川崎重工業は8月6日、2020年度第1四半期(4~6月)の連結業績を発表した。新型コロナウイルスの感染拡大の影響をもろに受け、大幅な減収、利益は赤字という厳しいものになった。中間配当を見送り、年間配当は未定だが無配になる可能性が濃厚だ。(経済ジャーナリスト・山田清志)
ボーイング向けの事業が大きく減少
同社の第1四半期の業績は、売上高が前年同期比14.3%減の3006億円、営業損益が206億円の赤字(前年同期は10億円の黒字)、当期純利益が117億円の赤字(同82億円の赤字)となり、利益は過去最大の赤字だった。
「売り上げについては、前年同期比でマイナス501億円と大幅な増収になった。これは、航空宇宙において新型コロナウイルスの感染拡大の影響を大きく受けたこと、またモーターサイクル&エンジンについても同様にコロナウイルスの影響が大きくマイナス93億円の減収になったことが主な要因だ」と山本克也副社長は音声配信で説明する。
また、営業利益が約217億円の減益となったが、うち202億円が新型コロナウイルスの影響によるもので、航空宇宙分野が6割、モーターサイクル&エンジン分野が2割を占めた。ほかに影響が大きかったものは車両分野と精密機械・ロボット分野だ。車両はニューヨーク地区での車両の受け渡しの中断や工場のロックダウンあったためだ。精密機械・ロボットについては、中国やインドなどで製造・販売停止があったことが響いた。
さらにセグメント別の業績を詳しく見ると、航空宇宙分野はボーイングの工場停止による出荷停止の影響を受けて、「767」「777」「777X」「787」の分担製造品の売上機数が前年同期に比べて合計41機も減り、防衛省向けの分担製造品が減少したことで大幅な減収減益となった。
モーターサイクル&エンジンは新型コロナウイルスの影響が大きかったが、地域別に濃淡があったという。「欧州や新興国向け二輪車が大きく減収したが、北米向けでは4月以降、二輪車や四輪のオフロードモデルを中心に想定を超える売り上げを記録している。営業利益面では、都市封鎖による各拠点の操業停止や販売減による減収に加えて、円高の影響もあり、前年同期から31億円の悪化になった」と山本副社長。
ちなみに製品別の売上台数と金額は、先進国二輪車が前年同期の3万台、262億円から2.9万台、247億円、新興国二輪車が6.9万台、164億円から2.5万台、91億円、四輪車・PWCは1.1万台、133億円から1.3万台、166億円、そして汎用エンジンは124億円から85億円となっている。
部門第一の経営からの脱却が回復のカギ
車両は国内向けが増加したなどで前年同期の204億円から323億円に増収となったものの、海外案件の採算悪化などで営業赤字からの脱却はできず14億円の赤字(前年同期は35億円の赤字)だった。船舶海洋もLPG運搬船や潜水艦の工事量増加はあったものの、修繕船の売上減少などで228億円から221億円へと減収となり、営業損益は4億円の赤字(同3億円の赤字)だった。また、精密機械・ロボットは減収減益だったが、営業黒字を確保、そしてエネルギー・環境プラントは売上高500億円、営業利益15億円で増収増益を達成した。
2020年度通期の見通しは、売上高が前期比11.0%減の1兆4600億円、営業損益は300億円の赤字(前期は620億円の黒字)を見込むが、「当期純利益予想は、ポストコロナを見据えて、今後発生しうる追加的な費用を精査中のため引き続き未定とし、今後、合理的なよそが可能となった時点で改めて開示する」(山本副社長)そうだ。
川崎重工と言えば、「事業部あって本社なし」と言われるほど各部門間の身内意識が強く、何度も社内抗争を繰り返してきた。2013年には、当時の長谷川聡社長が三井造船(現三井E&Sホールディングス)との経営統合を進めたが、臨時取締役会で統合に賛成した取締役とともに解任された。
また、16年にトップに就任した金花芳則社長は「部門横断的な技術開発」などを掲げて風通しのよい構造改革を進めようとしたが、出身母体である車両部門で発生した品質問題が足かせとなって、思うように進まなかった。
そして、今年6月には橋本康彦常務執行役員が社長に就任した。ロボット事業部門出身でアイデアマンと言われている橋本社長が、このような“内向き”体質の経営と決別し、どのようにコロナ禍のピンチを乗り切っていくのか注目される。今回のピンチが社内一丸となるチャンスかも知れない。