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2023年8月3日【イベント】

伊ブレンボ、AIブレーキシステムの記者試乗会を実施

坂上 賢治

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1975年以降、競技スポーツの世界最高峰ブランドに登り詰める

 

伊・ブレンボ( Brembo S.p.a./所在地:ロンバルディア州ベルガモ県クルノ )は7月31日から8月1日の2日間、栃木県栃木市のGKNプルービンググラウンドに於いて報道陣を募り、インテリジェントブレーキシステム「SENSIFY™(センシファイ)」の記者向け試乗会を実施した。( 坂上 賢治 )

 

 

ちなみにブレンボは、F1レースの出走車両を筆頭に4輪・2輪を含む世界各国のレーシングシーンで、お馴染みの老舗ブランドであり、いわゆる油圧の6ポットキャリパーなどの多ポットを組み付けたカーボン製ディスクブレーキなど、高性能ブレーキシステムのリーディングカンパニーだ。

 

 

創業年は1961年、当初はイタリア車向けブレーキの補修パーツを製造する小規模工場に過ぎなかったが、1975年にフェラーリ創業者からの依頼を受けて、F1車両向けのブレーキシステムを納入。これを切っ掛けに競技スポーツの世界最高峰ブランドに登り詰めた。

 

 

以降、モータースポーツ分野では600以上のタイトルを獲得。今日では15カ国に30の生産・事業拠点と8つの研究開発センターを構え、約15,000名の従業員を配し、2022年の売上高は36億2,900万ユーロに到達。今や一般の乗用車や商用車向けのブレーキシステムメーカーとしても定番のブレーキシステム企業となっている。

 

 

〝SENSIFY(センシファイ)〟の製品化は来たる2025年に

 

そのブレンボが〝Sensify by Brembo S.p.A.〟と謳い、今回、試乗を呼び掛けた新システムの製品化を発信したのは、今から一昨年前の2021年10月25日の事。

 

当時発表されたシステム構成は、同社が長年に亘って磨き抜いてきたブレーキキャリパー、ブレーキディスク、ブレーキパッドなどの定番製品へ独自開発のAI技術を投入。

 

ソフトウェア、センサーシステム、データ管理、予測アルゴリズムを含むデジタル制御を組み合わせる事で、車体制御の一部を担う領域にまで高めてプラットフォーム化したものと記されていた。

 

 

更に2021年時点のプレスリリースを、より詳しく見ると〝SENSIFY〟は、既存の制動装置というパーツの集合体から昇華。刻一刻と変化する車体の姿勢変化やトラクション状況を素早く収集データに置き換えて把握。そのデータを受け取った人工知能とソフトウェアが能動的に制御を加える事で、ドライビング体験をより快適かつ、安全するという触れ込みであった。

 

同社では、その動きと制御の仕組みを例えて〝ひとつの生態系〟であると宣言。当初は、早ければ2024年初頭の導入を目指すと謳っており、SENSIFYという名称は、人間が外部信号や刺激を感じ取る能力を指すSENSE( 感覚 )と、製品と車両をシンプルに調和させる意味のSIMPLIFY( 単純化 )を組み合わせた造語であると説明していた。

 

また最新の世界発売に至るスケジュールについては、当初より若干、後ろ倒しされたようで、来たる2025年になる予定としている。その2025年は7月からEU( 欧州連合 )の環境規制〝ユーロ7〟が発動する( 自動車とバン )時期だ。従ってブレーキ摩耗粉塵も本格的な規制対象となるため、同対応ソリューションとしても提案していく構えだと考えられる。

 

 

〝Turning Energy into Inspiration〟を存分に体現した先駆的技術

 

なおこのSENSIFYの開発コンセプトや先進性についてブレンボのダニエレ・スキラッチCEOは、「SENSIFYはブレンボのビジョンである〝Turning Energy into Inspiration〟を存分に体現した先駆的技術であると共に、現在の自動車業界に求められる持続可能なデータ駆動型先進ソリューションを提供するという意味でも大きな前進です。

 

