電通の100%子会社、カローゼットは12月10日、ユーザー間で愛車の一時交換が可能なアプリサービス「CAROSET(カローゼット)」の提供を同日から開始すると発表した。これは、所有する自分のクルマをアプリに登録することで、他のカローゼット会員のクルマと“一時的に”交換できるサービスで、これにより、会員はメーカー、タイプ、デザイン、カラー、装備など自分が所有しているクルマとは異なる複数のクルマを自由に利用できるようになるという。(経済ジャーナリスト・山田清志)
カローゼットの内藤丈裕社長
電通社員が会社に対して事業提案をしたのがきっかけ
「カローゼットは自家用車を所有している人たちの場であり、自家用車のオーナー同士がそれぞれのニーズに応じて一時的に交換し合うことで、クルマのある生活の利便性をこれまで以上に高めていく。そのようなサービスだ」とカローゼットの内藤丈裕社長は話し、「カローゼットを個人間カーシェアリングの一つとして捉えると、実態を見誤ってしまう。それらとは完全に立ち位置が異なるサービスである」と強調する。
「これまでのカーシェアとは立ち位置が違う」と力説する内藤丈裕社長
「シェアリングエコノミー」という言葉が一般的になりつつある現在、住まい、クルマ、空きスペース、スキルなどさまざまな商材を扱う多くのシェアサービスが存在している。しかし、クルマを例に取ると「借りようと思ったときに借りられない不安がある」「雨の時に近所とはいえ借りに行くのに不便を感じた」などの声もあり、クルマを所有することで手に入れられる「思い立ったときに自由に出かけられる」という利便性を100%、既存のシェアサービスに置き換えることが難しいのが実情だ。
さらに、日本自動車工業会のデータを見ると、「自動車保有の必要性が高い」と回答する人は東京23区では3人に1人に留まるが、首都圏40km圏内では56%、40km圏外では83%、地方都市部では最大92%にまで増える。全国平均でも70%の人が自動車所有の必要性が高いと回答している。ここにカローゼット独自のサービスを提供する価値があると考えたわけだ。
電通の大久保裕一執行役員
「今回のカローゼットは、社員自らが自発的に社に対して、社内ベンチャーとして事業提案を行ってきたことが起点となっている。日々の仕事の中で蓄積された知見を生かして消費者の生活の質向上に貢献するべく設立された電通グループ初のC2Cプラットフォームビジネスを提供していく100%直接出資の子会社となる」と電通の大久保裕一執行役員は説明する。
借りた側は借りた日数だけ自分の愛車を貸し出すのがルール
最大の特徴は、自分が他の会員からの愛車一時交換リクエストに応じた日数分だけ、自分も他の会員に愛車一時交換がリクエストできるというルールで、クルマの一時交換においてオーナー間での金銭のやりとりが一切発生しないことだ。
例えば、コンパクトカーを所有している人が多人数で旅行に出かけるためにミニバンを3日間借りたいとの希望があるとする。アプリに登録されたクルマや地域などからミニバンを持つユーザーを選択し、貸し手にリクエストを送って承認されればマッチングが成立する。そして、借りたい人が貸し手の指定された場所に行けば、クルマを交換できる。
カローゼットのスマホアプリ画面
ただ、借りた側は借りた日数だけ自分が所有するクルマを貸し出す必要がある。もし他のユーザーから所有するクルマを貸してほしいというリクエストがなかったり、リクエストがあった場合でも30日以内に交換に応じられなかったりすれば、自分が車を借りた日数に応じて1日当たり4980円をカローゼットに払うことで精算する。カローゼット側はこの清算金とシステム利用料月額780円で収益を上げる考えだが、利用料は2020年5月まで無料となっている。
また、このサービスには個人だけでなく、自動車ディーラーのボルボ・カー・ジャパンやホンダカーズ東京西、サンオータス、フレックスなども登録している。主にそこの試乗車が登録されていて、販売店に自分のクルマを預けることで利用できる。ディーラーは自社で扱うクルマを個人のユーザーに借りてもらうことで、新車の買い換えを後押しする狙いもある。「他にも多くのディーラーから引き合いがきている」(内藤社長)そうだ。
「このカローゼットにおいても、協業企業とウィンウィンとなる新しい時代の事業パートナーシップを築いて行くべく、これからさまざまなプロジェクトがキックオフする予定になっている」と大久保執行役員。
左から電通の大久保裕一執行役員、カローゼットの内藤丈裕社長、大和ハウス工業の富樫紀夫執行役員、東京海上日動火災保険情報産業部の堤伸浩部長、Fujisawa SST協議会の山本賢一郎代表幹事、三菱地所新事業創造部の小林京太部長
すでに大和ハウス工業、東京海上日動火災保険、三菱地所、Fujisawa SST協議会が名乗りを上げ、新たなサービスの検討を進めている。そこでは、カローゼットが提唱する「Open Personal Asset(OPA・オーパ)」という概念のもと、クルマだけでなく、キャンプ用品、スポーツ用品、洋服、子供用品、書籍といった個人資産の共利用を目指している。
「個人所有の資産を近隣住民間で互いに無償で共利用し合うことにより、生活利便性の向上を進めていきたい。また、子供のケアを働く主婦同士が助け合うことで、働きながら子供を育てやすい環境をつくり、社会課題の解決に貢献できればと考えている」と内藤社長は話していた。