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2019年10月18日【エネルギー】

ABボルボ、運送事業にビジネス革命を呼び込む

坂上 賢治

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 スウェーデン・イエテボリ(ストックホルムに次ぐ都市)に本拠を置くABボルボ傘下のボルボトラックス(Volvo Trucks)は、欧州地域で運送事業者の車両利活用に係る新サービス提供を推し進め、運輸業の次世代ビジネス革新を加速させている。(坂上 賢治)

 

 

 ちなみに企業としてのボルボには現在、資本の異なる2つの事業グループが存在する。そのひとつがスウェーデン、ヴェストラ・イェータランド県に属する港湾都市イエテボリ(人口は約52万人の県庁所在地)に本拠を置くABボルボ(アクチエボラグ・ボルボ)である。

 

ABボルボの『AB』とは、スカンジナビア諸語でいうアクチエボラグ(aktiebolag)を意味し、同国に於ける会社形態のひとつを指すもの。日本に於ける株式会社形態とほぼ同義と捉えれば良い。より詳細には、法的区分でABは有限責任事業(パブリーク・アクチエボラグ/publikt aktiebolag)を指している。なおAB業態でも株式の公開は可能だ。

 

 このABボルボと別企業となっているのが、2010年の事業買収に伴いに浙江吉利控股集団(ジーリーホールディンググループ、Zheijiang Geely Group Holding Co. Ltd.)傘下となったオーナーカー(乗用車)の開発・販売を行うボルボ・カー・コーポレーション(Volvo Car Corporation/Volvo Cars)だ。

 

 

後者のボルボ・カーズは現在、ベルギー、米国、中国の海外3拠点にも車両生産工場を持ち、日本市場向けには主に米国生産モデルを投入している。対するABボルボは、傘下にボルボ・トラックス、ルノー・トラックス、マック・トラックス、ボルボ・バス、ボルボ建設機械、ボルボ・ペンタ、ボルボ・フィナンシャル・サービスに加えて、日本国内法人としてのUDトラックスの8社を核とした多国籍事業を世界展開している。

 

 なおABボルボの主たる車両開発の原点は、スウェーデン国内のイエテボリにあり、現段階ではこれに隣接する格好でボルボ・カーズも当地に開発・生産拠点を配している。両社は今日、資本の繋がりを持たないため、直接的な事業連携を行っていないのだが、中国からの資本を導入したボルボ・カーズが生粋のスウェーデン企業を名乗る理由は、このイエテボリの開発・生産拠点を持っているゆえのことである。

 

 さて今回の話題は、前者のABボルボにあり、同社は冒頭の通り、顧客である輸送事業者に対して日本国内のトラックメーカーとは異なる新たなサービス提供を目下先行展開中だ。それがボルボ・フレキシゴールド・コンタクト(Volvo Flexi-Gold Contract)と呼ぶ同社独自の車両利活用を伴うサービス形態である。

 

 

このボルボ・フレキシゴールド・コンタクトとは、車両の使用量に基づく新たなサービス契約の形で、輸送事業者が車両を利用するための契約が月額料金となっているもの。いわばリース契約に似た形態ではあるのだが、その大きな特徴が、サービス料金の一部が『変動制』を備えている点で、それが実際の利用車両の走行距離とリンクしている。

 

 同契約は車両の年間走行距離で、ABボルボと運送事業者が、あらかじめ具体的な利活用距離で合意。この設定された走行距離の増減があった場合、車両の利用価格のうち20パーセントから40パーセントの範囲でフレキシブルに変動させるというもの。車両の利活用に伴う固定費が、基本契約料と使用料の二段構えとなっているため、運送事業者にとっては、車両運用コストが需要変化に適応させられることから経営の柔軟性を高められる。

 

 同サービス契約に関してボルボトラックスでビジネス開発マネージャーを務めるトーマス・ニーメイジャー氏は、「大半の運送会社は、個々の荷主と貨物運送に関して期間契約を結んでいますが、実際には需要ニーズが変動する中、予測不可能な、ある意味綱渡り的経営を強いられています。このため多くの運送会社は、帳簿上の事業計画で柔軟性を高める必要があると我々は考えていました。

 

 

これに応えたのが我々の新サービス〝ボルボ・フレキシゴールド・コンタクト〟で、当社がこのような革新的なサービスをお客様にご提供できるようになった理由は、近年のテレマティクス技術の進歩にあります。同技術の進化で、我々がお客様へ提供する車両はリアルタイムな走行距離情報を、お客様と共有することが可能になったからです。

 

 結果、各月の車両提供に伴う請求額は、その月の実際の運転量に基づくものとなり、旧来のリース契約で存在していた年末段階で〝走行距離を超過した場合の追加請求〟を行う必要が基本的にはなくなりました。このサービスは、季節の変化や需要の変動が大きな大半のお客様の事業に沿ったものとなっています。

 

簡単に言えば、お客様側で運転負荷量が減れば、我々に支払う金額も減り、その逆もしかりです。このサービスは、ボルボトラックスとの包括的なサービス契約であり、そのパッケージには車両のメンテナンスフィーに加え、予防保守とボルボとの通信サービスも含んでいます。従って、ボルボ・フレキシゴールド・コンタクトは、変化するビジネスニーズに適応する柔軟性が極めて高いサービスとなっています」と話す。

 

 

 最後に、ボルボトラックス・ヨーロッパのサービスマーケット&リテール担当副社長であるアンナ・ミュラー氏は、「近年のコネクテッドサービスの急速な発展により、運送業者は車両の稼働時間を延長したり、車両の利用率を最適化するための新しい方法を手に入れることが可能になりました。

 

我々のこのサービス契約は現時点で、予めサービス提供を敷いてきた欧州地域で利用可能ですが、近い将来、新たな地域に向けても徐々に拡大していく計画を立てています」と結んでいる。いずれは日本国内の輸送事業者にとっても『繫がるクルマ』が、新ビジネスで柔軟性を呼び込む〝鍵〟となりそうだ。

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。