つまりSENSIFは、新世代の自動車の特徴に合わせて従来のブレーキシステムを単に改良したものではなく、未来の自動車を念頭に、一から開発したという点で新基準を打ち立てるものです。

 

 

このシステムをより端的に説明するならば、ブレーキシステムはもはやパーツの集合体ではなく、AIとソフトウェアが能動的役割を果たすひとつの生態系です。

 

同システムは、ペダルレスポンスのカスタマイズ、安定性と制御性の向上、回生ブレーキ機能の向上、温室効果ガス排出量の削減など、従来のブレーキシステムと比較して様々な利点があります。

 

またSENSIFYはドライバーの好み、車両ダイナミクス、路面コンディションに応じて、制動力をタイヤ毎に制御できます。ゆえにSENSIFYを一言で表せば、史上最高の統合型ブレーキシステムです。

 

 

自由な発想が可能なSENSIFYは、日本市場で大きな可能性がある

 

だからこそSENSIFYによって車両との統合が単純化し、高級スポーツカーからシティカー、ロボットタクシーやその他最新の商用車に至るまで、自動車メーカーにとっては柔軟な開発が出来、設計者にとっても、これまでにない自由な発想が可能になります。

 

私たちは日本市場に大きな可能性があると認識し、今後、日本の主要自動車メーカーと共に、SENSIFYだけが提供できる快適な走りと最大限の安全性を追求していきたいと考えています」と述べている。

 

 

さて試乗では、スタンダード状態のテスラ3と、独自のカスタマイズを加えたブレンボのスペシャル・モデファイを施したプロトタイプのテスラ3が用意された。

 

いずれもGKNプルービンググラウンドをフルに使い、様々なパニックシーンを作り出す中で、各々の車両の振る舞いや、操舵の状態、ドライバーへ向けた車体姿勢やステアリング、ペダルなどへ伝わる情報の違いを検証する内容となっていた。

 

スタンダード車両とカスタマイズ車両の違いは、今回の車両のケースに於いては、まずブレーキペダルからブレーキブースター(倍力装置)直前までの情報伝達ラインをバイワイヤー化。従ってブレーキブースターから手前は油圧配管不要のシステムとしている。

 

 

加えて車輪末端のブレーキキャリパー直近には、通常の油圧ブレーキ構造とは異なり、個々車輪の其れ其れにタイヤの回転制御(ブレーキキャリパーを駆動させる)を行うためのコンパクトなブラシレスモーターが組み付けられている。

 

 

システム提案は〝ドライタイプ〟と〝ウエット-ドライ〟で7種に対応

 

ドライバーがブレーキペダルを踏んだ瞬間以降の情報伝達経路は、万が一の故障などを前提に冗長化されており、バイワイヤー化に係る電力供給網も複数系統化される。

 

つまり車両側で対応出来れば、蓄電池の冗長化(複数のバッテリーから複数系統の電力供給を受ける仕組み)にも対応する。従って、電動化に伴う電気系トラブルへの備えには対処済みとなっている。

 

実際の運転操作に於けるドライバーの制動意志は、個別のブレーキキャリパーを介して4車輪へ個別に伝えられ、最終的な制動力の算出には、AIが路面や車両状態に合わせたブレーキ力を割り出し最適な制動制御を行う。

 

 

また同社が用意するシステムには、今回の試乗車に搭載した〝ウエット-ドライ(ブレーキペダル操作を介して信号を伝えるバイワイヤ・システムと、最終末端部で油圧ブレーキ構造を持つ制動装置を連携させた)〟システムの組み合わせとは別に、完全電動で、油圧ブレーキ構造を排したフル電動〝ドライタイプ〟の完全バイワイヤ・システムも用意される。

 

ドライタイプは、OEMが定義するセグメント毎に「A-B」「C」「D」「E-F」「J」向けが用意され、いずれもゼロエミッション車両に適した設計となっている。一方で〝ウエット-ドライ〟は「SPORTS」「SUPER-SPORTS」となっている。

 

 

SENSIFY搭載車は、パニック時にも心理的余裕が生じる

 

