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2023年8月25日【新型車】

メルセデス・ベンツの新型BEV「EQE SUV」と電動化戦略

山田清志

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メルセデス・ベンツは8月25日、東京・虎ノ門のホテルオークラ東京で新型電気自動車(BEV)「EQV SUV」の発表会を開催。同日から全国の正規販売店を通じて予約注文を受け付けると発表した。

 

 

価格は「EQE 350 SUV」が1369万7000円、「EQE 53 SUV」が1707万円。この日の発表会にはドイツ本社からオラ・ケレニウス会長が駆けつけ、メルセデス・ベンツの今後の電動化戦略について説明した。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

航続可能距離は528kmでV2Hも可能

 

「お客さまの電気自動車への認識も大きく変化したと実感している。このように変わり続ける市場の中、われわれメルセデス・ベンツが一貫して持ち続けて変わらないもの、それは持続可能なクルマ社会の実現という思いである。今から137年前に自動車を発明して以来、世界の自動車市場を圧倒的な技術力でリードしてきたメルセデス・ベンツ、この変わらない思いを電気自動車という解答で実現することを目指す」

 

 

メルセデス・ベンツ日本の上野金太郎社長は冒頭の挨拶でこう強調した。メルセデス・ベンツは2019年7月に「EQC」を日本に導入して以来、これまでに都市型SUV「EQA」、多様なライフスタイルにフィットする「EQB」、ビジネスセダン「EQE」、フラッグシップモデル「EQS」、そして7人乗りラグジュアリーSUV「EQS SUV」とこの4年間に6車種のBEVを日本市場に投入してきた。今回の「EQE SUV」は7車種目のBEVとなる。

 

その特徴は、日本の道路事情に合ったボディサイズと取り回しの良さ、広い室内空間とラゲッジスペース、そしてSUVの使い勝手の良さを兼ね備えたモデルということだ。ボディサイズは全長4880mm、全幅2030mm、全高1670mmで、ホイールベースが3030mmだが、最小回転半径はコンパクトカーと同等の4.8mを実現している。

 

エクステリアデザインは、プレミアムなBEVとしての専用プラットフォームをもとに生まれたもので、機能性やエアロダイナミクスに対する厳しい要求を満たす「目的に沿ったデザイン」には、ゆったりとした面の構成、継ぎ目の少なさ、そしてシームレスデザインといった「センシュアル・ピュリティ(官能的純粋)」の思想が反映されている。

 

 

フロントフェイスは立体的なスリーポインテッドスターをあしらった「ブラックパネル」のユニットに統合され、ヘッドライトとディープブラックのフロントグリルによってメルセデスのBEVにふさわしいフロントフェイスが形成されている。ドアハンドルは格納式のシームレスドアハンドルが標準装備となっている。

 

インテリアはデジタルの要素をふんだんに取り入れた先進的なデザインとなっている。EQE 53 SUVに標準装備のMBUXハイパースクリーンは、3枚の高精細パネル(コックピットディスプレイ、有機ELメディアディスプレイ、助手席の有機ELフロントディスプレイ)とダッシュボード全体を1枚のガラスで覆うワイドスクリーンで構成されている。その周りを、細いシルバーのフレーム、エアアウトレットを組み込んだルーバー状のトリムなどが囲んでいる。

 

 

ラゲッジルームは5人乗車時で520Lの容量を確保。後席バックレストをすべて倒すと最大1675Lのスペースが確保できる。しかも、後席は40:20:40の分割可倒式で、乗車人数や荷物に応じて多様なシートアレンジが可能だ。

 

パワートレインは前後アクスルに電動パワートレイン(eATS)を搭載し、電気モーターには永久磁石同期モーター(PSM)が採用され、最高出力は292PS、最大トルクは765Nmを誇る。

 

89kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、航続可能距離は528kmだ。また、充電は6.0kWまでの交流普通充電と直流急速充電(CHAdeMO規格)に対応し、充電時間(10%~80%)は50Kwタイプで102分、90kWタイプで54分、150kwタイプで49分となっている。

 

さらに、日本仕様の特別機能として、車外へ電力を供給できる双方向充電機能を装備する。家庭用の太陽光発電システムで発電した電気の貯蔵装置となるほか、停電した場合などに、V2H(Vehicle to Home)、つまり電気を家庭の送る予備電源としても利用できる。

 

 

日本でも自前の充電インフラの設置を検討

 

「まずEQE SUVが日本の市場にとって、そして私たちにとっていかに重要かということを強調したい。メルセデス・ベンツでは6つの柱があるが、2~3年前に戦略を少し変更した。自動車業界の変革期の中、BEVは成長をし続けており、今後10年でさらに成長すると見込んでいる。同時に搭載できるソフトウェアの容量やAIなど車両のデジタル化も加速すると考えている」とケレニウス会長は話し、こう付け加える。

 

「メルセデス・ベンツはテクノロジーの創始者として、テクノロジーやR&Dに高額な投資を行っており、企業として常に進化している。これからの10年間はより脱炭素に向けて行動するというのがビジネスの中心になっていく。さらに、バリューチェーン全体のカーボンニュートラルを10年前倒しして、2039年までに実現したいと考えている」

 

それに向けたロードマップとして、2022年から生産工程でのカーボンニュートラルに取り組み、2030年までにCO2排出量を2018年比80%削減する。電動車の販売比率についても25年~26年に50%、そして2030年に100%達成を目指す。ただ、ケレニウス会長によると、電動化にはBEVだけでなくプラグインハイブリッド車(PHEV)も含まれるという。PHEVは、100%BEV化に向けたマイルストーンとのことで、最終的には100%BEVにする方針だ。

 

「状況は常に変化する。時期は若干ズレることもあるかもしれないが、戦略的な方向性は変わらないし、実現するためにはいろいろなことをしていく」とケレニウス会長は強調する。

 

さらに、BEVに欠かせない充電インフラも自前で整備していく。2030年までに北米や欧州、中国などの販売店を中心に独自の急速充電器を1万基以上設置する計画だ。日本についても、BEVの普及加速に向けて急速充電インフラの設置を検討しているという。

 

「日本には世界初の電気自動車専売店があり、充電インフラについても投資を行い、日本のお客さま向けにユーザーがほしがっている利便性を提供したいと思っている。今後はエネルギーマネジメントが重要になってくると考えており、BEVのバッテリーは蓄電池としても利用できるので、このEQE SUVは日本でのV2Hを可能とした」とケレニウス会長は説明する。

 

バッテリーのリサイクルについても、積極的に取り組んでおり、まず2023年末にドイツのクッペンハイムにリサイクル目標98%というリチウムイオンバッテリー工場が完成する。「よくニッケルやマンガンなどを使用しているバッテリーが古くなったらどうするのかという質問を受けるが、バッテリーの材料はとても貴重なうえ、環境的にもコスト的にもいかにリサイクルするのかが重要だと考えている」とケレニウス会長。

 

メルセデス・ベンツの2023年第2四半期(4~6月)のグローバルでのBEV販売台数は、前年同期比123%と2倍以上の伸びを見せている。日本においても、2001年に1000台だったBEVの販売は22年には2倍の2000台を達成した。「今年は4月時点でこの数字を上回る伸びを見せており、通年としても昨年同様の成長を期待している」と上野社長。今回のEQE SUVでメルセデス・ベンツのBEV化比率は大きく上がることは間違いなさそうだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。