コンセプトカー「Moeye(モアイ)」の側面
京セラは9月29日、自社製のデバイスを多数搭載したコンセプトカーの第2弾「Moeye(モアイ)」を開発したと発表し、報道陣に公開した。それはエクステリアがクラシックカーみたいだが、インテリアはダッシュボードが透明になる、驚きのクルマだ。MaaS時代の人とクルマの関わりがどうなるかを考え、新しいコックピットの世界観を提案したそうだ。(経済ジャーナリスト・山田清志)
コンセプトカー「Moeye(モアイ)」の正面
東大教授と協働し光学迷彩技術を用いて透明化
モアイは自動運転化やMaaS(Mobility as a Service)の普及か進む中で、車室内空間の重要性に着目し、驚きと快適をもたらす未来のコックピットをイメージしている。その象徴的な機能として、東京大学先端科学技術研究センターの稲見昌彦教授と協働し、独自の光学迷彩技術を用いてダッシュボードを透明化してドライバーの視野を広げることを可能にした。
コンセプトカー「Moeye(モアイ)」の車内
クルマの前部に搭載された8個のカメラでとらえた映像を、リアルタイムでコンピュータ処理し、乗員背後のプロジェクターからダッシュボードに投影する仕組みになっている。横幅1200mmのダッシュボードは表面に再帰性反射材が使われており、光が当たると光源の方向にそのまま反射する工夫が施されている。
また、ダッシュボードはディスプレイの役割も果たし、速度や地図などの情報から車内エンターテイメントのソースまで、裸眼立体視技術によってグラフィックをバーチャル3Dで表示される。
光学迷彩技術を用いたダッシュボード
視覚、触覚、聴覚、嗅覚を楽しませるデバイスを搭載
さらに、人間の視覚、触覚、聴覚、嗅覚を楽しませる京セラ独自のデバイスを数多く搭載し、クルマとして重要な安全性とエンターテイメント性の両方を兼ね備えたクルマになっていて、京セラが考える未来のクルマの世界観を世に問うものになっている。
例えば、視覚面では、光学迷彩技術を用いたダッシュボード以外でも、LED照明セラフィックにより、スペクトルのカスタマイズが可能なため、通常のLED照明では難しかった繊細な色彩表現が可能になった。それにより、朝夕の自然光を自由に変調し、光で快適な車室内空間を演出できる。
触覚面では、パネルを指でタッチし感圧で微細な振動を発生させ、クリックしたことを伝えるハプティビティ(触覚伝達技術)をインパネとセンターコンソールに搭載し、ユーザーインターフェースの操作と連動させて、ボタン押下の食感を実現した。
会見風景
聴覚面では、ピエゾ素子を用いた振動スピーカーを搭載し、車室内に迫力あるサウンドを提供し、耳で楽しめる快適空間を演出。ヘッドレストにも振動スピーカーを搭載してドライバーの耳元にクリアなサウンドを提供する。そして嗅覚面では、車室内に5種類の豊かな香りや匂いを噴射させ、期分に応じて香りを選び楽しむ快適空間を演出した。
人が注目しない分に新しい価値
第1弾の「スポーツEVコンセプトカー」は、高感度カメラやサラウンドビューカメラ、よそ見運転を警告するドライバーモニタリングシステム(DMS)など12の京セラ製ADAS最先端製品を搭載し、安全に快適に走ることを意識したクルマだった。それに対し、今回のモアイはクルマの中で快適に過ごすことを意識したクルマだといっていいだろう。そのため、走行はできないそうだ。
京セラの稲垣正祥執行役員上席
「今回のモアイの提案は、人があまり注目していない部分に新しい価値があるのではないかということだ。それが同ビジネスに結びつくかは、正直言って今は分からない。ただ、この価値提案に共感して、私どもと一緒に何かやりたいという企業なり、研究者がいたら、是非一緒にやりたい」と京セラ研究開発本部長の稲垣正祥執行役員上席は話していた。
ちなみに「モアイ」という車名は、「More “eye”」「More “I”nnovative」「More “愛”」という意味が込められているという。自動車業界は、CASEに象徴される大変革期を迎えており、自動車が単なる移動のための“箱”になってしまうという見方も出ている。京セラはその“箱の中”に注目し、人間の五感の中から味覚を除いた4つの感覚で楽しむことができる移動空間をこのモアイで表現したのである。