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2019年12月10日【アフター市場】

電通の子会社、愛車の一時交換C2Cサービスを開始

山田清志

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 電通の100%子会社、カローゼットは12月10日、ユーザー間で愛車の一時交換が可能なアプリサービス「CAROSET(カローゼット)」の提供を同日から開始すると発表した。これは、所有する自分のクルマをアプリに登録することで、他のカローゼット会員のクルマと“一時的に”交換できるサービスで、これにより、会員はメーカー、タイプ、デザイン、カラー、装備など自分が所有しているクルマとは異なる複数のクルマを自由に利用できるようになるという。(経済ジャーナリスト・山田清志)

 

カローゼットの内藤丈裕社長

 

電通社員が会社に対して事業提案をしたのがきっかけ

 

 「カローゼットは自家用車を所有している人たちの場であり、自家用車のオーナー同士がそれぞれのニーズに応じて一時的に交換し合うことで、クルマのある生活の利便性をこれまで以上に高めていく。そのようなサービスだ」とカローゼットの内藤丈裕社長は話し、「カローゼットを個人間カーシェアリングの一つとして捉えると、実態を見誤ってしまう。それらとは完全に立ち位置が異なるサービスである」と強調する。

 

「これまでのカーシェアとは立ち位置が違う」と力説する内藤丈裕社長

 

「シェアリングエコノミー」という言葉が一般的になりつつある現在、住まい、クルマ、空きスペース、スキルなどさまざまな商材を扱う多くのシェアサービスが存在している。しかし、クルマを例に取ると「借りようと思ったときに借りられない不安がある」「雨の時に近所とはいえ借りに行くのに不便を感じた」などの声もあり、クルマを所有することで手に入れられる「思い立ったときに自由に出かけられる」という利便性を100%、既存のシェアサービスに置き換えることが難しいのが実情だ。

 

 さらに、日本自動車工業会のデータを見ると、「自動車保有の必要性が高い」と回答する人は東京23区では3人に1人に留まるが、首都圏40km圏内では56%、40km圏外では83%、地方都市部では最大92%にまで増える。全国平均でも70%の人が自動車所有の必要性が高いと回答している。ここにカローゼット独自のサービスを提供する価値があると考えたわけだ。

 

電通の大久保裕一執行役員

 

「今回のカローゼットは、社員自らが自発的に社に対して、社内ベンチャーとして事業提案を行ってきたことが起点となっている。日々の仕事の中で蓄積された知見を生かして消費者の生活の質向上に貢献するべく設立された電通グループ初のC2Cプラットフォームビジネスを提供していく100%直接出資の子会社となる」と電通の大久保裕一執行役員は説明する。

 

借りた側は借りた日数だけ自分の愛車を貸し出すのがルール

 

 最大の特徴は、自分が他の会員からの愛車一時交換リクエストに応じた日数分だけ、自分も他の会員に愛車一時交換がリクエストできるというルールで、クルマの一時交換においてオーナー間での金銭のやりとりが一切発生しないことだ。

 

例えば、コンパクトカーを所有している人が多人数で旅行に出かけるためにミニバンを3日間借りたいとの希望があるとする。アプリに登録されたクルマや地域などからミニバンを持つユーザーを選択し、貸し手にリクエストを送って承認されればマッチングが成立する。そして、借りたい人が貸し手の指定された場所に行けば、クルマを交換できる。

 

カローゼットのスマホアプリ画面

 

ただ、借りた側は借りた日数だけ自分が所有するクルマを貸し出す必要がある。もし他のユーザーから所有するクルマを貸してほしいというリクエストがなかったり、リクエストがあった場合でも30日以内に交換に応じられなかったりすれば、自分が車を借りた日数に応じて1日当たり4980円をカローゼットに払うことで精算する。カローゼット側はこの清算金とシステム利用料月額780円で収益を上げる考えだが、利用料は2020年5月まで無料となっている。

 

 また、このサービスには個人だけでなく、自動車ディーラーのボルボ・カー・ジャパンやホンダカーズ東京西、サンオータス、フレックスなども登録している。主にそこの試乗車が登録されていて、販売店に自分のクルマを預けることで利用できる。ディーラーは自社で扱うクルマを個人のユーザーに借りてもらうことで、新車の買い換えを後押しする狙いもある。「他にも多くのディーラーから引き合いがきている」(内藤社長)そうだ。

 

「このカローゼットにおいても、協業企業とウィンウィンとなる新しい時代の事業パートナーシップを築いて行くべく、これからさまざまなプロジェクトがキックオフする予定になっている」と大久保執行役員。

 

左から電通の大久保裕一執行役員、カローゼットの内藤丈裕社長、大和ハウス工業の富樫紀夫執行役員、東京海上日動火災保険情報産業部の堤伸浩部長、Fujisawa SST協議会の山本賢一郎代表幹事、三菱地所新事業創造部の小林京太部長

 

 すでに大和ハウス工業、東京海上日動火災保険、三菱地所、Fujisawa SST協議会が名乗りを上げ、新たなサービスの検討を進めている。そこでは、カローゼットが提唱する「Open Personal Asset(OPA・オーパ)」という概念のもと、クルマだけでなく、キャンプ用品、スポーツ用品、洋服、子供用品、書籍といった個人資産の共利用を目指している。

 

「個人所有の資産を近隣住民間で互いに無償で共利用し合うことにより、生活利便性の向上を進めていきたい。また、子供のケアを働く主婦同士が助け合うことで、働きながら子供を育てやすい環境をつくり、社会課題の解決に貢献できればと考えている」と内藤社長は話していた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。