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2024年7月24日【自動車・販売】

いすゞ、「エルフミオ」発売でドライバー不足に貢献

松下次男

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いすゞ自動車は7月24日、国内唯一のオートマチックトランスミッション(AT)限定の普通自動車運転免許で運転できる小型ディーゼルトラック「エルフミオ」を7月30日から発売すると発表した。(佃モビリティ総研・松下次男)

 

南真介社長COO(最高執行責任者)は東京都内で開いた新車発表会で昨今のドライバー不足に対応した「だれでもトラック」と新車をアピールした。

 

ドライバーの労働時間上限規制など、いわゆる2024年問題に代表されるドライバー不足問題は物流業界にとどまらず、様々な業種に影響を及ぼし始めている。こうした中、トラックドライバーの人材確保に寄与する小型トラックとして開発したのが今回のエルフミオだ。

 

販売目標は初年度5000台だが、南社長は2030年度には「1万2000台の販売を目指す」と述べ、年を追うごとに拡販、浸透する小型トラックと位置付けた。その背景に掲げたのが、乗用車感覚で運転でき、高い積載量を確保する小型トラックという点だ。

 

普通免許で運転するには、総重量が3・5トン未満でなければならない。しかも、最大積載量1・35トンを確保。これを実現して生まれたのが、今回のエルフミオだ。これが可能になったのは欧州や東南アジアで展開するピックアップトラックの1・9リットル・ディーゼルエンジン(DE)を国内用にモデファイし、実用化できたこと。さらに小型・中型トラックを一体開発した技術を生かした。

 

普通免許で運転できる小型トラックという点では、いすゞは今年1月に小型EV(電気自動車)トラックの「エルフミオEV」を発売済み。しかし、EVトラックは補助金を活用しても同クラスの倍以上の価格となり、経済合理性の観点から、当面は小型ディーゼルトラックのエルフミオが販売の中心になるとの見通しだ。

 

一方で、2030年までの中長期の視点からは、このクラスのトレンドは「おそらくEV化していくだろう」と南社長は話す。このため、EV化の課題としてコストダウンを掲げ、2027年、2030年にかけて低価格化に取り組む方針を示した。

 

また、今回のエルフミオの発売に当たっては、「革新的な売り方に挑戦する」と述べ、車両のオンライン販売に乗り出すと発表した。

 

エルフミオの発売にあわせて、スマートフォンやタブレットなどのデジタル端末で購入できるオンライン販売チャネル「ELFmioストア」を立ち上げ、“いつでも、どこでも”購入できる新しいトラックの購入スタイルをスタートさせる。利用者は都合の良い時間に、自身で見積もり作成ができ、オンライン商談の申し込みから車両契約まで、販売会社に足を運ばず完結できる。

 

新型エルフミオのパワートレインはピックアップトラックで実績のある1・9リットル・ディーゼルエンジンに6速ATを組み合わせ、AT限定の普通免許で運転できる小型トラックを実現した。燃費はクラストップの1リットル当たり13・9キロメートル(JC08モード)と中量車燃費基準を達成。積載量1・5トンクラスに十分な最高出力88キロワット、最大トルク320ニュートンメートルを発揮する。

 

キャビンは広く、快適な居住空間を確保したうえ、広いドア開口による優れた乗降性を確保する。また、小径ステアリングの採用やシートスライドピッチの細分化により、最適なドライビングポジションをとることが可能など、乗用車感覚で運転できるという。キャブバリエーションはシングルキャブ、ダブルキャブに加え、シート後方の室内空間を拡張したスペースキャブの3タイプを用意する。

 

安全装備では、「誤発進抑制機能」や「プリクラッシュブレーキ(直進時)」などを標準装備したほか、市街地走行に最適な「ブラインドスポットモニター」「プリクラッシュブレーキ(右左折時)」をオプション設定する。

 

完成車ラインアップでは、平ボディのほか、エルフミオ専用の軽量ドライバンや電動ダンプを用意し、多様な用途に対応する。
車両サイズは、全長4690ミリメートル、全幅1695ミリメートル、全高1960ミリメートル。

 

 

新型エルフミオのテレビコマーシャルには女優・モデルの本田翼さんをイメージキャラクターに起用。この狙いについて、南社長は若者にアピールするなど「トラックのイメージをガラリと変える」ためと述べた。エルフミオの東京地区希望小売価格(税抜き)は365万5千円。

 

新車発表会での質疑応答の要旨は次のとおり。
――エルフミオの発売に当たり新たなビジネスエリアに挑戦するとのことですが、具体的にどのような取り組みになるのでしょうか。また、市場での役割は。

 

「まず普通免許で運転できること。そして、一つ目は現行の中型トラックでお使いの方々ついて、普通免許で運転できる小型トラックで代用できるようになります。また、小さなトラックですが、様々な架装を施すことで多様な用途が開けます。

 

二つ目は、トラックの販売といえば、これまでは訪問販売などがありますが、時代の流れに合わせてウェブ販売、ネット販売に挑戦します。新しい販売に挑戦することで、これまで接触できなかったお客様などに接することが可能となり、販路が拡大できることです」

 

――小型トラックの収益性をどう見ているのでしょうか。

 

「このクラスの需要があるのはわかっていたのですが、これまでいすゞが出せなかったのはこのクラスに求められるコストや性能について乗用車メーカーの技術、コンポーネントと比較して、かなわなかったのが実態です。

 

今回、これが実現できたのはピックアップで実績のある1・9リットル・ディーゼルエンジンが使えたこと。加えて、昨年モデルチェンジした小型・中型を一体開発したが、今回もこの中のモデルの一つとして流用できたことです。

 

それと、販売面でもこのクラスは多くの人に行き渡ることを目指しますが、そこでオンライン販売を手掛けることにより、コスト的にも収益性が高まるとみています」

 

――今回のモデルのパワートレインにディーゼルエンジンを採用した狙いは。

 

「まず燃費の良さがあります。加えて、荷物を運ぶトラックという観点から、高性能の出力、トルクが求められ、ディーゼルエンジンが適していると判断しました」

 

――1月に発売したエルフミオEVは販売があまり伸びていません。2030年に向けて、それぞれの役割は。また、カーボンニュートラルに対する取り組みは。

 

「エルフミオシリーズはEVと今回のディーゼルがありますが、EVは補助金を加えても車両価格がディーゼルの2倍以上とまだまだ市場で伸ばしていく状況にはありません。

 

しかし、このクラスについてはおそらくEV化していくだろうとみており、2027年、2030年にかけて、バッテリーEVのコストダウンにきっちりと取り組みたいと考えています。2030年にはEVの方の比率が高まると考えています。

 

また、販売台数の点では、既存の3・5トン以上のトラックをお使いの方でも、積み荷がそれほど多くない人が多数いらっしゃるとみており、小さなクラスに移行できる方も少なくないでしょう。それと、普通免許で乗れるということで、様々ニーズが生まれる可能性があります」

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。