RS 6 Avant GT誕生に至る原点は〝RS 6 GTO conceptプロジェクト〟
アウディAGは2月6日(独・ネッカーズルム/インゴルシュタット発)、シリーズの頂点に君臨する「新型Audi RS 6 Avant GT」を披露。日本国内に於いても傘下のアウディジャパンを介して同社の仕様が(2月14日)明らかにされた。そんなAudi RS 6 Avant GTの納車は、2024年第2四半期から開始される。( 坂上 賢治 )
実はこのAudi RS 6 Avant GT誕生に至るストーリーは、2020年に同社のネッカーズルム工場で働いていたボディワークメカニックに車体構造メカニック、車両メカニック、塗装工、金型工から成る12人の研修生グループたちの取り組みが、その出発点となった。
それは、かつて1989年に登場した伝説的な〝Audi 90 quattro IMSA GTOレースカー〟からインスピレーションを得つつ、quattro誕生40周年を契機に取り組んだ〝RS 6 GTO conceptプロジェクト〟にまで遡る。
そんな彼らがAudi Designの支援を受けて、6か月間のプロジェクトに取り組み、各々の12人が想い描いていたモデルを製作。この取り組みは、研修期間中の才能溢れる若者達が、様々な方法で会社に貢献できることを証明した、今となっては特別なプロジェクトのひとつとなった。
以来、より最高峰を求め続けて、現在に至る今回の新型Audi RS 6 Avant GTは、RS 6 GTO conceptをベースに、エクステリアなどの様々な搭載装備や機能を強化することにより、今やAudi RS 6 AvantやRS 6 Avant performanceをも超える存在感を示すに至っている。
同車の誕生に至る取り組みは、自社生産部門にとっても画期的な試みに
例えば印象的なフロントエンドは、RS 6 GTO conceptからヒントを得ていることが見て取れる。フロントマスクは、シングルフレームとエアインテークは完全なハイグロスブラックで仕上げられ、フロントエプロンの垂直ブレード、新しいインテークグリル、バンパーに統合された力強いフロントスプリッターがシャープな外観を強調する。
Audi Sport GmbHは、今回初めてボンネットのデザインを完全に見直し、素材にもカーボンファイバーを採用した。新設計のボンネットは、カーボン素材が目を惹くユニークな仕上がりとなっており、ボディカラーと印象的なコントラストを生み出す。
22インチ大径ホイールの後方に統合されたエアアウトレットにより、ホイールアーチ内のエアが効果的に排出され、ブレーキの冷却性能が向上した。ボンネットと同様、大径ホイールを収納するフェンダーも、今回初めて完全にカーボンファイバーで製作され、車両構造の面でも、アウディの生産部門にとっても画期的な試みとなった。
サイドプロフィールのアピアランスは、サイドスカートのインサート、グロスカーボンのカバーを備えたドアミラー、Audi RS 6 Avant GT専用の22インチ6スポークデザインのホイールで形作られる。
このスペシャルエディションのリヤセクションは、ブラック仕上げの「RS 6 GT」エンブレム、ローディングエッジを視覚的に低く見せる専用デザインのテールゲート、車両の幅広さをさらに強調する垂直センターリフレクターを備えた機能的なディフューザー、モータースポーツからヒントを得たダブルウイング等で仕上げられた。
量産化に至った搭載装備の数々は、かつての研修生達のアイディアを踏襲
ちなみにこのダブルウイングは、研修生によるコンセプトカーに装着されていたものと、ほぼ同じものが採用された。またAudi RS 6 Avant史上初めてルーフレールを廃止することにより、よりフラットでスポーティなシルエットを実現した。
そんなAudi RS 6 Avant GTは、オプションで2色の専用デカールを選択することが可能だ。その1つ目は、アルコナホワイトのベースカラーに、Audi Sportの伝統的なカラーであるブラック、グレー、レッドを組み合わせるもので、前後のモデルエンブレムもこのカラーとなる。一方で特徴的なデザインのホイールカラーは常にハイグロスホワイトになる。
2つ目は、ナルドグレーまたはミトスブラックのベースカラーに、ブラックおよびグレーデカールを組み合わせるもの。このカラーには、ハイグロスブラックまたはマットブラックのホイールが装着される。
シングルフレームのアウディエンブレムおよびテールゲートのモデルエンブレムは、ブラックが標準となる。デカールを装着しない場合、ボディカラーは、アルコナホワイト、ナルドグレー、クロノスグレーメタリック、マデイラブラウンメタリック、ミトスブラックメタリックが用意されている。
Audi RS 6 Avant GTは、RSデザインパッケージプラスを標準装備して工場からラインオフされる。インテリアカラーはブラックで、ステアリングホイールのステッチ、センターコンソールのサイドセクション、センターアームレスト、ドアアームレストには、レッドまたはコッパー(銅)の専用カラーアクセントが採用され、フロアマットには「RS 6 GT」のレタリングが配された。
史上最高峰を示す660台限定のシリアルナンバーが刻印される
更にレザーおよびダイナミカマイクロファイバーを組み合わせた新しいRSバケットシートも装備され、ヘッドレストのすぐ下にも「RS 6 GT」のレタリングが配されている。シート中央のハニカムステッチには、コントラストカラーのエクスプレスレッドが採用され、バケットシート外側の縫い目はコッパーカラー仕上げとなっている。
アームレスト、ダッシュボード、サイド部分を含むセンターコンソール、ドアウエストレールの生地はブラックのダイナミカ製で、装飾インレイには、ディープブラックのダイナミカが採用された。