いずれにしても特にブレーキシステムのバイワイヤ化に係るメリットは数多く、末端の制動装置自体の低振動・静音化の他、断続的かつ精密なブレーキ制御を行う事によるブレーキパッドの摩耗粉削減。配管・配置レイアウトの自由化。ブレーキパッド自体の低引き摺り性の実現。電気信号による操作であるゆえの応答速度の向上。ABS独自のキックバック反応の低減など様々だ。

 

 

なお先のブラシレスモーターの組み付けを含めた制動制御と車両制御については、一般的なアンチロック機能や緊急ブレーキ時のスリップコントロールアシストの他、個々車輪への制動力の独立分配、個々4輪のトルクベクタリング機能、横滑りを防止するための回生協調など多岐に亘る。

 

実際のテスト内容は、単純な高速巡航時のパニックブレーキングの再現に始まり、周回コースのコーナー部分での急制動。障害物直前での緊急ブレーキ操作+同時操舵による回避行動。

 

濡れた路面下でのブレーキ操作無しの急ハンドル操作。車体片側が氷上・もう片側が雪面下という低ミュー路で緊急ブレーキを踏みながら、ステアリング操舵により直進を保つなど。

 

どのテストメニューでも総じて感じられたのは、運転中の緊急操作を行うにあたり、SENSIFY搭載車では、運転するドライバー自身に心理的余裕が感じられる事だ。

 

例えば、最も単純なパターンでは「濡れた路面上での緊急ブレーキ」の場合がある。SENSIFY搭載車では、制動中に減速Gの放物曲線(挙動姿勢が変化する早さ)が緩やかになる感覚があり、非搭載車と比べると緊急制動時の切迫感が、かなり和らぐ。

 

 

それゆえ車両が完全停止に至る僅かな瞬間でも、その過程に於いて、前方の視界を広く俯瞰する位の余裕が生じるのだ。

 

しかも実際には、AIの介入で完全停止するまでの距離や時間は確実に短くなっている筈なのだが、非搭載車に比べると、停止に至るまでの瞬間がスローモーション的に感じられる不思議な感覚があった。

 

未来の車載機能は単一の役割を離れて、相互連携へと向かう

 

考えてみれば運転中にパニックが発生した場合、ドライバー自身は自らの頭脳を積極的に働かせて、車両からの様々な情報を受け取る事に集中するもの。

 

従ってステアリングを握るドライバーは、緊急時に於いても、タイヤのスリップやトラクションの変化(タイヤが地面を掴む事で生まれる推進力や減衰力)を積極的に捉えようとする訳だが、その際に、SENSIFY搭載車の場合は、素早い操舵や制動動作が切っ掛けに生じる細かなヨーイングや微振動などを〝しなやかに〟いなしてくれる。その分、ドライバー側は自身の運転操作を客観的に捉える余裕が生まれるのである。

 

 

ここまで来れば、もはやSENSIFYは〝制動装置をAI化した〟というより、確かにクルマの操縦安定性をサポートするための神経系機能の一部だと言えるのかもしれない。

 

そうした意味で、近未来のクルマは、「ステアリングは操舵を行う装置」「ブレーキは速度を落とすためだけの装置」といった単一の役割を離れ、今後は相互に役割を補完・連携していくものになっていく。

 

また、そうであるのなら以降の話は、あくまでも私見であるが、油圧シリンダーを含めた高性能な多ポットディスクブレーキすらもフル電動でバイワイヤ化された場合、クルマのドライビング体験としては、まだ見ぬ新境地が切り拓かれる可能性がある。

 

それは、いちドライバーとして近しい未来に於いて、まだまだクルマを運転する楽しみが広がる事を意味するから、その到来が待ち遠しい。

 

けれども、現状の複雑な油圧構造を電気に置き換えるには、これまでの概念とは全く違うブレーキ構造などの新たなブレークスルーが求められる事になるだろう。筆者は、そんなSENSIFYがもたらす究極の進化形を、あともう少し首を長くして待ちたい。( 記述内容を一部変更@CarGuyTimes / 2023.08.05 )

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。