生産配置と生産能力の適正化でシビック次期モデルは北米生産へ
2月19日17時の東京・青山のホンダ本社。同社はイギリスでの車両生産を終了することを決めた。2021年末までにホンダ・オブザ・ユー・ケー・マニュファクチャリング・リミテッド(HUM:Honda of the U.K. Manufacturing Ltd./ウィルシャー州スウィンドン)での完成車生産を終了する方向で同日から労使間での協議に入る。八郷隆弘社長は、そう語りかけたこの日の緊急会見で、さらに次のように述べた。
「(完成車の)生産を終了する方向で協議に入ることについては非常に残念な思いでいっぱいだ。しかし欧州での我々のブランドをもう一度強化していく中で、グローバルでの生産配置、生産能力の適正化を考えると、今回の選択が一番ではないかと決断した」そう話す八郷社長は、2012年にホンダモーターヨーロッパの副社長に就任、スウィンドンの四輪生産工場に駐在した経験を持つ。
「ホンダ史上これは大きな決断だ。生産規模の縮小を伴う工場の閉鎖はかつてなかった」という八郷社長は「今期末でグローバルの能力は540万台あるが、実績では97%の稼働率。今回の適正化が行われると2021年末で510万台ほどの能力。稼働率は100%を超える予定」と語る。
またイギリスの工場閉鎖は前日の18日の欧州において、EUからの離脱に絡んで盛んに報道されたが、このHMUと共にトルコの四輪車生産工場Honda Turkiye A.S.でも、同時期に生産を終了することを発表した。
ホンダの生産配置と生産能力の見直しは、タイ、日本、ブラジルでも行ってきた。こうした背景から「(EU離脱の影響は)考慮していない」と否定。「シビックの生産拠点は我々だけでなく取引先を含めた設備対応の準備がある。そうしたことを踏まえ、いろんな方に迷惑をかけないタイミングで考えた上での発表である」ことを強調する。
欧州EV販売は「中国と商品ラインナップを共有」、急速な電動化時代で存在感を示す
英国工場で生産終了するという決断に至った大きな理由は、同社のグローバル展開におけるHUMの特異性にある。HUMはイギリス南部スウィンドンにあり、シビックハッチバック1機種だけを年間約16万台を生産する。しかしその55%は北米向けで、さらに10%は日本向けだ。シビック以外の機種は日本から輸出しており、同社は欧州市場における現地生産の有意性を生かし切れていなかった。
また2020年から北米で生産予定のシビック次期モデルは、現状の北米市場向け約8万8000台に留め、北米から欧州向けに供給することは「今のところは考えていない」という。また北米以外のどこでシビック生産を補うかについても未定だとした。
今後、ホンダは欧州市場でどのような戦略を立てるのか。キーワードは「電動化」だ。同社は2030年に四輪車販売台数の3分の2を電動化することを目標に掲げる。だが、欧州ではこれを5年間前倒してして2025年に実現する予定だ。欧州向けEVの供給は、日本と中国が担う。
「電動化は中国がかなり進む。それと同じような状況が欧州各国で起きている。中国でのボリュームを考えると、そこにメリットがあるので、日本、中国を中心に欧州に電動化の商品を供給することにした。
一方、欧州向けはハイブリッドを含め主に中国、日本から持っていく」と畳み掛ける。対してEV生産に係る体制造りに関しては、同社にとって市場規模の大きな中国、日本、米国で強化する。欧州でもその強化は必要だが、「域内での生産は競争力の観点から難しいと判断」したと述べ、「特に地域間での連携強化の考えに基づき、欧州では環境規制の方向性が近い中国と商品ラインアップを共有するなど、戦略的に電動化を含めた事業基盤の強化を図る」とした。
それでも現段階では欧州における本社機能は、引き続き英国に残す構えだ。八郷社長は「欧州事業からの撤退は考えていない。欧州でしっかり事業基盤を築けることを考えている。電動化が加速する中で環境対応のリーディングカンパニーとして欧州におけるHondaブランドを強化する」ことを目指すと結んで同会見を終えた。( 取材/執筆/写真撮影、中島みなみ・中島南事務所=東京 文京)