三井化学の橋本修社長が就任早々、厳しい状況に追い込まれている。6月2日に行った経営概況説明会によると、新型コロナウイルスと原油価格下落の影響で2020年度の業績が大きく悪化する見通しだ。売上高が19年度に比べて2045億円減少の1兆1450億円、営業利益が374億円減少の350億円、当期純利益が121億円減少の200億円と予想する。2月初めに社長交代を発表したときには、こんなことになるとは想像していなかったであろう。(経済ジャーナリスト・山田清志)
モビリティ事業の20年度営業利益が36%減に
「自動車など成長領域に注力する変革をさらに加速させる」と橋本社長は社長交代会見で抱負を語ったが、その主力のモビリティ事業は新型コロナウイルスの影響で大きく失速。20年度の営業利益が152億円減(36%減)の275億円の見通しだ。
「われわれの見立てとしては、自動車の生産自体は上期非常に厳しい状態が続くと考えている。おそらく50%減とかで、下期に徐々に戻ってくると思うが、年間を通してみれば、総生産台数は大体20%ぐらい落ちるのではないかと見ている。下期に完全に回復するまでには行かないだろう」と橋本社長は説明する。
足元の状況は、回復が早かった中国がフル稼働に近い状態に戻り、米国や欧州についても完全に止まっていた状態から徐々に生産が開始され、三井化学のPPコンパンド生産もそれに合わせて稼動を上げているところだという。
ポストコロナを睨み新たな組織を設置
「われわれとしては、モビリティ事業はコア中のコア事業で非常に重要な事業だと考えている」(橋本社長)そうで、ポストコロナを睨んで強化していく方針だ。というのも、電動化や自動化といった「CASE」の流れはコロナの影響を受けても変わらないと考えているからだ。
そこで、全社横断的な組織で責任と権限を付与した「モビリティCoEプロジェクト推進室」を設置する。CoEとはCenter of Excelleceの略で、軽量化やCASEなど今後起こりうる大きな変化を見据え、取引先に最速・最適なソリューションを提供していく組織だ。グローバルに情報収集、戦略立案を行い、事業開発をリードしていくそうだ。
また、74.4%を出資していた自動車の開発支援を手がけるアークを100%完全子会社化する。
橋本社長はこの狙いについて「アーク社が持っているモデルの試作技術とか、いろいろなデジタル技術とか、ソリューション周りのビジネスが非常に豊富だ。それを使い切るには100%子会社化のほうがスムーズに行く。お客のニーズに対して早く、あるいは新たな視点で提案ができるだろう」と説明する。
長期経営計画「VISION2025」の見直しも
しかし、コロナウイルスの影響によって、経営計画に大きなズレを生じたのは間違いない。三井化学は淡輪敏前社長時代の2016年に長期経営計画「VISION2025」を策定した。その2025年の目標は売上高2兆円、営業利益2000億円、営業利益率10%、ROE10%以上といったものだ。
今年度はその折り返し地点になるが、前述したように売上高が1兆1450億円、営業利益が350億円、営業利益率が3.1%、ROEが3.7%と完全にオンラインから外れてしまったと言っていい。その原因となったのがモビリティ事業と基盤素材事業だったわけだ。
基盤素材事業はナフサ価格急落による在庫評価損で、20年度の営業損益が202億円減少して115億円の赤字に転落する。残りのヘルスケアとフード&パッケージング事業は、総じてコロナウイルスの影響はあまり受けずに対前年度とほぼ近い形で20年度も推移するそうだ。
「当面の間は長期経営計画『VISION2025』の戦略を踏襲しながら、さらなるダウンサイドリスクに備えたキャッシュフローの確保とコロナウイルスとの共存を前提とした新しいワークスタイル、サプライチェーンの検討を行って、逐次実行していくことは重要になってくると思う」と橋本社長は説明し、長期経営計画の見直しを行っていく方針だ。
橋本社長は1963年10月生まれの56歳。三井化学にとって初の50代社長だ。しかも、歴代の多くが“本流”とされる基礎化学品事業の出身であるのに対し、橋本社長は不織布など機能化学品事業の出身だ。そんな橋本社長が今後、M&Aなどを含めてどのような三井化学にしていくのか注目されそうだ。