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2020年12月15日【MaaS】

JATO、2020年のEV市場ホワイトペーパーを公開

NEXT MOBILITY編集部

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05 市場予測:補助金が無くなった後の中国では何が起きるか

 

世界最大の電気自動車市場において、これからの成長の軌道がどうなるかは不透明なままだ。最近鈍化したことから分かるように、政府による補助金が無くなることで、成長率はこれまでと同じようには続かないだろう。

 

元来、中国の計画は2020年の終わりまでに補助金を打ち切ることだった。しかしながら、今年の3月に新型コロナウイルスによる景気の停滞が起きたため、延長することが決定された。改定により、2022年まで新車の電気自動車を購入する顧客が補助金を受けることができ、2年間は購入時の税金も免除される。

 

2021年に補助金は20%削減され、2022年には30%削減される。
しかしながら、世界の舞台で中国が自動車分野で頂点に立つという野望は変わらない。補助金を打ち切ることによって、売り上げが落ちること以外に、主要なセクターの刷新という、もう一つの重要な進展をもたらした。新型コロナウイルス以前には400以上もの中国企業が国内の電気自動車セクターで運営していたが、補助金に頼っていた企業の中には破綻したところもあった。この難局を乗り越えた企業は、現在より強い地位にある。

 

これは、中国政府が自国で育った自動車会社を盤石にし、欧米の自動車会社に対抗できるだけの電気自動車を製造するという大きな野望を物語っている。例として、テスラのような海外の競合を中国市場に入れる決断をしたことは戦略的だった。テスラ モデル3は現在中国で最も売れているピュアEV(BEV)となっている。

 

上海に工場を建設することで、中国の銀行から優先的融資をたっぷりと受けることができ、上海市政府からも承認を得たことで同社は大きな恩恵を受けている。テスラの揺るぎない人気は、比較的短期間に中国でもますます高まっているように見える。

 

しかし、テスラのサプライチェーンは中国企業に学ぶ機会を与えてくれるという意味で非常に価値のあるものであり、時間をかけてそのサポートを国内企業に移そうと考えている。そして、中国の夢は自国のテスラをつくることだ。国内市場を超えて、中国は自動車大国になることを目指しているため、長期的には自国の電気自動車を広く普及させることが、その目的を叶えるために重要だと考えている。

 

 

06 欧州経済はグリーンパワーで立ち直るか

 

中国と米国の市場は鈍化しており、欧州が次の大きな電気自動車市場となる、あらゆる兆候が見られる。欧州での電気自動車の販売台数は、2020年8月までの年度累計台数で前年同期比50%増を超えるほど急上昇している。

 

むしろ驚くべきことに、新型コロナウイルスによって欧州での電気自動車の成長が妨げられることもなかった。事実、欧州ではこの危機を元にグリーン・リカバリーを生み出そうとしている。いくつかの政府がコロナウイルス対策の景気刺激策として追加の補助金を打ち出した。

 

欧州市場が本格的な勢いを増し始めていることはほとんど疑いの余地がない。そして、欧州は政府の介入を強化することで成長を加速させる中国式のやり方を見習っているように見える。そして、二酸化酸素排出量の目標値も達成したい算段だ。

 

ノルウェーは、1990年代から長く続いている電動化への努力のおかげもあり、欧州で先頭を走っている。2020年までに電動車両の数を100,000台にする当初の計画では、2018年にこの数値を超えた。ノルウェーは昨年ピュアEV(BEV)の販売台数が最も多く、2019年には市場全体の42%に当たる60,400台を販売した。2020年の8月までの年度累計台数は、38,600台だった。

 

しかし、多くの欧州諸国は大きな野望とさらなる報奨金政策によって、ノルウェーに追いつこうとしている。例えば、ドイツは2030年までに、国内に1,000万台の電動車を販売し、充電ステーションを100万カ所つくる野望がある。今年の夏には、新型コロナウイルス対策の景気刺激策として1,300億ユーロの予算が計上されたが、その中に電気自動車の販売を増やすための予算も多分に含まれている。

 

フランスでは、マクロン大統領が新型コロナウイルス対策として自動車分野に80億ユーロを計上し、州による電動車への補助金が6,000ユーロから7,000ユーロへ増額された。

 

こうした刺激策があるにも関わらず、欧州では、規制よりも経済性を重視した販売がされている。総所有コストの平準化が達成されて初めて、電気自動車は新車販売の中で大きなシェアを得ることになるだろう。

 

 

 

 

07 中国の自動車会社は今後どうなるか

 

補助金が終わった後、欧州の電気自動車市場は加速を続け、中国と張り合うことができるだろうか。それとも、中国は欧州自動車市場への拡大にも成功することができるだろうか。

 

JATOの選んだ2021年に注目すべき中国企業6社

・MG
著名な英国のブランドは2005年に中国の上海汽車集団(SAIC Motor)に買収され、それ以降電気自動車市場に進出し、著しい成功を収めている。特にスモールSUVであるZSのピュアEV(BEV)モデルは、2019年9月に発売されて以来、多くの欧州の国で電気自動車販売ランキングにおいてトップ10に入っている。初めに発売されたのはオランダと英国だが、近い将来ノルウェー、フランス、ベルギー、イタリア、オーストリアでも売られるようになる。事実、ZSは英国の電気自動車市場の6%を占めるほど傑出しており、販売台数ランキングでも、テスラ モデル3、ニッサン リーフ、ジャガー I-PACEに次ぐ4位となっている。

 

