NEXT MOBILITY

MENU

2019年12月18日【エネルギー】

いすゞとABボルボ、商用車分野で戦略的提携へ

坂上 賢治

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

 いすゞ自動車株式会社(本社:東京都品川区、社長:片山正則、以下いすゞ)とスウェーデンに本拠を置くABボルボ(AktieBolaget VOLVO/本社:ヴェストラ・イェータランド県イェーテボリ、CEO:マーティン・ルンドステット)は、商用車事業の戦略的提携に向け両社で覚書を締結した。(坂上 賢治)

 

 

この戦略的提携の第一弾として両社は、日本およびアジア地域での事業を強固にしていくことを目的に、ABボルボが保有するUDトラックス株式会社(以下UD、旧・日産ディーゼル工業)と、UDブランドで海外展開している事業を、いすゞ側に譲渡するための手続きを開始する。

 

 ちなみにUDの事業価値は2500億円余りだ。ここ数年の自動車業界は、100年に一度といわれる大変革期に直面しており、特に輸送部門のコーマシャルビークル(商用車)領域は、物流事業上の課題や、昨今のCASEの進展により、自動運転の早期達成、電動化の実現を求める声が強く、むしろ乗用車領域よりも開発や事業化に至るスピード感が求められている。

 

 

これに伴うコスト負担や投資タイミングも、国際的な関連企業が限られるなかで、ABボルボもいすゞも世界を相手にする事業ゆえの待った無しの迅速さが求められている。

 

そうしたなか両社がそれぞれに保有する技術や、車両開発のノウハウを互いに持ち寄り、競合他社に対するアドバンテージを稼いでいく構えだ。

 

これについて今後は具体的な対象事業の決定。いすゞによるデューデリジェンス(投資調査)。さらに関連当局の認可を経た上で、最終的な譲渡価格の合意を模索。来る2020年末までの手続き完了を目指す。

 

 

 いすゞの片山正則社長は「両社は対等なパートナーとして新たな価値を見いだしていく」と語り、一方、この事業提携は2社連携による成果が2倍を大きく超えた相乗効果が得られるとボルボのマーティン・ルンドステット社長も太鼓判を押している。

 

実際、自動運転で「レベル4」の実証実験を欧州で進めるボルボは、当地エリアに於ける大型トラックの技術開発競争でトップを走っており、加えて運輸事業社などの顧客企業に対しても、新たな車両保有・維持のためのセールス戦略を打ち出している。

 

 対するいすゞは、アジアやASEAN地域で中小型車両を得意としているため、UDトラックをいすゞが買収してしまえば、ABボルボとの事業上の競合は限定的になる。

 

 

 そもそもいすゞは、1971年に米GM(ゼネラル・モーターズ)からの出資を受け入れて経営危機を一旦脱した後、2006年に同社との提携を解消。

しかし過酷な時勢上、単独での事業運営は確実に不利になるため、同じ年にトヨタ自動車と資本業務提携を締結した。

 

この提携当初は、トヨタに対してディーゼルエンジンを供給する等の戦略を打ち出しており、国内自動車産業界もこれに期待を寄せていたのだが、結果、これが実を結ぶこと無く、先の2018年には提携解消に至っている。

 

 現在、いすゞは、米国を拠点にコマーシャルビークルのエンジン開発を手掛けるカミンズとの業務提携を通して、次世代エンジンの開発に意欲を見せていたが、今回、ABボルボとの対等な提携を実現できることで、それぞれが得意とする商品や展開地域を相互に補完できる理想的なパートナーを得ることに成功したことになる。

 

 

 いすゞは「今後両社は、トップマネジメントにより組織するアライアンスボードのもと、〝先進技術/CASE対応に向けた技術的な協力体制の構築〟〝日本およびアジアを中心とした海外市場での大型トラック事業強化〟〝来るべき物流革命に向けた中・小型トラックの幅広い協業可能性〟を双方の戦略事業のテーマに据えて、様々な事業上の可能性を検討していく」と話している。

 

 対してABボルボのプレジデント兼CEOのルンドステット氏は「ABボルボといすゞは、ゆるぎない信頼関係のもと価値観やウィン-ウィン精神を共有できる関係だ。

 

今後は、先進技術やその他あらゆる分野で、幅広い協業を進めて行くことによって顧客や事業パートナーとして互いのニーズに応えていきたい。

 

 

またこの協業に係る第一弾となったUDトラックの譲渡は、UDにとってもさらなる成功を目指す旅立ちになるだろう」と述べている。

 

最後にいすゞの片山社長は「いすゞとボルボ・グループは、商品、技術、地域の視点で両社のマッチングは最適であり、協業可能性はあらゆる商用車領域で世界各地に存在すると確信している。

両社の協業は、来るべき物流革命の時代にお客様と社会の新たな価値を生み出す機会になる」と結んでいる。

 

締結調印で握手を交わす、いすゞの片山正則社長とABボルボのマーティン・ルンドステットプレジデント兼CEO

 

■双方の会社概要は以下の通り
いすゞ自動車株式会社
本社 : 東京都品川区南大井6-26-1 大森ベルポートA館
事業内容 : 自動車、輸送用機械器具、原動機等の製品およびその部品ならびに関連する資材・用品の製造、販売
– 2019年3月期連結売上高・2兆1491億円

 

AB VOLVO (ボルボ・グループ)
本社 : SE-405 08 Gothenburg, Sweden
事業内容 : トラック事業、バス事業、建設機械事業、船舶用エンジン事業
– 2018年12月期売上高・2兆9000億円余(トラック事業)

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。