日本市場投入のBEV第2弾 9月20日発売
中国BYD(比亜迪)が9月20日、日本市場に向けてバッテリー式電気自動車(BEV)の第2弾を投入する。今回投入するのは、同社の車両投入計画に於いて最もコンパクトなEV「ドルフィン(DOLPHIN/海豚)」で、今車両の発売に先駆け、横浜でBYD日本法人が同車のメディア試乗会を開催した。(佃モビリティ総研・松下次男)
日本に投入されるドルフィンは、航続距離別に標準レンジモデルとロングレンジモデルの2グレード。実際に試乗してみると、コンパクトボディゆえの取り回しの良さに加えて、スムーズな加速など、EVならではの性能が体感できるものとなっている。
気になる一充電あたりの航続距離は、標準モデルモデルで400キロ(WLTC値)、ロングレンジモデルで476キロ(同・なおロングレンジモデルは動力性能も高くなる・後述)となっており、航続距離だけなく、加速性能に於いても、あとひと伸びが欲しい場面を踏まえた安心感を得ることができるかもしれない。
なお搭載されるバッテリー容量や動力性能に対応してか、リアサスペンション構造は、標準レンジモデルがトーションビーム、ロングレンジモデルはマルチリンクになっている。
バッテリメーカーとして1995年に創業したBYD
そんなドルフィンを日本国内へ投入したBYDは、元々はバッテリメーカーとして1995年に中国で創業。その後2003年に中国国営自動車メーカーを買収して自動車事業に参入。これを機に急成長し、今や世界のEV分野で並み居る中国のEV企業を押しのけ目下、米テスラとトップを競う企業規模を誇っている。
自動車メーカーとしては、予てよりICE(内燃エンジン)車も手掛けていることから、既存のPHV(プラグインハイブリッド車)も含めた場合、ある意味、世界一のEVメーカーであると同社では謳っている。
なお、その他の事業領域では自動車産業の他、ITエレクトロニクス、新エネルギー、公共交通網を含む都市モビリティの4大事業を展開中だ。
日本市場へは2005年にビーワイディージャパンを設立して参入。2015年からはEVバスの販売を開始した。その後、今年を迎えて日本の乗用車市場へ参入すると発表。その際に「ATTO3(アットスリー)」「ドルフィン」「SEAL(シール)」のBEV3車種を順次、投入することを公表した。
ディーラーネットワークでは、これまでに47拠点の開業が決定
このための乗用車の販売・アフタサービスを手掛けるBYD Auto Japan(BYDオートジャパン)も併せて設立。先の8月26日には、池袋へも新たなショールームをオープンするなど、相次いで集客拠点を整備中であり、来たる2025年末までに100店舗以上のディーラーネットワークを構築し日本国内全域をカバーする方針であると表明している。
実際、今年1月末には、乗用車投入・第1弾となったe―SUVのアットスリー販売を開始。同車両については既に600台以上販売済みという。
ディーラー店舗の拡大に関しては1号店の東名横浜店を皮切りに、これまでに47拠点の開業が決定。そこへ、EVの第2弾となるドルフィンを新たに投入する。そのドルフィンの特色は、まずコンパクトEVであること。都市部の集合住宅の機械式駐車場に駐車できると共に、地方で見込まれる2台目需要などにも応えられる点だとしている。
カテゴリーでいえば、BとCセグメントの中間に位置する
なお同社が日本国内市場に於いてユーザーのEV購入意向をみた場合、最も検討したいサイズがコンパクトであり、2台目以上のクルマに求める要素でも「運転しやすい」に次いで、「サイズがコンパクトである」との意見が多いという。
確かにドルフィンは、ここのところ相次いで大型化しつつある競合の新型EVを踏まえると比較的コンパクトなサイズであるといえるだろう。
そんな車体の基礎部分を支えるプラットフォームは、先の第一弾として投入したアットスリーと同じEV専用のe―プラットフォームを採用。しかし車両サイズは、日産リーフとほぼ同じの全長4290ミリ、全幅1770ミリで、ホイールベースは2700ミリの長さとなっている。
この外寸はカテゴリー別の分類で表すと、BとCセグメントの中間に位置し、優れた小回り性能を発揮すると同時に、広い車内空間を併せ持つというある意味絶妙なもの。
買収した日本のプレス金型工場で製造する金型が使われている
というのは、日本仕様のドルフィンの場合、その車高は1550ミリに抑えられているのだが、実は日本以外の仕様では1570ミリの車高を持つドルフィンが存在する。つまり日本仕様の場合、独特の日本国内事情を踏まえ立体式の機械式駐車場に対応させるべくアンテナ部分が少し低められているのである。
そもそもドルフィンは、既にグローバルで約43万台を販売する国際モデルである訳だが、ペダル踏み間違い防止システムや、ドライバー注意喚起機能を含む子供の置き去り防止対策機能の搭載。輸入車でありながら右ウンカ―として、充電仕様もチャデモ用に設定するなど、敢えて日本国内での使い勝手に細やかに配慮した点を見ると、日本国内市場に対する意気込みの高さが表れている。
独特の車両デザインには、イルカが泳ぐ姿を彷彿させるオーシャンエステックデザインをモチーフに、人懐かしさと愛らしにあふれるエクステリアに仕上げており、インテリアにも遊び心が詰まった機能、デザインを採用する。その外観には日本の技術も生かされており、旧オギハラ館林工場を買収したプレス金型工場で製造する金型がサイドパネルなどに使われている。
高速増道路での風切り音の大きさが少し気になる
この他、フロントクロストラフィックアラート、フロントクロストラフィックブレーキなどの安全・運転支援機能も新たにドルフィン向けに追加・搭載されている。
今回、試乗したモデルは標準タイプだったが(標準レンジモデルの最高出力は70kW、ロングレンジモデルは150kW、なお搭載バッテリーは、冷媒を流路冷却に使うブレード型のリン酸鉄リチウムイオン電池)、普通に走る分には一般道路にととまらず高速道路での加速の伸びも想像以上。運転性能でいえば、ガソリン車からの乗り換えも全く問題ないだろう。
半面コンパクトサイズのためか、高速増道路での風切り音の大きさが少しい気になる点だ。EVのため、駆動音が小さい分、外部音対策の必要性を感じた。エアコンやハザード、回生強度を変えるためのスイッチ操作も少し、慣れが必要かもしれない。
なお回生ブレーキはスタンダードとハイの2段階があるのだが、その強弱には大きな違いはなく他車のようなワンペダル操作ができる設定ではない。また普通充電は6kW。急速充電は標準レンジモデルが最大69kW(180A)、ロングレンジモデルが85kW(200A)となっている。
最後に最大関心事の一つである車両価格については、発売日の9月20日に東京都内で価格発表会を開き、公表する予定としている。ちなみに既に先行販売されている諸外国の事例を踏まえると期待が膨らむが、価格については価格発表会の数字を待ちたい。