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2022年9月6日【自動車・販売】

トヨタモビリティ基金ら4者、AI解析で高齢者の運転支援実証

坂上 賢治

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実証実験の全体像

 

TMF・デンソー・東京海上日動・東京大。ドライブレコーダーのAI解析技術を先鋭化

 

トヨタ・モビリティ基金(TMF)、デンソー、東京海上日動火災保険(東京海上日動)、東京大学は9月6日、高齢者の安全運転支援を目的とした実証実験を、愛知県豊田市で開始すると発表した。( 坂上 賢治 )

 

その実証実験は、ドライブレコーダーから収集した映像等をAIで分析し、安全運転のためのアドバイスを行うというもの。AI技術で、高齢者の事故リスク低減を目指す同実証実験は、豊田市の交通死亡事故ゼロを目指す官民連携事業「ジコゼロ大作戦」の一環として実施される。

 

ここで翻ると近年は、交通環境上の技術革新も手伝い、交通事故の件数自体は大きく減少しているものの、それでも75歳以上の高齢ドライバーによる死亡事故の割合は増加傾向にある。

 

 

そうした流れを受けて2022年5月には、高齢ドライバーの事故対策を盛り込んだ改正道路交通法が施行され、より具体的には一定の違反歴のある75歳以上のドライバーへ対して、免許更新時に「運転技能検査(実車試験)」が義務付けられるなどの行政対応も行われている。

 

高齢者による事故が無い社会づくりは、来るべき近未来のための重要な仕組み

 

しかし、今後も日本国内に於ける最も人口比率が高い世代が下支えとなる事から、高齢の免許保有者の増加は避ける事が出来ない。それゆえ、高齢者が事故を起こさず安全運転を行える支援・仕組みづくりが、来るべき2020年代後半に向けて重要な社会課題であると言えるだろう。

 

今回のデンソーによる映像解析技術等を活用した試みは、ドライバーの挙動からAIが安全運転度を診断。これに東京海上日動、東京大学の知見も組み合わせる事で、高齢運転者に運転行動改善の意識作り・仕組み作りを行う。

 

今実証の主体であるトヨタ・モビリティ基金は、同実証実験を通じて得られた知見を詳細かつ速やかに公開して、速やかな課題解決を促すと共に産業界・学術界・医療界等との幅広い連携によって、高齢ドライバーの交通安全に意欲的に取り組んでいく構えだ。

 

なお実際の実証実験では、先の通り、デンソーが開発するAI運転診断システムが取り組みの骨子となっており、まずは車内外のカメラ映像やセンサーデータを活用して、ドライブレコーダー内のSDカードに運転記録を溜め込んで行き、これを分析する。

 

解析データから導き出す精緻な回答を高齢者ドライバーへフィードバックする

 

このようなドライブレコーダーを使った〝車内外データの解析サービス〟は現在、広く普及しているものであるが、デンソーのシステムの場合、記録データ全てを克明に解析するものであるため、日常の運転の癖など潜在的なリスクも詳細に解析出来る。

 

この結果、解析データから導き出す精緻な回答をドライバーへフィードバック出来る。これにより運転者は自らの行動変容を客観的に捉えられ、リスクに結びつく運転特性の気づきを促し、事故に至るまでの前段階で不測の事態に陥る事を抑制するよう働き掛ける。

 

運転評価&アドバイスの内容(抜粋・イメージ)

1.総合評価の点数やアドバイス、前月の自分の成績との比較、同世代との比較

2.参加者自身の危険運転の映像

3.交通ルール違反の回数*免許更新時(75歳以上)、実技試験の受検対象となる違反項目を含む

4.統計的に事故が多い自宅周りの危険運転の状態・映像の確認 等

 

 

そんな豊田市に於ける実証実験は、豊田市在住の60歳以上の計3000名程度の参加者数を想定。実施時期は2022年10月から2024年4月迄の約1年6ヶ月。運営は豊田都市交通研究所が担う。

