NEXT MOBILITY

MENU

2018年12月5日【オピニオン】

国交省、完成検査で独VW・エムデン工場にも立入り精査を実施

中島みなみ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

フォルクスワーゲンにも燃費・排出ガス抜取検査に係る不適切事案

 

 フォルクスワーゲンの日本法人「フォルクスワーゲン グループ ジャパン」(本社:愛知県豊橋市、代表取締役社長:ティル・シェア)は12月5日、完成検査における燃費・排出ガス抜取検査で発生した不適切事案について公表した。

 

9月28日の国土交通省への報告では「不適切事案はない」と回答していたが、調査期間を拡大して検査したすべての車両を改めて検証した結果、2012年後半から2018年前半にかけてドイツと南アフリカの2か所の工場で生産された車両に対する抜取検査1113台のうち83件のトレースエラーが見つかった。

 

写真は独・フォルクスワーゲンAGのエムデン工場。同工場があるのは、ブレーメン州ヴェーザー川の両岸に位置するドイツ最大の産業都市圏内にあたる。同工場は総面積410万平方メートルで、建屋はその約40%を占める。

 

JC08モードで検査走行中に許容範囲を逸脱して走行した車両で検査結果を有効としてしまった。測定中に走行モードを逸脱する行為は道路運送車法令に違反する可能性があり、本来は再検査を必要とする。国内メーカーの完成検査でも発覚した「トレースエラー」と同じものだった。
また、測定室の湿度が基準内に保たれていないという湿度エラーも見つかった。同社の検査はすべてJC08で、新しい走行モードのWLTPは採用していない。

 

不適切事案は「無効」を選択し忘れたこと

 

 同日夕方、都内で会見を行ったシェア社長は、この不適切事案について次のように語った。
「不適切な取扱いがあり、昨日(4日)に国土交通省に報告した。原因は人的ミスで改ざんや意図的な見過ごしではない。お客様にご心配をおかけすることになってしまい心からおわびする」

 

不適切事案が見つかった車両は、ドイツエムデン市のエムデン工場と南アフリカ東ケープ州のユイテンヘーグ工場の2工場で生産された。ユイテンヘーグ工場ではポロ系の車両の抜取検査しか行っていないが、エムデン工場はすべてのフォルクスワーゲン車両の抜取検査を行っている。そのため83件の不適切事案のうち77件はエムデン工場で見つかった。
発生モデルは、up!、ポロ、ザ・ビートル、ゴルフ、パサートヴァリアントなど広範囲に及ぶ。生産時期ではなく年式では、エムデン工場が2014年式~2018年式のポロを除くモデル。ユイテンヘーグ工場が2013年式~2018年式までのポロだ。

 

写真のエムデン工場では、2017年に234,250台の車両が生産された。至近には欧州で3番目に大きい貨物輸送拠点のエムデン港がある。同港からは毎年約950の船舶、15万車両の鉄道、40,000台のトラックなどを介して様々な製品の国内外輸送が行われ、車両については同港を拠点に米国、日本、スペインなどの各国へ出荷されている。

 

 シェア氏のいう人為的ミスの根拠は「意図的な書き換えがないこと」。原因は、オペレーターが検査データを中央データベースに伝送する場合、検査結果をプルダウンメニュー(項目を選ぶ)方式で検査結果が有効か無効かを選択しなければならないが、プルダウンメニューは何もしない状態で検査「OK」(有効)になっているという。「nOK」(無効)を選ばずに送ってしまったことで、無効の検査が有効になったという説明だ。

 

また、シェア氏は不適切事案によるリコールの可能性を問われ、次のように述べた。
「今回の事案を精査して、現時点ではリコール等のキャンペーンを実施する必要はないと考えているが、今後も国土交通省当局と連携して必要な措置を講じたい」

 

フォルクスワーゲン グループ ジャパンで法規・認証を担当する青木徹ジェネラル・マネージャー。撮影=中島みなみ

 

 法規・認証を担当する青木徹ジェネラル・マネージャーはその理由についてこう述べた。
「すべての抜取検査データをもとに、正規のデータとトレースエラーを起こした排出ガス値を比較した場合に大きな差がなく、基準値を大幅に下回っていること。燃費値にもついても基準値を大幅に上回っている」

 

国交省ドイツ国内で立入検査

 

この調査により判明した事実を同社は10月18日に同省に報告。同省は11月5日、6日の2日間にわたってエムデン工場に立入検査を行い、報告に基づく事実確認をした。型式指定を受ける車両は海外での生産であっても、国内の製造環境と同様の検査体制が工場内で確保されていることが必要になる。同省は「立入検査結果を精査中で、現在までに最終判断に至っていない」段階で、フォルクスワーゲンもこれを認めている。

 

完成検査における燃費・排出ガスの抜取検査では、同社とグループを構成するアウディ・ジャパンが不適切事案を公表している。そのため同社の対応は早かった。

例えば、9月に初回の報告を行う前の8月に、同社はエムデン工場の検査データチェックを1人体制から2人体制に改めた。さらに10月にはユイテンヘーグ工場では、燃費・排出ガス測定データのみを複数で行っていた体制からすべての検査データを複数でチェックする体制を整えた。このことについては不適切事案の発覚を予期したわけではなく、先行事例であるアウディで体制変更が行われていたためと、同社は説明する。

 

フォルクスワーゲン グループ ジャパン広報部スペシャリスト・安達恵氏。撮影=中島みなみ

 

 さらに、今回の報告につながる検査の対象範囲拡大も「他社の事例を見ながら、独自に判断した」(広報部スペシャリスト・安達恵氏)

また、必要な対策も進みつつある。11月にはプルダウンメニューを変更し、何もしない状態では常に「nOK」(無効)が選択されるように改めた。今後は2019年中ごろをめどに、人為的判断を必要としない自動化を図る。( 中島みなみ・中島南事務所/東京 文京)

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。