メルセデス・ベンツは8月25日、東京・虎ノ門のホテルオークラ東京で新型電気自動車(BEV)「EQV SUV」の発表会を開催。同日から全国の正規販売店を通じて予約注文を受け付けると発表した。
価格は「EQE 350 SUV」が1369万7000円、「EQE 53 SUV」が1707万円。この日の発表会にはドイツ本社からオラ・ケレニウス会長が駆けつけ、メルセデス・ベンツの今後の電動化戦略について説明した。(経済ジャーナリスト・山田清志)
航続可能距離は528kmでV2Hも可能
「お客さまの電気自動車への認識も大きく変化したと実感している。このように変わり続ける市場の中、われわれメルセデス・ベンツが一貫して持ち続けて変わらないもの、それは持続可能なクルマ社会の実現という思いである。今から137年前に自動車を発明して以来、世界の自動車市場を圧倒的な技術力でリードしてきたメルセデス・ベンツ、この変わらない思いを電気自動車という解答で実現することを目指す」
メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長は冒頭の挨拶でこう強調した。メルセデス・ベンツは2019年7月に「EQC」を日本に導入して以来、これまでに都市型SUV「EQA」、多様なライフスタイルにフィットする「EQB」、ビジネスセダン「EQE」、フラッグシップモデル「EQS」、そして7人乗りラグジュアリーSUV「EQS SUV」とこの4年間に6車種のBEVを日本市場に投入してきた。今回の「EQE SUV」は7車種目のBEVとなる。
その特徴は、日本の道路事情に合ったボディサイズと取り回しの良さ、広い室内空間とラゲッジスペース、そしてSUVの使い勝手の良さを兼ね備えたモデルということだ。ボディサイズは全長4880mm、全幅2030mm、全高1670mmで、ホイールベースが3030mmだが、最小回転半径はコンパクトカーと同等の4.8mを実現している。
エクステリアデザインは、プレミアムなBEVとしての専用プラットフォームをもとに生まれたもので、機能性やエアロダイナミクスに対する厳しい要求を満たす「目的に沿ったデザイン」には、ゆったりとした面の構成、継ぎ目の少なさ、そしてシームレスデザインといった「センシュアル・ピュリティ(官能的純粋)」の思想が反映されている。
フロントフェイスは立体的なスリーポインテッドスターをあしらった「ブラックパネル」のユニットに統合され、ヘッドライトとディープブラックのフロントグリルによってメルセデスのBEVにふさわしいフロントフェイスが形成されている。ドアハンドルは格納式のシームレスドアハンドルが標準装備となっている。
インテリアはデジタルの要素をふんだんに取り入れた先進的なデザインとなっている。EQE 53 SUVに標準装備のMBUXハイパースクリーンは、3枚の高精細パネル(コックピットディスプレイ、有機ELメディアディスプレイ、助手席の有機ELフロントディスプレイ)とダッシュボード全体を1枚のガラスで覆うワイドスクリーンで構成されている。その周りを、細いシルバーのフレーム、エアアウトレットを組み込んだルーバー状のトリムなどが囲んでいる。
ラゲッジルームは5人乗車時で520Lの容量を確保。後席バックレストをすべて倒すと最大1675Lのスペースが確保できる。しかも、後席は40:20:40の分割可倒式で、乗車人数や荷物に応じて多様なシートアレンジが可能だ。
パワートレインは前後アクスルに電動パワートレイン(eATS)を搭載し、電気モーターには永久磁石同期モーター(PSM)が採用され、最高出力は292PS、最大トルクは765Nmを誇る。
89kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、航続可能距離は528kmだ。また、充電は6.0kWまでの交流普通充電と直流急速充電(CHAdeMO規格)に対応し、充電時間(10%~80%)は50Kwタイプで102分、90kWタイプで54分、150kwタイプで49分となっている。
さらに、日本仕様の特別機能として、車外へ電力を供給できる双方向充電機能を装備する。家庭用の太陽光発電システムで発電した電気の貯蔵装置となるほか、停電した場合などに、V2H(Vehicle to Home)、つまり電気を家庭の送る予備電源としても利用できる。
日本でも自前の充電インフラの設置を検討
「まずEQE SUVが日本の市場にとって、そして私たちにとっていかに重要かということを強調したい。メルセデス・ベンツでは6つの柱があるが、2~3年前に戦略を少し変更した。自動車業界の変革期の中、BEVは成長をし続けており、今後10年でさらに成長すると見込んでいる。同時に搭載できるソフトウェアの容量やAIなど車両のデジタル化も加速すると考えている」とケレニウス会長は話し、こう付け加える。
「メルセデス・ベンツはテクノロジーの創始者として、テクノロジーやR&Dに高額な投資を行っており、企業として常に進化している。これからの10年間はより脱炭素に向けて行動するというのがビジネスの中心になっていく。さらに、バリューチェーン全体のカーボンニュートラルを10年前倒しして、2039年までに実現したいと考えている」
それに向けたロードマップとして、2022年から生産工程でのカーボンニュートラルに取り組み、2030年までにCO2排出量を2018年比80%削減する。電動車の販売比率についても25年~26年に50%、そして2030年に100%達成を目指す。ただ、ケレニウス会長によると、電動化にはBEVだけでなくプラグインハイブリッド車(PHEV)も含まれるという。PHEVは、100%BEV化に向けたマイルストーンとのことで、最終的には100%BEVにする方針だ。
「状況は常に変化する。時期は若干ズレることもあるかもしれないが、戦略的な方向性は変わらないし、実現するためにはいろいろなことをしていく」とケレニウス会長は強調する。
さらに、BEVに欠かせない充電インフラも自前で整備していく。2030年までに北米や欧州、中国などの販売店を中心に独自の急速充電器を1万基以上設置する計画だ。日本についても、BEVの普及加速に向けて急速充電インフラの設置を検討しているという。
「日本には世界初の電気自動車専売店があり、充電インフラについても投資を行い、日本のお客さま向けにユーザーがほしがっている利便性を提供したいと思っている。今後はエネルギーマネジメントが重要になってくると考えており、BEVのバッテリーは蓄電池としても利用できるので、このEQE SUVは日本でのV2Hを可能とした」とケレニウス会長は説明する。
バッテリーのリサイクルについても、積極的に取り組んでおり、まず2023年末にドイツのクッペンハイムにリサイクル目標98%というリチウムイオンバッテリー工場が完成する。「よくニッケルやマンガンなどを使用しているバッテリーが古くなったらどうするのかという質問を受けるが、バッテリーの材料はとても貴重なうえ、環境的にもコスト的にもいかにリサイクルするのかが重要だと考えている」とケレニウス会長。
メルセデス・ベンツの2023年第2四半期(4~6月)のグローバルでのBEV販売台数は、前年同期比123%と2倍以上の伸びを見せている。日本においても、2001年に1000台だったBEVの販売は22年には2倍の2000台を達成した。「今年は4月時点でこの数字を上回る伸びを見せており、通年としても昨年同様の成長を期待している」と上野社長。今回のEQE SUVでメルセデス・ベンツのBEV化比率は大きく上がることは間違いなさそうだ。