フォルクスワーゲンにも燃費・排出ガス抜取検査に係る不適切事案
フォルクスワーゲンの日本法人「フォルクスワーゲン グループ ジャパン」(本社:愛知県豊橋市、代表取締役社長:ティル・シェア)は12月5日、完成検査における燃費・排出ガス抜取検査で発生した不適切事案について公表した。
9月28日の国土交通省への報告では「不適切事案はない」と回答していたが、調査期間を拡大して検査したすべての車両を改めて検証した結果、2012年後半から2018年前半にかけてドイツと南アフリカの2か所の工場で生産された車両に対する抜取検査1113台のうち83件のトレースエラーが見つかった。
写真は独・フォルクスワーゲンAGのエムデン工場。同工場があるのは、ブレーメン州ヴェーザー川の両岸に位置するドイツ最大の産業都市圏内にあたる。同工場は総面積410万平方メートルで、建屋はその約40%を占める。
JC08モードで検査走行中に許容範囲を逸脱して走行した車両で検査結果を有効としてしまった。測定中に走行モードを逸脱する行為は道路運送車法令に違反する可能性があり、本来は再検査を必要とする。国内メーカーの完成検査でも発覚した「トレースエラー」と同じものだった。
また、測定室の湿度が基準内に保たれていないという湿度エラーも見つかった。同社の検査はすべてJC08で、新しい走行モードのWLTPは採用していない。
不適切事案は「無効」を選択し忘れたこと
同日夕方、都内で会見を行ったシェア社長は、この不適切事案について次のように語った。
「不適切な取扱いがあり、昨日(4日)に国土交通省に報告した。原因は人的ミスで改ざんや意図的な見過ごしではない。お客様にご心配をおかけすることになってしまい心からおわびする」
不適切事案が見つかった車両は、ドイツエムデン市のエムデン工場と南アフリカ東ケープ州のユイテンヘーグ工場の2工場で生産された。ユイテンヘーグ工場ではポロ系の車両の抜取検査しか行っていないが、エムデン工場はすべてのフォルクスワーゲン車両の抜取検査を行っている。そのため83件の不適切事案のうち77件はエムデン工場で見つかった。
発生モデルは、up!、ポロ、ザ・ビートル、ゴルフ、パサートヴァリアントなど広範囲に及ぶ。生産時期ではなく年式では、エムデン工場が2014年式~2018年式のポロを除くモデル。ユイテンヘーグ工場が2013年式~2018年式までのポロだ。
写真のエムデン工場では、2017年に234,250台の車両が生産された。至近には欧州で3番目に大きい貨物輸送拠点のエムデン港がある。同港からは毎年約950の船舶、15万車両の鉄道、40,000台のトラックなどを介して様々な製品の国内外輸送が行われ、車両については同港を拠点に米国、日本、スペインなどの各国へ出荷されている。
シェア氏のいう人為的ミスの根拠は「意図的な書き換えがないこと」。原因は、オペレーターが検査データを中央データベースに伝送する場合、検査結果をプルダウンメニュー(項目を選ぶ)方式で検査結果が有効か無効かを選択しなければならないが、プルダウンメニューは何もしない状態で検査「OK」(有効)になっているという。「nOK」(無効)を選ばずに送ってしまったことで、無効の検査が有効になったという説明だ。
また、シェア氏は不適切事案によるリコールの可能性を問われ、次のように述べた。
「今回の事案を精査して、現時点ではリコール等のキャンペーンを実施する必要はないと考えているが、今後も国土交通省当局と連携して必要な措置を講じたい」
フォルクスワーゲン グループ ジャパンで法規・認証を担当する青木徹ジェネラル・マネージャー。撮影=中島みなみ
法規・認証を担当する青木徹ジェネラル・マネージャーはその理由についてこう述べた。
「すべての抜取検査データをもとに、正規のデータとトレースエラーを起こした排出ガス値を比較した場合に大きな差がなく、基準値を大幅に下回っていること。燃費値にもついても基準値を大幅に上回っている」
国交省ドイツ国内で立入検査
この調査により判明した事実を同社は10月18日に同省に報告。同省は11月5日、6日の2日間にわたってエムデン工場に立入検査を行い、報告に基づく事実確認をした。型式指定を受ける車両は海外での生産であっても、国内の製造環境と同様の検査体制が工場内で確保されていることが必要になる。同省は「立入検査結果を精査中で、現在までに最終判断に至っていない」段階で、フォルクスワーゲンもこれを認めている。
完成検査における燃費・排出ガスの抜取検査では、同社とグループを構成するアウディ・ジャパンが不適切事案を公表している。そのため同社の対応は早かった。
例えば、9月に初回の報告を行う前の8月に、同社はエムデン工場の検査データチェックを1人体制から2人体制に改めた。さらに10月にはユイテンヘーグ工場では、燃費・排出ガス測定データのみを複数で行っていた体制からすべての検査データを複数でチェックする体制を整えた。このことについては不適切事案の発覚を予期したわけではなく、先行事例であるアウディで体制変更が行われていたためと、同社は説明する。
フォルクスワーゲン グループ ジャパン広報部スペシャリスト・安達恵氏。撮影=中島みなみ
さらに、今回の報告につながる検査の対象範囲拡大も「他社の事例を見ながら、独自に判断した」(広報部スペシャリスト・安達恵氏)
また、必要な対策も進みつつある。11月にはプルダウンメニューを変更し、何もしない状態では常に「nOK」(無効)が選択されるように改めた。今後は2019年中ごろをめどに、人為的判断を必要としない自動化を図る。( 中島みなみ・中島南事務所/東京 文京)