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2023年7月25日【エネルギー】

BMW、日本国内で自社製燃料電池車の実証実験を開始

坂上 賢治

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ビー・エム・ダブリューは7月25日、東京都江東区青海のBMW GROUP TOKYO BAYに報道陣を募り、車両駆動の燃料として水素を充填して水素エネルギーを発電。その電力でモーターを駆動させて走行する燃料電池実験車両「BMW iX5 Hydrogen( アイエックスファイブ・ハイドロジェン )」を用いた日本国内での公道実証走行を今年末まで行うと発表した。( 坂上 賢治 )

 

水素を車両の推進燃料として使用する燃料電池車は、燃料の充填に時間を掛けずに長距離走行が可能となる事が最大の利点であり、BMW iX5 Hydrogenの場合、燃料が空の状態から約3分程度の充填時間が確保出来れば、約500kmもの長距離を走行する事が出来る。そんな燃料電池車両の開発についてBMWグループは、2011年よりトヨタ自動車と燃料電池車に係る基礎研究を共同で推進してきた。

 

 

今回発表した当該車両は、日常での機能性と路面コンディションを問わないパフォーマンス能力を融合したBMW X5(1999年に登場)をベースにした燃料電池車であり、来たる2020年代後半時期を目処に当該車両を市場投入するべくドイツやアメリカなどの主要国で実証実験を実施してきたもの。そして今回は、燃料電池車両に対する顧客要求が高い日本で公道での実証実験を実施する。

 

より具体的には、日本各地にて実際に車両を走行させ、様々なデータを取得すると共に、官公庁や行政機関、大学を訪問。各方面の専門家の視点から製品に対するフィードバックを貰い、それら全てをドイツにあるBMWグループ本社に送り、製品開発に役立てる構えだ。

 

 

同日の記者会見に登壇した水素燃料電池テクノロジー・プロジェクトのユルゲン・グルドナー本部長は、「未来に向けて再生可能エネルギーをベースとしたモビリティ戦略を組み立てるためには、エネルギーの原材料を調達する領域から、生産に至る全てで炭素中立を確立させる必要があります。

 

そうした中でも水素は、未来を目指すモビリティにとって鍵となる重要エネルギー領域です。というのは電力は長期間に亘って保存が出来ず、長距離輸送するには適していないエネルギーであるからです。しかし未来のモビリティ社会を構築するには電力の長距離輸送を実現出来なければならないし、燃料の保存手段も必要となります。

 

 

例えば太陽光から造った電力を、欧州南端から最も電力を必要とする中央地域の工業都市へ向けて大量に輸送したい、あるいは北端の地に於いて風力から造った電力を中央へ大量輸送しなければならない。

 

そうした場合、電力のままで輸送するには様々な困難が待ち受けています。従って電力を一旦、水素(気体状または液体状)に置き換えて輸送する事になります。例えば日本がオーストラリアから太陽光から造った電力を輸入する際は、一旦、電力を水素に置き換えてから船舶輸送されています。これが電力を〝運ぶ〟という切り口に於ける当該エネルギーならではの課題です。

 

一方でエネルギーそのものをマネジメントするという切り口に於いても、車両が大型になればなる程、また車両での使用状態が過酷になればなる程、むしろ電力としてエネルギーを使うより、水素として使う方が理に適っています。従って我々の工場へ部品をトラックに載せて持ち込むケースでは、電力をそのまま使うトラックよりも、水素に置き換えた燃料電池トラックの方が適しています。

 

一方で乗用車はどうでしょうか。乗用車を電化する場合、その多くは蓄電池搭載のバッテリーEVとなるのが普通で、ごく一部の顧客の場合では燃料電池車が求められるケースもあります。また時には水素と電気のふたつを組み合わせた車両を求められるケースもあるでしょう。それが我々とトヨタ自動車が燃料電池車の開発で協業していく理由であり、今回のiX5ベースの燃料電池車を我々が開発している理由のひとつとなります。

 

 

ちなみに現在、世界では1000以上の水素ステーションが稼働しており、地域別では米国で116、欧州で276、日本163、韓国210、中国300以上とアジア太平洋地域では650以上の水素ステーションがあります。

 

それらは今後も拡大傾向にあり、なかでも日本は他の国を牽引している国であり、我々は各国地域に於ける市場の反応を確認しつつ、水素に係る世界の展開や動向に気を配っていかなければなりません」と述べた。

 

 

またBMW iX5ハイドロジェン・プロジェクトを担うロバート・ハラスマネージャーは、「BMW iX5 HydrogenのデザインはX5をベースにしながら、随所に燃料電池車である事を示すアクセントが付与されています。

 

それはキドニーグリルの内側の縁取り、フロントの冷却エア開口部を覆うメッシュインサート、リアバンパー、ディフューザー、22インチのエアロホイールのインサートなどへの専用のデザイン装飾。森林管理協議会( FSC )組織の基準に準拠して抽出された天然ゴムとレーヨンを使って製造されたタイヤの組み付け。

 

リアバンパーの外側部分のアタッチメントなどに配したBMW iブルーのアクセント。更にインストルメントパネルのエントリーシルとカバートリムにはhydrogen fuel cellの文字をあしらっています。

 

 

車両の動力システム面での切り口では、水素を燃料とする燃料電池車はバッテリーEVとは異なり、燃料の充填に時間を掛けず長距離走行が出来るところが強みであり、燃料電池の供給に必要な水素は炭素繊維強化プラスチック( CFRP )製700気圧タンク2基の中に合計約6 kgの水素を貯蔵。約3分程度の水素充填によってWLTPサイクルで504km ( 313マイル ) の航続距離をマークします。

 

このうち燃料電池システムは、最大125 kW ( 170 hp )の電気エネルギーを生み出し、これにリチウムイオンバッテリーからの出力170 kW ( 231hp )を組み合わせています。

 

 

より具体的にはリアアクスルに電気モーター、トランスミッション、パワー・エレクトロニクスをコンパクトにまとめた第5世代のBMW eDriveテクノロジーを採用。駆動システム全体の最高出力は直列6気筒ガソリンターボエンジンの出力に相当する295 kW ( 401hp )となり、加速性能は0-100 km/h ( 62mph ) までが6秒。

 

最高速度は180 km/h ( 112 mph )以上のパフォーマンスを実現。モーターの上に配置されたバッテリーを介して、追い越しや加速時にブースト電力を供給出来るため、BMWならではドライビングプレジャーを愉しめるクルマに仕上がっています。

 

 

また車両は生産と開発を兼ねたミュンヘンのBMWグループ研究革新センター( FIZ/車体工場、組立、モデルエンジニアリングなどで約900人が働く )のパイロット・プラントで製造。

 

今後はバリューチェーン全体で完全な炭素中立を実現するべく、サプライチェーン、生産、使用段階といったライフサイクル全体に於ける車両1台あたりのCO2排出量を、2019年比で2030年までに少なくとも40%削減する目標を掲げています」と語った。

 

 

最後に登壇したビー・エム・ダブリュー広報の岡テオドーラさくら氏は、「日本国内に於ける実証実験として、日本各地にて実際に3台のBMW iX5 Hydrogenを走行させて様々なデータを取得すると共に、官公庁や行政機関、大学等を訪問。各方面の専門家の視点から当該車両に対するフィードバックを得て、それら全てをドイツにあるBMWグループ本社に送り製品開発に役立てる計画です」と結んでいた。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。