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2025年1月8日【CASE】

ホンダ、CES2025でふたつのゼロシリーズを世界初披露

坂上 賢治

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独自のビークルOSを搭載した「0 SALOON」、「0 SUV」をCES 2025で世界初公開

 

本田技研工業( ホンダ )は1月8日、米国ネバダ州ラスベガス市で開催されているCES2025の杮落としとなる「CES 2025 Hondaプレスカンファレンス」で、来たる2026年に国際マーケットへの投入を想定しているEV「Honda 0( ゼロ )シリーズ」の「Honda 0 SALOON( ゼロ・サルーン )」、「Honda 0 SUV( ゼロ・エスユーブイ )」の2台のプロトタイプを世界初公開した。現段階では、具体的な販売価格は明らかではないが、最安値では470万円からのプライス帯を目指したい模様だ。

 

また同公開に併せて、これら0シリーズに搭載する独自のビークルOS「ASIMO OS( アシモ ・オーエス )」も発表した。

 

 

まずHonda 0 SALOONは、昨年のCES2024で公開した旗艦コンセプトモデル「SALOON」を、2026年の発売に向けて進化させたプロトタイプとなっている。そのエクステリアは、昨年のコンセプトモデルそのままであり、低く身構えたスポーティーなボディシルエットと、その外観からは想像できないほどの大きな室内空間を両立させているモデルだ。

 

 

そんな0シリーズSALOONは、新開発のEV専用アーキテクチャーをベースに「Thin, Light, and Wise.(薄い、軽い、賢い)」を具現化させる数々の次世代技術を搭載した。

 

その中でも、かつてホンダが世界で初めて実用化させた自動運転レベル3技術を、更に磨き上げ、ホンダとして高い信頼性を保証する自動運転技術や、ASIMO OSによりユーザー一人ひとりに“超・個人最適化”された移動体験など、Honda 0 SALOONに於ける“Wise”の一端を紹介した。

 

 

なおこのHonda 0 SALOONの量産モデルは2026年に北米市場へ投入し、その後、日本や欧州などグローバルへの展開を予定しているという。

 

中型SUVのプロトタイプは、Honda 0シリーズの第1弾となるモデル

Honda 0 SUVは、Honda 0シリーズの第1弾となる中型SUVのプロトタイプモデル。CES2024で公開したクルマづくりに於ける空間価値の捉え方を示したコンセプトモデル「SAPCE-HUB(スペース ハブ)」の考え方を踏襲した。

 

 

Thin, Light, and Wise.のアプローチをSUVに適用することで、空間の広さを一層拡張し、開放的な視界と自由度の高い広々とした居住空間を実現。併せてHonda 0 SALOONと同様、Thin, Light, and Wise.を具現化する様々な次世代技術を搭載している。

 

 

勿論、0シリーズネモデルゆえに車載ソフトウエアASIMO OSがもたらすユーザー一人ひとりに“超・個人最適化”され、進化し続ける空間価値やデジタルUXを実現する。

 

更にはホンダ独自のロボティクス技術で培った3次元ジャイロセンサーを用いた高精度の姿勢推定と安定化制御などにより、様々な路面環境下でも安心で意のままのダイナミクスが実現されているという。

 

 

なおHonda 0 SUVの量産モデルは、2026年前半に北米市場へ投入し、その後日本や欧州などグローバル各地域へ展開していく予定だ。

 

Honda 0シリーズに搭載する独自のビークルOS「ASIMO OS」も発表へ

 

ASIMO OSは、Honda 0シリーズに搭載される同社独自のビークルOS。ASIMOはかつてホンダの基礎技術研究の一環として、人の役に立ち、社会の中で利用できることを目指して開発されたヒューマノイドロボットの名前から引き継がれた。

 

 

1986年に研究開発を開始し、2000年に発表されたASIMOは、その後長きに渡り世界中で愛され、2000年から2010年代にかけてロボティクスの世界で象徴的な存在となった。Honda 0シリーズもASIMOと同様、「世界中の皆様に驚きと感動を与え、次世代EVの象徴となることを目指す」という思いを込め、Wiseの要となるビークルOSに”ASIMO”の名前を引き継がせた。

 

