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2019年6月6日【オピニオン】

FCA、ルノーとの統合提案を撤回へ。仏政府の介入に嫌気

坂上 賢治

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 フィアットの創業家(アニェッリ家)を代表するジョン・エルカン議長が率いるフィアット・クライスラー・オートモービルズ・N.V.(FCA)の取締役会は6月6日の12時04分(欧州時間)、仏ルノーに対して提出した(5月27日)両社・対等統合提案の取り下げを決議。該当事案の撤回に加え、協議そのものの中止をルノー・グループに対して通達した。ルノー側は協議の延長を求めたがFCAはそれを拒否した。(坂上 賢治/誌面連動記事)

 

 この日の前々日にあたる4日の協議時点で、平行線を辿っていた両社の連携交渉は、さらに5日夜に互いの溝を埋めるべく改めて協議の場を設けた。しかしルノーの筆頭株主であるフランス政府は、今統合承認に係る必須条件として、目下、別途交渉を進めている最中の日産側が納得する枠組みでのルノー・FCA間の事業統合を希望。

 

 

これに沿って、ルノー取締役会の一員を占める日産側のメンバーは、少なくとも現段階の提携合意案の意思表明となる「態度保留」という流れになってしまった。これによりFCA側は「ルノー陣営全体に対する信頼感が瓦解した」とし、これが提案取り下げを表明する一因となった。

 

つまり今統合実現を阻んだひとつの要因が「ルノーと日産による永年の提携関係の安定的維持」を含んでいたことがこの日に初めて判明した。逆に言うとFCA側は、今回の統合協議そのものに積極的に参加してこなかった日産に対して、横浜のグローバル本社が納得できる答えを用意できずに終わったということでもある。

 

 実際、ルノーとFCAが提携交渉を続けていた3日時点で、日産の西川廣人社長は今回のルノー・FCAの統合案実現に対して「これまでの日産とルノーの関係の在り方を基本的に見直していく必要がある」と公に発言して、統合案が自らの企業の成長にとって不透明かつ、納得できていない旨を暗に表明していた。

 

 

これに対してFCAは、今統合提案はルノー・FCAの互いの事業全体に対して、ビジネス面で充分な説得力を持ち合わせており、さらに日産や三菱自動車工業を含む今取引に関わるステークホルダー全員に、均衡かつ等しいと言わないまでも、多大な経済的メリットをもたらすと雄弁に語っていた。しかし今日、フランス政府と日産の意向を前に、現段階では提案した統合案を実現できる環境にないことを遂に悟った。

 

 今回FCAのジョン・エルカン氏は、あらかじめ自らの株主に27億5000万ユーロ(約3360億円/2016年6月6日時点のレート)の配当を支払い、かつ自社の時価総額がルノーを上回るという希なタイミングを見計らった上で統合交渉を有利な立場で進めるという前CEO(FCA)のセルジオ・マルキオンネ氏張りの狡猾な戦略を実行。

 

 

今後の工場閉鎖や人員削減に激しく抵抗すると見られるイタリア・米国の労働組合という障害も、さらには企業経営に深く口出しを重ね、新会社の経営の重心をもフランスに引き戻そうとする同国政府の横槍にもモノともせず、それどころか彼らの威信をも守りつつも果敢に統合交渉を推進した。しかしその夢も今の時点で一旦潰えることになった。

 

 

 なおFCAでは「ルノーのジャン=ドミニック・スナール会長とティエリー・ボロレCEO、さらにアライアンス・パートナーである日産自動車と三菱自動車工業に対して、今提案を踏まえて建設的な姿勢を見せてくれたことに対して心からの謝意を表明します」と述べ、さらに「FCAは今後も、当社独自の戦略の実行を通して、当社のコミットメントを果たしていきます」と結んでいる。またフランス政府の介入は今後、日産・ルノーの経営交渉にも少なからず影響を与える可能性がありそうだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。