ヤマハは4月7日、車室内で立体音響に対応した映像・楽曲コンテンツに没入できる技術を開発したと発表した。
近年、Dolby Atmos等に対応した、立体音響を体験できる映像・楽曲コンテンツが普及してきている。空間を積極的に活用した立体表現が盛り込まれ、様々な方向から音が聴こえてくるこのコンテンツは、オーディオコンポーネントやヘッドホンで楽しむことができるが、音の反射や共鳴が顕著で複雑な形状をした車室内では、制作者の狙いを精度高く再現することが困難であった。今回ヤマハが開発した技術は、全てのシートで立体音響の圧倒的な没入感を体感することができるという。
またヤマハは、HMI(Human Machine Interface)としての立体音響を提案する。アクセル操作や速度に連動する加速音や、様々なセンサーが発する情報提示音を立体的な表現で再生することで、ドライバーの認知が向上し、運転支援につながることが期待されるとしている。
現在、ヤマハは自動車メーカーに向けたデモを開始しており、2020年より販売を開始した車載オーディオ商品の新たなソリューションとして、2022年の量産化を目指している。
■技術要素
1.立体音響を正確に再現する高音質スピーカーの最適配置
前後方向および上下方向から聞こえる音の表現が立体音響には求められる。これを全てのシートで実現するため、ヘッドレストおよび天井部への設置など、合計30個のスピーカーを車室内に配置した。各スピーカーにはヤマハオリジナル振動板をはじめとするHi-Fiオーディオのノウハウを適用している。
<スピーカー構成>
フロント 3ウェイ/2セット
リア 3ウェイ/2セット
センタースピーカー/1個
サブウーファー/1個
Dピラースピーカー/2個
天井スピーカー/6個
ヘッドレストスピーカー/8個(各席2個)
合計/30個
2.信号処理による空間的拡がりの演出
立体音響のコンテンツは、各スピーカーが理想的な配置にあることを想定して制作されるが、車室内では足元のドアウーファーや耳元のヘッドレストスピーカーなど、リスナーと各スピーカーとの距離が様々となる。スピーカーがリスナーに近いほど、聞こえてくる音には「狭さ」を感じやすいため、近距離にあるスピーカーから出る音に独自の信号処理を適用している。自社製信号処理LSIの開発により蓄積してきた技術を応用することで、距離感の歪みを解消した。
3.パラメータ探索エンジンの導入
車の形状や内装材などの影響により、車室内の音響特性は車種ごとに大きく異なる。合計30個のスピーカーから再生される音を制御し、全てのシートで圧倒的な音の体験を実現するには、複雑な信号処理と高度なチューニングが必要となる。この信号処理アルゴリズムで使用されるパラメータの組み合わせは膨大な数になるため、最適なパラメータを自動算出する「パラメータ探索エンジン」を新たに開発した。この技術は、従来の周波数特性分析に加え、人の聴こえ方に着目した分析を行うことで、適切なパラメータの組み合わせを提示する。これを基に、熟練のスキルを持つサウンドエンジニアがパラメータを最終調整することで、車種ごとに特別に仕立てた音響空間を提供することが可能となった。
4. HMIとしての立体音響
今回のデモでは乗車時のウェルカムサウンドを制作した。