NEXT MOBILITY

MENU

2024年5月21日【アフター市場】

米シンガー、コーンズと代理店契約を結び日本へ進出

松下次男

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

 

ポルシェ911のレストアで著名、日本のクラシックカー市場に期待感

 

クラシックポルシェのレストレーション( Restoration/復元 )で、世界の富裕層から熱烈な支持を獲るシンガー・ヴィークル・デザイン( Singer Vehicle Design、米カリフォルニア州 )は5月21日、高級輸入車正規販売店のコーンズ・グループとパートナーシップ契約を結び、日本に進出するべく「SINGER GROUP LAUNCHES IN JAPAN」と題した記者会見を開いた。

 

 

両社の首脳が同日、東京都内のホテルで記者会見を開き、シンガーの事業概要や日本での取り組みを紹介。会見場には、シンガーが「ターボスタディー( 930ターボがベース、レストレーション費用は約1億4000万円から )」と「DLSターボ( タイプ964ベースで935を模したワイドボディ車に再生、レストレーション費用は約4億2000万円から )」と呼ぶポルシェ911が披露された。

 

シンガー創業者兼会長のロブ・ディキンソン氏は、かつて会社設立に至った経緯についてロックミュージシャンを目指していた1990年代にポルシェ911に出会い、個人で所有する理想のポルシェづくりに取り組んだのが切っ掛けだと語る。

 

 

その完成車を見た他者から同様のクルマを求められ、提供することで個人的な繋がりの連鎖が事業活動へと広がり、その結果、純粋なポルシェ911のレストレーション集団として、2009年にシンガーをカリフォルニアに設立した。

 

取り扱う車両は、長い歴史を歩むポルシェ911シリーズのなかでも終盤の空冷エンジン搭載車であるタイプ964の復元を専門としており、その仕上がりは、新車を超える程の高クオリティーな車両復元技術が持ち味。

 

ユーザーが持ち込む( 希望すれば、シンガーが車両を探すサポートを行う )ベースモデルの状態によるが、再生のために利用するベース部材はシャシーとエンジンブロックのみになることさえあるという徹底さであるゆえ当然、提供価格も高額となるが、米国内のみならず世界の富裕層から圧倒的な支持を得ている。

 

 

シンガーのマゼン・ファワズCEO(最高経営責任者)はレストレーション依頼が5台、15台と増えたと思ったら、「あっという間に500台規模へと膨らんだ」という。現在も約450台を受注し、300台程を市場供給する。

 

シンガーの事業概要はレストア工場を2か所持ち、スタッフ数は約600人。多くは英国から採用しており、その理由は最適なエンジニアリング人材を確保するためだ。ボッシュなどの多くのサプライヤーも協力する。

 

上記の通りシンガーは自動車メーカーでなく、空冷式ポルシェ911のオーナーのためのサービスを個別に提供することに特化している。1989年から1994年までのポルシェ911をオーナーとのコラボレーションにより復元する。

 

 

ちなみにシンガーは、メーカーでもディーラーでもない、いわゆる再生工房としての成り立ちを重視していることから製造、販売業務は行わないとしており、流通領域は世界各国の代理店との協力体制を敷いている。

 

シンガーは「高度にパーソナライズされたアプローチと精巧な仕上げ」「アイコックなデザインへの情熱と世界で最もアイコニックなスポーツカーへのオマージュ」「宝石のようなディテールと組み合わされた最新のエンジニアリングとマテリアルサイエンス」「カリフォルニアとその自動車文化の精神と深い繋がり」をフィロソフィーに掲げ、サービスを提供する。

 

ディキンソン氏はポルシェについて「敬意と商標権を尊重する」とし、シンガーによってレストアされた車両はいかなる場合に於いても「シンガー911」、「シンガー・ポルシェ」などと呼ばれてはならず、車体に「シンガー」名を表記しないことを強調した。

 

 

ファワズCEOは、再構築したポルシェ911は公道やサーキットで走らせることができるが、最適性でいえば「ロード走行に適した仕上がりとなっており、美しさ、クラフツマンシップ、革新性にフォーカスするのがオーナーのために行う私たちの仕事だ」と話す。

 

現在、北米、欧州、オーストラリア、アジアの優良なパートナーと事業を展開する。今回、パートナーシップ契約を結んだコーンズは専任スタッフを配置し、ポルシェ911オーナーからの受注をサポートする。

 

実は日本国内市場へは、2023年の11月に964ベースの車両を披露するなど、日本国内市場への進出を模索していたのが今回、コーンズ・モータースと手を組むことで、本格進出を果たした格好だ。

 

 

コーンズ・モータースの林誠吾社長兼CEOは雑誌で初めてシンガーの特集を見たとき「クルマ好きの子供に戻ったような感動を覚えた」と述べ、今回、実際に取り扱いを開始することに喜びを見せていた。

 

また、コーンズ全体の年間3000台の販売に比べると、シンガーの取り扱いはわずかで、収益も期待できないが、「新しい価値を提供してくれると確信している」と話した。

 

ただ、レストアの受注から配車までは「約2年半から3年を要する」(ファワズCEO)と述べ、多くの重注残を抱えているため、日本への配車は当面、限定的にならざるを得ないとの見方を示した。

 

また、日本市場への本格参入にあたりシンガーは、英語以外の言語では唯一となる日本語サイトも同時に公開。加えて、シンガーのレストアサービスを代表する4台を日本国内で初披露している。

CLOSE

坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。