日本自動車工業会の豊田章男会長(トヨタ自動車社長)は今年初めの記者会見で、岸田政権が掲げる「成長と分配」を支援し、重点項目として取り組んでいく考えを表明した。これまでも自動車産業は雇用創出などの経済成長に寄与しており、これを継続、進化させることで日本経済の好循環につなげるとの見解を示す。(佃モビリティ総研・松下次男)
わが国の自動車産業について豊田会長は基幹産業としてこれまでも「すべてのステークホルダーへの還元や分配を進めてきた」と述べ、コロナ禍の2年間でも雇用は22万人増やしたと強調。
平均年収が500万円とすると家計に1兆1000億円のお金を回した計算になり、「近年の平均賃上げ率は2.5%と全産業トップの水準」とアピールした。
バブル崩壊以降、わが国経済は停滞しており、賃金の伸び率も先進諸国の中で最低水準との見方が指摘されている。このため、今年の春闘でも賃金引き上げを求める意見が多い。
これに対し、豊田会長はこれまでも自動車メーカーの12年間の累計納税額は「10兆円、株主還元は11兆円にのぼり、従業員だけではなく、取引先、株主など幅広いステークホルダーに持続的に還元をしてきた」と述べたうえで、これをさらに広げていくにはその「パイ」を増やすこと、つまり“成長”の必要性を訴えた。
その成長をどう実現するか。豊田会長は「「先が見えないデフレ社会の中で、金融資産や個人貯蓄、様々な“保有”が滞留している。これを動かし、大きく回していくことが必要ではないかと思う」と指摘し、自動車についても「保有を回転する」ことがカギになる点を掲げた。
具体的には、いま日本には8000万台の保有母体があるが、この平均保有年数は「現在15年以上と非常に長期化している」のが現状。
これが「10年で回るようになれば、市場規模は現在の500万台から、800万台」になり、自動車出荷額は7・2兆円増えると試算する。さらに「雇用」が新たに生まれ、バリューチェーン全体にも資金が回り、税収は消費税1%分に相当する2・5兆円の増収になると訴えた。
同時に、CASE対応時代を向け、今やクルマは単なる移動手段ではなく、蓄電池や情報通信デバイスとして社会インフラの一部になっており、社会全体と密接につながる存在になっている。だからこそ「自動車を軸にすれば経済・社会の好循環を生み出すことにもつながっていくと思う」と述べる。
記者会見は1月27日の2022年最初の理事会開催に合わせて開いたものだ。会見にはホンダの三部敏宏社長、ヤマハ発動機の日髙祥博社長、いすゞ自動車の片山正則社長、日産自動車の内田誠社長、スズキの鈴木 俊宏社長、それに事務局の永塚誠一氏を加えた6副会長(次期を含む)が同席した。
理事会では「成長・雇用・分配への取り組み」「税制改正」「カーボンニュートラル」「CASEによるモビリティの進化」「自動車業界のファンづくり」の5項目を今年の重点項目にすることを決議した。
この中でも、すべての背骨となるテーマが「成長と分配」とし、こうした活動方針の一端を示した。
加えて、活動を進めていくうえで、現状がどうなっているのかを把握するための「タスクフォース」を自工会内に立ち上げることも決めた。内田社長は「共通の課題を討議す場として提案した」と述べた。
カーボンニュートラル、モビリティの進化を巡っては、電気自動車(EV)分野への進出を表明したソニーなど新たなプレイヤーの参入も話題になっているが、三部社長はこれについて「欧米、中国でも新たなプレイヤーが誕生しており、商品やサービスがより広がる。我々を含めて切磋琢磨することができ、歓迎している」と述べた。
これに付け加え豊田会長はソニーの新会社について会員に加わることを「お待ちしている」と語った。
自動車関係諸税については、ユーザーの負担軽減に加え、「カーボンニュートラルを促進する税制の抜本改革の道筋を作っていく年にしていきたい。これらは中長期の視点で検討したい」との考えを永塚副会長は示した。
また、豊田会長も電動化の進展に伴って燃料課税と車体課税の比率が変化する可能性を示し、「車体課税のみに負担が偏るのは避けてほしい」と要望した。