フィアットの創業家(アニェッリ家)を代表するジョン・エルカン議長が率いるフィアット・クライスラー・オートモービルズ・N.V.(FCA)の取締役会は6月6日の12時04分(欧州時間)、仏ルノーに対して提出した(5月27日)両社・対等統合提案の取り下げを決議。該当事案の撤回に加え、協議そのものの中止をルノー・グループに対して通達した。ルノー側は協議の延長を求めたがFCAはそれを拒否した。(坂上 賢治/誌面連動記事)
この日の前々日にあたる4日の協議時点で、平行線を辿っていた両社の連携交渉は、さらに5日夜に互いの溝を埋めるべく改めて協議の場を設けた。しかしルノーの筆頭株主であるフランス政府は、今統合承認に係る必須条件として、目下、別途交渉を進めている最中の日産側が納得する枠組みでのルノー・FCA間の事業統合を希望。
これに沿って、ルノー取締役会の一員を占める日産側のメンバーは、少なくとも現段階の提携合意案の意思表明となる「態度保留」という流れになってしまった。これによりFCA側は「ルノー陣営全体に対する信頼感が瓦解した」とし、これが提案取り下げを表明する一因となった。
つまり今統合実現を阻んだひとつの要因が「ルノーと日産による永年の提携関係の安定的維持」を含んでいたことがこの日に初めて判明した。逆に言うとFCA側は、今回の統合協議そのものに積極的に参加してこなかった日産に対して、横浜のグローバル本社が納得できる答えを用意できずに終わったということでもある。
実際、ルノーとFCAが提携交渉を続けていた3日時点で、日産の西川廣人社長は今回のルノー・FCAの統合案実現に対して「これまでの日産とルノーの関係の在り方を基本的に見直していく必要がある」と公に発言して、統合案が自らの企業の成長にとって不透明かつ、納得できていない旨を暗に表明していた。
これに対してFCAは、今統合提案はルノー・FCAの互いの事業全体に対して、ビジネス面で充分な説得力を持ち合わせており、さらに日産や三菱自動車工業を含む今取引に関わるステークホルダー全員に、均衡かつ等しいと言わないまでも、多大な経済的メリットをもたらすと雄弁に語っていた。しかし今日、フランス政府と日産の意向を前に、現段階では提案した統合案を実現できる環境にないことを遂に悟った。
今回FCAのジョン・エルカン氏は、あらかじめ自らの株主に27億5000万ユーロ(約3360億円/2016年6月6日時点のレート)の配当を支払い、かつ自社の時価総額がルノーを上回るという希なタイミングを見計らった上で統合交渉を有利な立場で進めるという前CEO(FCA)のセルジオ・マルキオンネ氏張りの狡猾な戦略を実行。
今後の工場閉鎖や人員削減に激しく抵抗すると見られるイタリア・米国の労働組合という障害も、さらには企業経営に深く口出しを重ね、新会社の経営の重心をもフランスに引き戻そうとする同国政府の横槍にもモノともせず、それどころか彼らの威信をも守りつつも果敢に統合交渉を推進した。しかしその夢も今の時点で一旦潰えることになった。
なおFCAでは「ルノーのジャン=ドミニック・スナール会長とティエリー・ボロレCEO、さらにアライアンス・パートナーである日産自動車と三菱自動車工業に対して、今提案を踏まえて建設的な姿勢を見せてくれたことに対して心からの謝意を表明します」と述べ、さらに「FCAは今後も、当社独自の戦略の実行を通して、当社のコミットメントを果たしていきます」と結んでいる。またフランス政府の介入は今後、日産・ルノーの経営交渉にも少なからず影響を与える可能性がありそうだ。