中国企業の傘下となってから14年間、MGは欧州市場の攻略を目指してきた。昨年発表されたZS EVは、競争力の高い航続距離と価格を併せ持ち、かつて内燃機関を搭載した車種では叶わなかった、欧州市場での成功の機会を作った。

 

・比亜迪 (BYD)
BYD(比亜迪)は、中国最大の電気自動車メーカーであり、テスラに次いで世界2番目の規模となっている。二次電池の世界的な大企業であり、2010年に発売された電気バスは欧州でも強い存在感があった。最近になって、欧州で乗用の電気自動車市場にも参入し始めた。

 

・浙江吉利控股集団(GEELY)
中国企業の野心は、欧州市場向けのモデルを製造するよりもはるか上の次元へ向かった。ここ10年間で、浙江吉利控股集団(Zhejiang Geely Holding Group)は欧州市場へ入り込む近道として、すでに確立されたボルボやロータスといった企業を買収していたが、そこで止まりはしなかった。吉利はオープンソースの電気自動車用アーキテクチャSEA(Sustainable Experience Architecture)を公開し、世界でゼロエミッション車(ZEV)の普及を後押ししていく考えでいる。

 

・上海蔚来汽車(NIO)
上海蔚来汽車(NIO)は、“中国のテスラ”と評される。巨大インターネット企業から生まれ、中国の新エネルギー車(NEV)スタートアップの模範企業だ。同社の革新的な“Battery as a Service” (BaaS)は大きな注目を集めた。上海蔚来汽車(NIO)は現在中国国内のみで運営しているが、2021年には欧州で車両を販売する予定だ。

 

現在中国では、ES8、ES6、EC6の3車種を販売しているが、BaaSのおかげでバッテリーを除いた価格で購入できるため、非常に手ごろな価格を実現している。そのため、欧州の消費者にも非常に有利な価格の車両を提供できる可能性が高く、欧州企業にも対抗できるだろう。

 

・愛馳汽車(AIWAYS)
愛馳汽車(Aiways)は2019年、U5というモデルで、中国からドイツまで53日かけ、およそ15,022kmの走行に成功した。このことが欧州で紹介されると、同社製品の品質の高さを証明することができ、中国企業の電気自動車市場における特有の能力を見せることができた。それから、愛馳汽車(Aiways)はフランスで販売を開始し、オンライン販売でパートナー企業との連携に力を入れ、ドイツ企業のEuronicsと提携した。

 

・駱駝集団(CAMEL GROUP)
クロアチアの自動車会社であるリマック・アウトモビリ(Rimac Automobili)は、“欧州のテスラ”とも言われ、まだ製造には入っていないが1914馬力のC_Twoクーペのような革新的なモデルで知られている。ブガッティブランドの買収など、同社の周りには話題が多いが、巨額の資金も確保している。出資企業で2番目の株主は、中国のバッテリー製造会社である駱駝集団(Camel Group)である。

 

 

08 結論

 

10年弱で世界最大の電気自動車市場になった中国の歩みは、速く普及させるためには政府による介入が必要であることのよい見本となった。

 

国の政策と支援は、電気自動車業界が市場を切り開くためには必須である。特に、消費者信頼感はインフラ整備と競争的な価格設定に頼っているため、国家による介入は電気自動車市場の成功の方程式には不可欠なのだ。

 

中国以外の国に目を向けた場合にも明白だ。ノルウェーのように電気自動車を普及させるために、1990年代から協調努力を続けてきた国は大きな成果を上げている。対照的に、北米のように軽い規制を行ってきた国では、市場が盛り上がっていない。

 

中国は自動車産業の発展と改革のために注力しており、2035年までに世界市場の50%を電気自動車にするというボアオ宣言の目標を目指している。

 

欧州では次の電気自動車ブームが来ると言われており、世界の電気自動車をめぐる覇権争いはますます面白くなるだろう。

 

そして大きな困難にもかかわらず、感染拡大は、政府による補助金と介入を強めることで、欧州での電気自動車の市場拡大を加速させたようだ。

 

豊富な刺激策と、すでに確立されたブランドが排出規制を達成する目的以上の電気自動車を販売することに乗り気でなかったことが合わさり、中国企業が一段と力を増す明確な機会となった。

 

中国の自動車会社がこの課題に取り組んできたことは明白だ。例えば、歴史あるブランドが欧州の消費者に大きな影響力を持っていることを理解し、中国ブランドをそのまま売ろうとするのでなく、欧米の自動車会社の株を買い占めたり、率直に買収すなどして、中国企業はその中に入り込む方策を探していた。

 

おそらく中国企業が欧州市場で強固な基盤を固めるまでにはまだ時間がかかるだろうが、自国の人材を強化することや、欧米のメーカーと競合できる電気自動車をつくろうとする、長期的野心からそれることはないだろう。中国企業が自国で成功するに至った法則を挙げると、以下の様になる。

 

・廉価な電気自動車に力をいれる
・消費者の選ぶことができるモデルレンジを広くする(SUVも含める)
・欧米企業の車種よりも長い航続距離を実現する
・テクノロジー好きのための車両
・消費者のデータを分析することから生まれるデザイン
・若い消費者へ強く訴求する

 

これらの項目が欧州市場に戦略的に適用された場合、多くの消費者に魅力を訴求できないとは考えにくい。そのためおそらくは、電気自動車の世界市場拡大という点で見れば、中国企業が成功するかどうかと言うよりも、欧州市場に無事参入するまでには後どれくらい時間がかかるかが問題なのだろう。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。