日野自動車は6月14日、運転手の異常などを検知した場合に自動停止させる機能を搭載した大型観光バス「日野セレガ」を7月1日に発売すると発表した。あわせて同社の羽村工場でその技術を含めた最新安全技術を報道陣に公開した。
「2020年代に高速道路死亡事故ゼロ、2030年代に一般道死亡事故ゼロ」を目標に掲げる日野は、これまで数々の安全技術を業界に先駆けて商用車に搭載してきた。2018年には、ドライバーの急変による事故防止対策として手動スイッチ式のドライバー異常時対応システム(EDSS)を大型観光バスに商用車世界初として搭載した。
今回披露したシステムは、それをさらに進化したもの。ドライバーの状態をモニターするカメラに人工知能(AI)技術を基にした画像解析を採用し、身体や顔の向きなどを判定。まぶたが閉じていたり、身体がうつむいたり、横方向へ倒れたりなど通常と違った状態が約5秒続き、車線も外れた場合、システムが作動して2段階ブレーキで自動停車させる。
その際、車内では非常ブザーが鳴るとともに前方上の荷物棚付近にある赤いランプが点滅し、バスが緊急停止することを乗客に知らせる。車外ではハザードランプやストップランプを点滅させて周囲の車両に異常を伝える。
「従来の手動スイッチ式のEDSSでは、ドライバーが異常な状態にあることを乗客に気づいてもらう必要がある。自動検知システムであれば、ドライバーの状態が異常で車両の挙動も異常であることを自動的に判断して、早めにブレーキをかけて安全な状態に持っていくことができる」と開発に携わった同社ADAS開発部の前野貴正グループ長は説明する。
今回、EDSSを進化させることができたのには、ドライバーモニターの性能向上が大きいそうだ。以前は赤外線カメラを使って夜間やサングラス着用などでも顔を認識していたが、マスクで鼻を覆ってしまうと顔認識ができなかった。
そこで、カメラの解析度を上げ、特徴点の抽出精度を向上させた。これにより、顔の輪郭や凹凸から人間の顔をより正しく認識できるようになった。また、画像認識のAI、機械学習を強化することによって、健康状態や集中力の低下、居眠り、脇見などの検知パターンも増え、さまざまな状態でも誤検知しにくくなった。
そのほか、出会い頭の事故を低減する大型トラック用のサイドアラウンドモニターシステムや、小型トラック用の前進誤発進抑制機能などの安全技術も披露した。前進誤発進抑制機能では、障害物に向かってアクセルをベタ踏みしても、ぶつかることがなく数10cm手前で止まることができた。「これでブレーキとアクセルを踏み間違えても、コンビニのガラスウインドゥなどに突っ込むことはなくなる」と担当者は自信を見せていた。
「こうした安全技術を交通事故死傷者ゼロの実現に向けて積極的な標準装備化していく」と先進技術本部の奥山宏和副領域長は話し、事故原因の9割以上といわれるヒューマンエラーの低減に向け、自動運転技術の開発にも積極的に取り組んでいくそうだ。( 経済ジャーナリスト/山田 清志 )