横浜ゴムは8月10日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)、産業技術総合研究所(産総研)、先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT)との共同研究により、バイオエタノール(※1)からブタジエンを大量合成し、従来と同等の性能を持つ自動車用タイヤの試作および一連のプロセスの実証に、今年6月に成功したと発表した。
ブタジエンは現在、タイヤの主原料である合成ゴムなどの重要な化学原料として石油から生産されているが、バイオマス(生物資源)から生成したブタジエンからのタイヤ生産技術の確立により、石油への依存度を低減することで、CO2削減と持続可能な原料調達が促進されると云う。
横浜ゴム、産総研、ADMATは、NEDOの「超先端材料超高速開発基盤技術プロジェクト(超超PJ)」の委託事業として、超超PJが推進する「計算科学技術」「プロセス技術」「先端計測技術」の三位一体での開発により、バイオエタノールからブタジエンを高速かつ効率的に合成する技術開発に取り組んでいる。
プロジェクトでは、2019年、触媒の配合状態や反応条件に関する大量のデータを取得・解析するハイスループットシステム(※2)とデータ駆動型学習(※3)、触媒インフォマティクス(※4)の活用により、当時では世界最高のブタジエンの収率(※5)を持つ触媒システムを開発し、さらに生成したブタジエンからブタジエンゴムの合成に成功。またこの知見を生かし、2020年にはより最適な触媒を検討し、2019年と比べて1.5倍のブタジエン収率を持つ世界最高の触媒システムの開発に成功した。
今回の成果は、これをさらに進化させたもので、2020年に開発した高性能触媒システムを用いて反応システムのスケールアップを行い、ブタジエンの大量生産とそれを原料にしたタイヤ製作までの一連のプロセスを実証した。
この研究では、バイオエタノール処理量を約500倍にした大型触媒反応装置を設計・製作してバイオエタノールからのブタジエン大量合成を検討。反応条件の最適化や生成したブタジエンの捕集方法の改良により、約20kgのブタジエン製造に成功、このブタジエンを蒸留精製により高純度化した後、重合反応によって得られたブタジエンゴムを原料にして自動車用タイヤの試作に成功した。
なお、大型触媒反応装置の設計・製作およびブタジエンの大量合成は産総研が、生成ブタジエンの蒸留による高純度化はADMATが行い、横浜ゴムは高純度ブタジエンの重合によるゴム化およびそれを原料にしたタイヤ試作を担当した。
試作タイヤは、グランドツーリングタイヤ「BluEarth-GT AE51」の185/60R15サイズ。従来、このタイヤのキャップトレッドとサイドウォールは、石油由来のゴムから製作されるが、試作では、全てバイオエタノール由来のブタジエンゴムと天然ゴムに変更し、持続可能なゴム材料のみで構成。石油由来のゴムを使用した時と同等の材料性能を有していると云う。
安全性に重要な役割を担うタイヤの中で、路面と接触するキャップトレッドは、路面からの衝撃や外傷からタイヤ内部を守るだけでなく、グリップや摩耗の抑制といったタイヤの性能にも大きく寄与する部分であり、またサイドウォールは走行時に最も変形が大きな部分。ブタジエンゴムは、柔軟で変形に追随しやすいという特性からサイドウォールに使用され、またキャップトレッドにおいては、摩耗抑制に貢献している。
横浜ゴムは、2021年度から2023年度までの中期経営計画「Yokohama Transformation 2023(YX2023)(ヨコハマ・トランスフォーメーション・ニーゼロニーサン)」のESG経営において「未来への思いやり」をスローガンに掲げ、事業活動を通じた社会課題への貢献を推進。今後も、地球環境保護のためのカーボンニュートラルの一環として、持続可能な原料調達に向けた技術開発に取り組んでいくとしている。
※1:バイオマスから製造されるエタノールで現在はサトウキビ、トウモロコシあるいは廃木材から製造。再生可能でカーボンニュートラルな燃料や化学原料として注目されている。
※2:高度に自動化された方法で短期間に多数の触媒の調製ならびに評価を行い、触媒の開発に必要なデータを迅速に得るシステム。
※3:ハイスループット実験や計算科学により、目的に応じて創出されるオンデマンドデータを用いた機械学習。
※4:産総研が提唱している触媒化学と情報科学を融合させた学際領域を指す用語。近年、さまざまな分野と情報科学の融合研究が推進されている。
※5:バイオエタノールから理論上得られる最大ブタジエン量に対する実際に得られたブタジエンの割合。
■新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO):https://www.nedo.go.jp/index.html
■産業技術総合研究所(産総研):https://www.aist.go.jp/
■先端素材高速開発技術研究組合(ADMAT):https://www.admat.or.jp/