装飾インレイは、オプションとして、素地が露出するオープンポア仕様カーボンツイルを選択することも可能。シートベルトのカラーには、人目を惹くクリムゾンレッドが採用されている。センターコンソールには、このモデルが660台限定のリミテッドエディションであることを示すシリアルナンバーが刻印された。
この新型Audi RS 6 Avant GTの走りの基礎となるパワーユニットは、最高出力463kW(630PS)、最大トルク850Nm。これは、ベースモデルとなるRS 6 Avantと比較して、22kW(30PS)および50Nmのパワーアップに相当する。
0~100km/h加速は、シリーズのトップモデルとしての実力を示し、RS 6 Avantよりも0.3秒速い3.3秒。0~200km/h加速は、同じくRS 6 Avantよりも0.5秒速い11.5秒。最高速度は305km/h。ブレーキは、RSモデルに標準装備されるセラミックブレーキシステムを搭載した。
特別なクルマゆえに特別な装備と共に特別なチューニングも施す
この4.0 TFSIエンジンパワーは、シフトタイムが最適化された標準となる8速ティプトロニックギアボックスを介してquattroフルタイム4輪駆動システムに伝達される。
Audi RS 6 Avant performanceと同様に、Audi RS 6 Avant GTには、最新バージョンのロッキングセンターディファレンシャルが搭載され、この軽量かつコンパクトなディファレンシャルは、エンジンパワーをフロントおよびリヤアクスルに40:60の比率で配分する。
走行中にホイールスリップが発生した場合、より多くの駆動トルクが、よりグリップの高いホイールに自動的に配分され、トラクションが向上する。この場合、最大70%をフロントアクスルに、最大85%をリヤアクスルに配分することができる。
設定が見直されたセンターディファレンシャルによってドライビングダイナミクスが改善、より正確なコーナリングを実現し、限界走行時におけるアンダーステアの傾向を軽減させる。
このスペシャルエディションを他のRSモデルと、より差別化するべくリヤアクスルのquattroスポーツディファレンシャルには、RS 6 Avant GT用に特別なチューニングが施された。
モデルイヤー毎に塗り替えることを求められる絶対性能値
これは俊敏性の向上に焦点を当て、「ダイナミック」ドライビングモード選択時にはリヤアクスル重視のトルク配分をする新しい設定だ。これによりスポーティでありながらもニュートラルで精度の高いハンドリングを実現した。
RS 6 Avant GTには、今回初めてアジャスタブルコイルオーバーサスペンションも標準装備された。このサスペンションは、RS 6 Avantと比較して車高を10mm低くして、より優れたダイナミクスと快適性を融合させた。
それは、より高いスプリングレート、3段階に調整可能なダンパー、より硬いスタビライザー(フロントで30%、リヤで80%硬め)により、ボディのロールが減少し、ドライビングの楽しさが大幅に強化されていることで判る。個別の調整を行うために必要なツールと説明書も付属している。
またダイナミックライドコントロール(DRC)機能を備えたRSスポーツサスペンションプラス、またはRSアダプティブエア サスペンションをオプションで選択することも可能だ。
新しいハイパフォーマンスタイヤ、コンチネンタルSport Contact 7サイズ285/30 R22は、ダイナミックなドライビングに必要な高いグリップ性能を確保する。
このタイヤは、乾いた路面と濡れた路面の両方で優れたグリップを提供すると同時に、高速でコーナリングする際のアンダーステアを抑制し、あらゆる速度域でより正確なハンドリングを実現するものとなっている。実際、この新しいタイヤにより、100km/hから停止するまでの制動距離が最大2m短縮された。
12人の研修生グループの一部メンバー(当時)
最終的にはベーリンガーホフの7人の匠たちの手によって仕上げられる
詰まる所、新型Audi RS 6 Avant GTが、標準バージョンのRS 6 Avantと異なる点は、そのクルマづくりがネッカーズルムの生産ラインだけで終わらず、ベーリンガーホフ工場に於いても組み立てが続けられて、初めて完成に至っている所にある。
ボディの製造および塗装工程が終了した今回も世界660台となっている同限定モデルは、ネッカーズルムの生産ラインからベーリンガーホフ工場へと送られる。このベーリンガーホフ工場は、Audi R8、Audi e-tron GT quattro、Audi RS e-tron GTなどの少量生産車も生まれている所だ。
距離的には、ネッカーズルム生産拠点の近くに位置するベーリンガーホフ拠点は、そこで働くクラフトマンシップを介した柔軟な取り組みが同拠点のユニークさを示しており、ベーリンガーホフには、Audi RS 6 Avant GTの仕上げ工程に最適な条件が整っている。
最終組み立て工程では、この特別な限定モデルのために設置された3か所のステーションで、7人だけの経験豊富な匠たちによって行われる。
各車両のGTの専用装備は、そこで丸一日かけて手作業で取り付けられるのだ。これには、ボンネット、フェンダー、ロッカーパネル、ダブルウイング、フロントおよびリヤエプロン、アジャスタブルコイルオーバーサスペンションが含まれる。
なおベーリンガーホフでは、ネットカーボンニュートラルな方法で生産が行われる。そもそもベーリンガーホフの生産に係る全工程は、再生可能エネルギーによるグリーン電力と熱を使用しており、ベーリンガーホフのカーボンニュートラルの達成は、アウディブランドおよびネッカーズルム拠点の両方にとって重要な節目となっている。
再生可能エネルギーだけでは回避できないCO2排出量は、認定された環境プロジェクトのカーボンクレジットを使用して相殺される。
このようにしてアウディは、完全に持続可能な生産を実現するための環境プログラムMission:Zeroを大きく前進させている。なお最後に、以上に記載された装備・諸元データは独販売仕様のため、法制度なども異なる日本仕様とは、仕様が変更される場合がある。