 

参加者は4か月間、利用車両にドライブレコーダーを搭載した状態で運転データを記録と続ける。この記録データをデンソーのAI解析して、毎月参加者へ向け運転診断結果と運転アドバイスを提供するという流れだ。

 

このAI解析実証を介して〝ジコゼロ大作戦〟の成就を願う豊田市

 

実証実験に係る4者の役割は、「トヨタ・モビリティ基金 」がプロジェクト全体の企画・運営を。デンソーがAI運転診断システムの構築・運用を担う。

 

東京海上日動は、ドライブレコーダーの提供と運転結果フィードバックに関するデータ解析結果の検証支援を行う。その後、東京大学(大学院新領域創成科学研究科 小竹元基准教授) が、高齢者の運転行動分析と移動支援方策に係る知見・アドバイス等の提供を行っていく。

 

この実証を介して〝ジコゼロ大作戦〟の成就を願う豊田市は「交通安全の実現には、ドライバーや歩行者という〝人〟に対する啓発活動、安全な〝車〟の開発、信号設置や道路の整備などの〝交通環境整備〟が三位一体となった取り組みが重要です。

 

今回、TMF、デンソー、東京海上日動、東京大学は、AIツールを活用した〝人(高齢者)〟への啓発活動に加え、新たな技術や視点の導入を通じて、〝交通事故死傷者ゼロ社会〟の実現に向けた取組みを推進していきます」と述べた。

 

誰もが自由に移動できる真のモビリティ社会の実現へ向けた取り組み

 

またトヨタ自動車は「当社は創業以来、お客様、ビジネスパートナー、従業員、そして地域社会等、全てのステークホルダーを尊重しながら、自動車を通じた豊かな社会づくりを目指して事業活動を行なっています。

 

そうした想いを通して当社は、より公益的な活動を行う事を目的に2014年8月、トヨタ・モビリティ基金(TMF)を設立しました。

 

このTMFは、誰もが自由に移動できるモビリティ社会の実現に向け、幅広いプロジェクトを介して世界中の移動に関わる課題解決に取り組んでいます。

 

今後も、トヨタグループがこうした事業活動を通じて培う技術やノウハウを活用。多様なパートナーとの協働なども通して、国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)の考え方に沿った活動を進めつつ、人々が心豊かに暮らせる社会の実現に向け貢献していきたいと考えています」と語った。

 

参画4者は、今後も人や企業の支えとなり、日本の社会課題解決に貢献していく

 

更にデンソーは「ドライバーや歩行者をはじめとする世界中の全ての人にとって、安全で自由な移動の実現、人々が安心して暮らせる社会づくりは未来社会に於いて、最重要なインフラである事から当社は今日も鋭意、技術開発や新たな製品作りに取り組んでいます。

 

当社は今回の実証実験を通じ、データに基づいた高齢ドライバーの運転技能の維持・向上、および改善に貢献する事で、誰もが安全に運転しているような支援・仕組み作りに貢献していきます」と話している。

 

加えて東京海上日動は、「我々は新たなモビリティ社会を見据え、損害保険事業を通じて蓄積してきたデータやテクノロジーを活用。従来の保険の枠組みに捕らわれない保険商品とソリューションを開発する事で、より高いレベルの安心・安全の提供に取り組んでいます。これからも挑戦する人や企業の支えとなり、日本の社会課題解決に貢献していきます」とコメント。

 

最後に東京大学は、「高齢者の日々の生活特性や身体特性からQOL向上を目指し、生活空間に於ける安全な移動実現のための支援や方法を実現しています。

 

中でも特に加齢に伴う心身特性の特徴や変化から、自らの運転行動の気づきを促し、安全な運転行動への理解、画期的な行動変容を促す支援方策や、その仕組みについて学術的に学び・提案し・貢献していきます」と結んでいる。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。