矢野経済研究所は、車載モータの世界市場の調査を実施し、モータ搭載システム別の動向や参入企業動向、将来展望について、その概要を公表した。
1.市場概況
環境負荷が少ない自動車として開発が進む次世代自動車(xEV; HEV、PHEV、EV、FCV)のみならず、快適・利便性や安全性の向上を目的に、内燃機関車(ICE)においても、パワートレインやシャシ、ボディ領域などで電動化が進んでいる。
中でもモータは、部品の電動化に伴い、急速に搭載数を増加。矢野経済研究所では、2018年の車載モータ世界市場を新車販売台数ベースで前年比102.7%の約32億3,700万個と推計。2017年の約31億5,300万個と比較して着実に増加していることから、世界規模で厳格化する環境規制の影響が見て取れると云う。
一方、世界の自動車販売台数(※)は、米中貿易戦争や英国のEU離脱など貿易環境の悪化を背景に、2018年、2019年ともにマイナス成長に。2020年も、新型コロナウイルス(COVID-19)の世界的流行から更なる下落が進むとみられ、その減少が車載モータ需要にも大きな影響を与えると見込まれることから、モータの搭載数の増加傾向は間違いないが、その成長は従来よりも鈍化するとしている。
※各国工業会データ等をもとにした矢野経済研究所推計値。
2.注目トピック
■Eアクスルの採用動向
エンジンに代わり駆動する主機モータとインバータ、減速機を一体化した電動駆動システムは「Eアクスル」と呼ばれ、一体化による体積削減や組立工数削減による低コスト化と効率向上が期待されている。
Eアクスルはモータ、インバータ等の配置を平行に配置する「平行軸型」と、同一直線上に配置した「同軸型」に分けられる。
平行軸型は同軸型よりもコストが安く、幅を短くできるといった利点を持つ。一方の同軸型は中空モータによるダブルシャフトとなるため構造が複雑でコスト高となるが、ユニットの小型化が可能なためFR(フロントエンジン・リアドライブ)にも適応しやいといった特長がある。
Eアクスルは黎明期にあるため、まずは競争力のあるコスト性を持たせられることや、大部分の自動車メーカ(OEM)がEV(電気自動車)の駆動方式にFF(フロントエンジン・フロントドライブ)を採用しており、平行軸型でも問題が少ないことなどから、矢野経済研究所では、平行軸型が現在のマジョリティとなっていると推測。但し、OEMからは前後長を短くする要望も強いことから、同軸型もいずれ市場投入が増加する見込みがあるとしている。
また、もう1つのトレンドとして「需要が高い出力帯」を挙げ、出力が150kW級の製品が多い現行の第一世代品となるC・Dセグメント向けの「150kW級」以外に、今後は、軽自動車やAセグメント向けに「50kW級」、高級車のEセグメント向けで「200kW級」と3つの出力帯に、Eアクスルのニーズが特に集中していくとの見方を紹介している。
3.EV市場の拡大は2025年以降
矢野経済研究所では、2018年時の世界の自動車販売台数で約95%を占める内燃機関車(ICE)は、xEVの台頭によってシェアを漸減させていくものの、xEVが本格的な市場拡大時期を迎えるのは2025年より先になると予測。
その理由として、自動車メーカ(OEM)各社が、2016年頃からCASE(Connected、Autonomous、Shared & Service、Electric)の波に乗って進めてきた電動車戦略においての利益確保の難航、バッテリーなど関連部品の調達、充電インフラの整備、電動車開発・生産の人材確保といった山積する課題や、主要OEMの量産EVが2020年代前半に出揃い始めること等を挙げている。
一方、内燃機関車(ICE)については、インドやアフリカなどの著しい経済発展によって自動車の需要が拡大していくであろう国々において、価格の安いコンベンショナルな車としての需要が根強く残ることや、内燃機関自体に希薄燃焼や気筒休止といった燃費向上技術の余地が多く残されており、ICEのニーズが直ちに消失することはないとしている。
さらに、2020年の自動車販売台数が、コロナウイルスによる影響により全世界的に減退する見通しもある等、以上のような理由から自動車販売台数が回復基調になり、ICEがピークアウトを迎えてxEVが本格的に普及をはじめる時期を2025~2030年になるだろうとしている。
またこれにより、xEVの世界販売台数を2030年で1,787万台と想定した場合、クルマ1台あたりの車載モータ搭載数の増加も踏まえ、2030年の車載モータ世界市場は約56億個規模(新車販売台数ベース)まで拡大すると予測している。
[調査要綱]
– 調査期間:2020年2月~5月
– 調査対象:自動車システムメーカ、モータメーカ等
– 調査方法:矢野経済研究所の専門研究員による直接面談、電話・e-mailによるヒアリング、ならびに文献調査併用
<車載モータ市場とは>
同調査における車載モータは、スタータやパワーシートモータ、電動ブレーキに用いられるモータなどから次世代自動車(xEV; ストロングハイブリッド[HEV]、プラグインハイブリッド[PHEV]、電気自動車[EV]、燃料電池車[FCV])で用いられる主機モータまで、サイズや出力を問わず搭載されるモータが対象。カーオーディオやナビゲーションシステムに使用されるディスクドライブ・HDD用モータ等の一部は対象外。対象車両はxEVを含む、すべての乗用車および車両重量3.5t以下の小型商用車に搭載される車載モータとした。
<市場に含まれる商品・サービス>
パワートレイン領域;スタータ、オルタネータ/ISG、電動過給機、電動ウォーターポンプ、電動オイルポンプ シャシ領域;電動ブレーキ、電動パーキングブレーキ ボディ領域;パワーウィンドウ、パワーシート 次世代自動車システム領域;主機モータ、電動コンプレッサ。
[出典資料について]
– 資料名:2020 車載モータ市場の最新動向と将来展望
– 発刊日:2020年5月27日
– 体裁:A4 229ページ
– 定価:150,000円(税別)
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