性についても、乗用EVより「静か」といえ、一度乗車するだけで、取り回しの良さや快適さがドライバーに伝わる仕上がりだ。
MFTBCが初代のeキャンターを販売したのは2017年。まだEVトラックが珍しい中、先陣を切って市場に投入し、物流事業者を始めとしたユーザーが求めるEVのニーズなどを探った。
ただし、初代のeキャンターはわずか1車型のみ。それが2代目の新型車は28車型(国内モデル)のラインアップへと大幅に拡大した。動力取り出し装置(ePTO)も新たに採用し、ダンプ、キャリアカー、脱着車、リヤクレーン、ごみ収集車などの架装にも対応させている。
搭載バッテリーも初代は1タイプだけだったが、新型車はホイールベースの長さに応じてバッテリーを1個から3個までの「S」「M」「L」サイズが選べるモジュール式バッテリーを採用。
Sサイズバッテリー(41キロワットアワー)だと、1充電当たりの航続距離(国交省審査値)は標準キャブで116キロメートル、ワイドキャブで99キロメートル。
それがMサイズ(83キロワットアワー)で2倍強に増え、Lサイズバッテリー(124キロワットアワー)は324キロメートル(ワイドキャブ)へと航続距離が伸びる。ちなみに新型車のバッテリーは中国CATL製を採用する。
充電時間は、70キロワット充電時間でSサイズなら約40分、Lサイズでも約90分でフル充電できる。家庭用の普通充電にも対応する。
機構面での改良では、モーターを後軸に統合した独自開発の電気アクスル(eアクスル)を採用。プロペラシャフトを無くしてドライブトレインをコンパクトにすることで、シャシーや架装バリエーションの大幅拡大を実現した。
EVトラックの航続距離を伸ばす観点から、冷暖房にも工夫を凝らす。ステアリングヒーターとシートヒーターに、必要な箇所だけを温める省電力機能をオプションで設置する。
回生ブレーキの制動力を「回生なし」から「強回生」までの4段階(初代は2段階)へと強度を増やし、発電による強力なブレーキ力を発生する機能も高めた。
このほか、被害軽減ブレーキ機能や左折巻き込み防止機能などの先進安全機能の大幅拡充や外部給電システムも新たに搭載する。
MFTBCによると、EVトラックの環境性能は発電によるCO2(二酸化炭素)排出を考慮してもディーゼル車に比べ40~50%の低減が可能とし、将来的に再生可能エネルギーが増えればこの低減率がさらに高まるとみている。
経済性でもEVトラックの1キロメートル当たりの運行コストはディーゼル車に比べ約45%低減する。メンテナンス費用もEVトラックは点検項目数が少なくことから約25%低減すると試算。
これらを合わせると、EVトラックはディーゼル車に比べランニングコストが50%強低減できるという。
実際の車両価格はSサイズバッテリー搭載の標準キャブ・ボディーで1370万500円(消費税込み、東京地区希望小売価格)、Lサイズバッテリー搭載車(ワイド拡幅キャブ)で20050万800円。これもディーゼル車との差額分の一部が助成させる国や地方自治体の制度がある。
実際に、こうした新型eキャンターを試乗してみると、EVトラックの特色がよくわかる。
試乗はS、M、Lサイズバッテリーのそれぞれを搭載した標準キャブ、ワイドキャブの3車種を試みたが、EVの特色である加速性などの運転性能では遜色なく、居住性や安定性に差を感じる印象だ。