同社はASIMOの開発を終了させた後も、ASIMOの外界認識技術や人の意図を汲み取って行動する自律行動制御技術など、かつてのロボティクス技術を磨き・進化させてきた。Honda 0シリーズでは、これらと先進知能化技術を融合することで、Honda独自のソフトウェアデファインドビークル(SDV)の価値を提供することを目指す。

 

なおASIMO OSは、ソフトウェアプラットフォームとして、AD( 自動運転 )/ADAS( 先進運転支援システム )やIVI( In-Vehicle Infotainment:車載インフォテイメント )などのクルマのシステムを制御するECU( Electronic Control Unit )を統合的にコントロールする。

 

このASIMO OSを基盤として車載ソフトウェアを常にアップデートすることで、移動に楽しさや快適性をもたらす空間価値やデジタルUX、人車一体の操る喜びを司るHonda独自のダイナミクス統合制御などの機能やサービスを、車両を販売した後も、OTA( Over The Air )を通じ、ユーザー一人ひとりの嗜好やニーズに合わせて進化させていくとした。

 

そんなASIMO OSは、Honda 0 SUVやHonda 0 SALOONの量産モデルを含む、Honda 0シリーズの各モデルへ搭載していく予定だ。

 

世界に先駆け、自動運転レベル3を実現させ移動の新たな可能性も切り開く

 

Honda 0シリーズに搭載される自動運転( AD )技術は、先の2021年に「LEGEND( レジェンド )」で世界で初めて実用化した自動運転レベル3(アイズオフ):条件付自動運転車(限定領域)技術の「Honda SENSING Elite(ホンダ センシング エリート)」を更に磨き上げたもの。

 

今回の実用化にあたっては、世の中から交通事故の数を減らすことはもちろん、「人の運転であれば回避できた」というような事故は絶対に起こしてはならないという前提のもと、あらゆる運転条件や事象を想定してHonda SENSING Eliteを開発した。

 

ホンダは、このアイズオフ技術を普及させていくことが交通事故死者ゼロに繋がる道であると考え、Honda 0シリーズを通じて、より多くのユーザーに手が届く自動運転車をグローバルで提供していく構え。

 

 

それゆえ実現に向けては、Helm.aiの「教師なし学習( AIが自立的に考え、適格な正解を導き出す自己学習モデル )」と、熟練ドライバーの行動モデルを組み合わせた独自のAI技術により、少ないデータ量でAIが学習。効率よく自動運転・運転支援範囲を拡大させることに成功した。

 

また今回は、ヒトやモビリティの研究で培った独自の協調AIを活用することにより、人の運転でも難しい周囲の交通参加者との「譲り合い」といった協調行動の精度をより一層向上させているとした。これらの先進技術により、急な動物の飛び出しや落下物など、想定外の出来事に対しても素早く適切に対処できる、信頼性の高い運転支援が実現した。

 

Honda 0シリーズでは、まず高速道路での渋滞時アイズオフから自動運転技術を搭載し、OTAによる機能アップデートを通じて、運転支援・自動運転レベル3適用の範囲を拡大していく構え。

 

自動運転レベル3では、運転主体が人からクルマへと変わり、映画鑑賞やリモート会議など、これまでにはできなかった「ドライバーによる移動中のセカンドタスク」が可能となるという。Hondaは、この技術を進化させることで、世界に先駆けて全域アイズオフを実現し、移動の新たな可能性を切り開く。

 

ルネサス エレクトロニクスと共同開発する高性能 SoCの開発契約も締結へ

 

なおホンダは、こうした0シリーズが目指すSDV性能を実現させるべく、SoC( システム・オン・チップ )の開発でルネサス エレクトロニクス( ルネサス )と、コアECU向け高性能SoCの開発契約を締結したことを併せて発表した。

 

2020年代後半に投入する次世代のHonda 0シリーズのE&Eアーキテクチャーは、クルマのシステムを制御する役割を持つ複数のECUをコアECUに集約するセントラルアーキテクチャー型を採用する。

 

 

そんなセントラルアーキテクチャー型SoCをHonda 0シリーズ専用に用意。このコアECUは、AD/ADASといった運転支援やパワートレイン制御、快適装備など、車両の様々なシステムを一元的に管理することになる。

