アウディの「quattro(クワトロ)」は、1980年3月の「サロン・アンテルナショナル・ド・ロト(ジュネーヴ・モーターショー)」で発表された。
そんなクワトロシステムは、トランスミッションケースから野暮なパートタイム方式のレバーが生えるヘビーデューティ4WDとは異なり、フルタイム駆動の機能そのものをセンターデフに内蔵させ、路面を的確に掴むスマートなフルタイムシステムとして名を馳せ、その結果アウディが世に送り出す新世代4WD車の代名詞として世間に知れ渡るようになった。
翌1981年にアウディは、このクワトロシステム搭載車で世界ラリー選手権(WRC)に初参戦。わずか1年で圧倒的な強さを発揮してラリーの世界を席巻した。アウディチームは1982年に難なくマニュファクチャラーズタイトルを獲得。
その翌年の1983年には、フィンランド人ドライバーのハンヌ ミッコラ選手がドライバーズタイトルを獲得。1984年にはWタイトルを獲得。スウェーデンのスティグ ブロンクビスト選手がワールドチャンピオンに輝いた。
同年にアウディはショートホイールベースを備えたSport quattro、1985年には350kW(476ps)を発生するSport quattro S1を投入。1987年にヴァルター ロール選手は、これに特別な改造が施されたS1を駆って米国パイクスピークヒルクライムでも優勝を果たした。これらの勝利は、長年に亘って大きな成功を収めてきたアウディのラリー参戦史にとって、ひとつの集大成となった。
以降、4WDは「悪路での走破性を高める」という実用一点張りの機能ではなく、高性能スポーツカーを代弁するフルタイム4駆機能となり、それは20世紀のスポーツカーの常識を塗り替えたばかりでなく、今や高性能ラグジュアリーカーに搭載される全輪駆動機能としても広く認識されている。
そんな「quattro(クアトロ)」といえば「アウディ」、「アウディ」といえば「quattro(クアトロ)」、永らくアウディブランドを下支えしたクワトロシステムが今年で40周年を迎えた。この40年間、アウディはクワトロを搭載した約1,100万台の車両を生産。その技術を磨いてきた。最も最新のクワトロは、電動トルクベクタリングを備えた電動ユニットになっている。
アウディは今年9月末までに1,094万7,790台の4輪駆動車を生産。この2020年の単独年だけでも生産台数は49万9,379台に上る。
また現在ではコンパクトモデルのA1を除く、全てのシリーズモデルにクワトロが設定されており、全体の約44%がクワトロ搭載車だ。今やクワトロはアウディブランドを支える屋台骨だと言えるだろう。
そのクワトロは2019年発売の「e-tron」並びに「e-tron Sportback」で、電動4駆の時代に突入した。
これらのSUVモデルのフロントアクスルとリヤアクスルは電気モーターによって駆動される。サスペンションとドライブコントロールユニットは密接に連携し、駆動トルクの理想的な値を連続的に計算して、完全に可変、かつ瞬時に各ホイールにパワーを配分する。
優れた効率を実現するため、この電動SUVは、ほとんどの走行条件でリヤの電気モーターを用いる。
フロントのモーターはパワーが必要な場合の他、スリップが発生するような滑り易い路面や高速コーナリング中、あるいは車両がアンダーステアまたはオーバーステアの状態になる前にもドライビングをサポートする機能として使われる。そのため正確なハンドリングが実現可能となり、サスペンションコントロールシステムを介して安定性重視の走りから、スポーティな走りまで守備範囲が広い。
一方で相次いで最新技術を取り入れても共通している点がある。それはシステムがホイールセレクティブトルクコントールと連携して作動しているところにある。
これによりコーナー内側のホイールを穏やかに制動することで、グリップ限界時のハンドリングを電動技術を使って改善する。また通常走行時には、スポーティなドライビングスタイルを実現するためトルクの40%をフロントアクスルに、60%をリヤアクスルに配分する。これは必要に応じて最大70%をフロントアクスルに、または最大85%をリヤに配分することも可能だ。
また横置きエンジンを搭載するコンパクトモデルでは、急激な重量配分の移動を改善するべく、リヤアクスルに油圧式マルチプレートクラッチを採用している。
同システムでは車両がコーナーに差し掛かると瞬時に前輪から後輪にトルクを伝達。例えばエンジンをミッドシップマウントとしたR8では、フロントアクスルに取り付けられたマルチプレートクラッチが必要に応じてトルクを後輪から前輪へと切り替えて伝達する。
いずれにしてもこの40年間、アウディのクワトロシステムは同社のテクノロジーの象徴となってきた。クワトロは高い安全性とスポーツ性、高度な専門技術、モータースポーツでの圧倒的なパフォーマンスを示し、アウディのスローガンである「Vorsprung durch Technik(技術による先進)」を体現する。
それは1980年を境に名門ポルシェから技術担当責任者として招聘されたフェルディナント・ピエヒ氏(同氏はVWグループ創業者であるフェルディナンド・ポルシェ博士直系の孫にあたる)の伝説の裏付けにもなっている。