東洋ゴム工業は、自動車のさらなる低燃費化や、EV化に必要とされる空力特性(※1)の高いタイヤ実現のため、独自の「モビリティ・エアロダイナミクス(空力シミュレーション)技術」を確立したと、5月30日に発表した。
この技術は、実際のタイヤのパターンデザインを用いて、タイヤへの荷重や速度など、走行時の使用諸条件、また、ホイールや車体形状といった個別条件を組み合わせ、タイヤ変形を考慮し、タイヤ接地転動状態(※2)でのタイヤおよび車両の空力特性を解析・予測できる技術だと云う。
同社は今後、この技術を用い、自動車メーカーの車両開発に必要な燃費向上や、航続距離の伸長に対し、最適なタイヤを提案。また、実車風洞実験(※3)結果と整合性を持つ、このシミュレーション技術を利用した、「空力特性の高いタイヤ」を開発するとしている。
※1)空力特性:空気中で物体が移動、運動するときに受ける空気の力(抵抗)や流れの特質。
※2)タイヤ接地転動状態:タイヤが実際の路面の上を転がり動いている状態(と同じ状態)。
※3)実車風洞実験:目には見えない風を人工的につくる専門施設内で、実際の車両が受ける空気の流れを可視化するとともに、空気抵抗を定量測定する実験。
○空力特性の重要性
空気抵抗は、自動車が走行する際に必ず受けるもので、この低減が燃費性能の向上につながる。自動車メーカーは、環境性能面での社会的な期待に応えるため、空力特性の向上を意識して車両のデザインや開発に取り組んでいる。同様に、EV車両においても、1回の充電における航続距離を伸長させていくための課題として、空力特性の向上は重要テーマの一つでもある。
○タイヤと空力との関係
走行中のタイヤは、荷重を支えながら変形し、回転することから、タイヤ周辺の空気の流れは、車両の空力特性に直接的な影響(※4)を及ぼしている。
この車両の空力特性に対する影響を抑えるため、走行中にタイヤ周辺で生じる空気の流れを解析し、タイヤプロファイルを最適化、空気の流れをコントロールすることで、燃費は向上する。
※4)直接的な影響:車両全体が受ける空気抵抗のうち、タイヤの占める割合は約15%といわれている。
○燃費測定基準の世界統一
2014年、国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)で、「乗用車等の国際調和燃費・排ガス試験方法(WLTP※5)」の世界統一技術規則が採択。国や地域ごとに異なる燃費や排ガス規制、安全等、測定試験方法が世界で標準化された。風洞実験では、タイヤの空気抵抗も考慮されるため、今後、燃費の規制値として、タイヤの空力特性が直接関係するようになると云う。
東洋ゴムは、タイヤ周辺での空気の流れに対する改善アプローチは、今後、大きな関心事になるとしている。
※5)WLTP:Worldwide-harmonized Light vehicles Test Procedureの略。
同社は、「スーパーコンピューターを用いたタイヤ解析」に特化した数値計算技術を独自に開発し、商品を設計。タイヤ解析技術とドライビングシミュレーションを融合した、独自のタイヤ設計基盤技術「T-mode(ティーモード)」では、設計期間の大幅な短縮や高精度な設計を実現してきたと云う。
今回のモビリティ・エアロダイナミクス技術は、このT-modeの進化技術として、先行研究で実現されていなかった領域にアプローチし、「荷重や走行条件等によるタイヤの変形」、「不連続なタイヤパターンを考慮したタイヤの回転」、あるいは「タイヤと路面との接触状態を考慮した空気の流れ場」など、実際に走行する自動車が空力として影響を受ける動きや状態を、種々の数値計算手法によって数値化し、その組合せによって、タイヤおよび車両周りの空気の流れ場のシミュレーションと可視化を実現したとしている。