日野自動車は7月2日、小木曽聡社長の就任会見をオンラインで開いた。そこで小木曽社長は、「お客様、社会に役立つ取り組みをすべての起点にしたい」と述べ、大変革期に当たってもユーザー目線の重要性を訴えた。具体的な取り組みでは、グループのダイハツ、トヨタ車体と商用車連携を深化させる考えを明らかにした。(佃モビリティ総研・松下 次男)
小木曽氏は6月24日付で社長に就任。トヨタ自動車で小型車やプラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)などの開発に携わったあと、部品メーカーのトップ、トヨタのCVカンパニー・プレジデントなどを経て、今年2月から日野自動車顧問となっていた。
冒頭、小木曾社長は100年に一度の一度のCASE(ケース)という大変革期と言われている中で、先人からの「心のこもったタスキを引き継ぐことの重さをひしひしと感じている」との心情を吐露したあと、二つの基本となる経営指針を示した。
一つが「お客様、社会に役立つということを起点」した取り組み。日野自動車が掲げる中期計画「チャレンジ2025」が目指している活動方針やこれからの新サービス、新ビジネスのすべてでこの視点の重要性を訴えた。電動化、コネクテッドなどのケースによる変革が進む中で、「(ユーザー視点を考えずに)メーカーの技術を振りかざしても、うまくいかない」とも強調した。
カーボンニュートラルについても、商用車は自動車部門のCO2(二酸化炭素)排出量の約4割を占めていることから「電動化の取り組みは待ったなし」とした半面で、ユーザーや店舗、企業などの「お役に立てなければ、決して普及しない」との見方を示した。
エネルギー事情も違うことから「地域のエネルギー施策に合わせて方針を決める」ことが重要とした。
二つ目に掲げたのが、“人づくり”。変革のときこそ「人づくり、変革のスピードが大切である」と強調。そのためには、日々変化する現実に謙虚に向き合い、「原理現物、原理原則に沿って意思決定し、行動するチーム作り、企業体質が重要」と述べた。小木曽社長自身も「現場近くで、この変革の時に当たりたい」と表明した。
懇談会方式で行った質疑では、トヨタグループの商用車部門の連携強化に言及した。「あまり公にはなっていないが、トヨタのCVカンパニー・プレジデントだった時から、ダイハツの軽商用車を含めて、一括、連携したビジネス展開を行う議論を始めている」ことを明らかにした。
ダイハツの軽商用車、トヨタ車体の商用ワゴン車などと日野のトラック事業を、ケース、MaaSの到来に合わせて、深化、連携させ、人流、物流の最適化に寄与することを目指すものだ。
今後、ソフトウェアの重要性が増すことから、グループの知見を結集させる方針。ただ、個々の商品については「個性を持たせせればよい」とも述べた。
電動化、コネクテッド、自動運転などの先進分野では、中国のBYD(比亜迪)、独VWの商用子会社トレイトン、イスラエルのREEとの協業、さらに日本のいすゞともトヨタを介在して新会社を設立するなど企業間連携が相次ぐ。
これについてケース時代に「個社で対応していいてはスピードが足りない。加速が必要だ」とテーマによっては更なる連携、強化があり得るとした一方で、「最終的な(ユーザーとの)接点部分ではメーカー間で競争することも重要」と話した。
トヨタ時代も担当したFCV分野については「物流用途のFCトラックはインフラ配置を主要な幹線に置けばよく、FCVとの相性が良い」とし、欧米で商用車用のFCV開発が相次いでいることも「追い風」とした。半面で、「大きなクルマにFCスタックなどを搭載する技術」などが課題と述べた。
大型トラックの電動化については「重量、質量、さらに走行距離をみても、乗用車とは一桁違う。モーター、インバーター、バッテリーをさらに進化させる必要がある」との見解を示した。
小型トラックのEVについては、「日野デュトロZ(ズィー)EV」を開発、発表し、2022年初夏に市場投入する予定だが、物流の「ラストワンマイルに期待できるだろう」と見ている。
国内市場については「これまでのように大きくは伸びないだろう」としながらも、「まだまだお客様の要望に対応できていないところがある。このところを強化したい」と述べた。
小木曽聡(おぎそ・さとし)氏 東京工業大学工学部機械工学科卒後、1983年4月にトヨタ自動車に入社。初代の「プリウス」などの開発担当、PHV、FCVの開発担当を経て、2013年常務役員。2015年アドヴィックス社長。2018年トヨタ専務役員・CVカンパニー・プレジデント。 2021年2月日野自動車顧問、同6月社長就任。趣味は、健康のために始めた「ランニング」。