 

当然、コアECUには飛躍的な高性能なSoCが必要となる訳だが、それゆえに従来に比べて高い処理能力が必要となる他、長時間・長距離を走り続ける車載SoCだけに、それに伴う消費電力の高まりを効率良く抑制することが求められる。

 

そのためにルネサスでは、汎用車載半導体である第5世代「R-Car X5シリーズ」SoCに、Honda独自のAIソフトウェアに最適化されたAIアクセラレータをマルチダイチップレット技術(異なる機能を持つチップを複数組み合わせて1つのシステムを構築する技術)により複合化させる。この組み合わせにより、AI性能としては業界トップクラスの2,000 TOPS( 整数演算を1秒あたり何兆回できるかを示す数値でAI処理の性能を表す単位/Sparse )を20 TOPS/Wの電力効率で実現することを目指す。

 

全米でストレス無く利用できる新エネルギーサービスの取り組みも加速させていく

 

エネルギーサービスでもHonda 0シリーズ独自の配慮を用意。同車の走りを環境に負荷をかけることなく提供するには「ストレスフリーで自由な移動の実現に向けた充電網の構築」、「EVバッテリーを活用したクリーンでスマートなEVライフの提供」という2つの軸による新たなエネルギーサービスを用意することが求められる。

 

より具体的な充電網の構築にあたっては、Honda 0シリーズのユーザーが充電で困ることのない世界の実現を目指し、北米内で自動車メーカー8社( アメリカン・ホンダモーターと、BMWグループ、ゼネラルモーターズ、ヒョンデ、キア、メルセデス・ベンツグループ、ステランティスN.V.、トヨタ自動車 )による合弁会社「IONNA( アイオナ )」を通じ、2030年までに3万口の高品質な充電網を構築する。

 

これに加え、Honda 0シリーズの充電ポートに北米充電規格( NACS:North American Charging Standard )を採用することで、2030年には、Honda 0シリーズのユーザーが約10万口の充電網を使用できる環境を構築すべく充電網の拡大も併せて進めていく。

 

 

さらに、Honda 0シリーズの投入に合わせて、この広い充電網を有効に活用した新たな充電サービスの提供も検討する。当該サービスではHondaの知能化技術に、アマゾン ウェブ サービス( AWS )の生成AI「Amazon Bedrock」などの技術を組み込み、Honda 0シリーズや広い充電網から得られるデータを分析することで充電設備の検索や支払いのシンプル化などの面で、一人ひとりにパーソナライズされた充電体験を提供する。

 

またカーボンニュートラルの実現に向けては、EVの普及促進と共に、再生可能エネルギーの更なる利活用も不可欠だ。そこでEVの全充電シーンの約8割を占めるとも言われる自宅での充電環境では、Emporia Corp.と共同開発している「Home Energy Management System( ホーム エネルギー マネジメント システム )」に、HondaとBMW、Fordとの合弁会社「ChargeScape( チャージスケープ )」のVGI( Vehicle Grid Integration )システムを組み合わせることで、北米で展開しているEV向け充電サービス「Honda Smart Charge」を一層進化させていく。

 

 

これにより、電気代とCO2の削減に貢献する新たなサービスを、2026年以降、順次北米市場などで開始。同サービスにおいてHonda 0シリーズの車両は、仮想発電所( Virtual Power Plant )として機能し、ユーザー一人ひとりに最適化された充電計画を実行させることもできる。

 

具体的には、電気代が安く、再生可能エネルギーを活用できる時間帯を選んで充電を行い、電気代が高い時間帯は家庭向けに放電することで、家庭全体の電気代を賢くマネジメントする。

 

時に電力が不足している際には、充電した電力を電力系統へ供給することで、電力の安定化に貢献。こうしたケースではEVから収入を得ることも可能となる。また充放電を繰り返すことで懸念されるバッテリーの劣化も、ハイブリッド車で培ったバッテリーマネジメント技術により最小限に抑制させていく。

 

約30-分余りの尺となる「CES 2025 Hondaプレスカンファレンス」は、以下URLからも閲覧可能だ。 https://youtube.com/live/3M87dqNbY3U

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。