東レ(本社:東京都中央区、社長:日覺昭廣)は7月14日、ドイツのUAM(Urban Air Mobility)向けの炭素繊維複合材料の供給で事業契約を締結したと発表した。(坂上 賢治)
提供先は独国に本拠を構えるリリウム社(Lilium)で、同社が開発中のUAM(Urban Air Mobility)の「リリウム・ジェット(Lilium Jet)」に使用する炭素繊維複合材料の供給が前提となっているもの。
UAMとは、都市部の交通が抱える渋滞・騒音・大気汚染といった課題の解決に繋がる新交通システムとして期待されている主に電動の小型航空機で広く〝空飛ぶクルマ〟と呼ばれている。
空飛ぶクルマについては現在、世界各国で商業運航の始動に向け各国が競っている状況で、日本国内でも早くから官民揃って機体や運航システムの開発、法制度の整備を進めるなど、同分野に限っては現時点で世界に遅れることなく事業化を目指している最中にある。
現段階でUAMは、離陸時に要するスペースが最小となる垂直離着陸可能な小型電動機を主流に開発が進む。独・リリウム社はUAMでは世界的に見ても開発元のひとつとしてトップランナーの1社となっており目下、精力的に機体製造に併せ、輸送サービス自体のソリューション開発と事業化を急いでいる。
そんなUAMの機体開発にあたっては、強い剛性強度を求めながらも軽量化策を実現させるため炭素繊維複合材料の果たす役割が極めて高い。今回、東レは世界各国のUAMメーカーとの協業を模索しつつ、機体素材の主要な提供先となるべく動きを進めている。今リリウム社との締結への動きも、この一環として実現されたものだ。
リリウム・ジェットは、時速300kmで5人の乗員を60分以内の範囲で送り届けるというコンセプトで開発されている垂直離着陸型UAMで、胴体・主翼・動翼などに炭素繊維複合材料が使用される。商業運行開始は2025年を目標としている。
東レの炭素繊維複合材料事業は、2020年5月に発表した中期経営課題のひとつである”プロジェクトAP-G 2022″で、UAM用途に向けた事業基盤を戦略的に拡充する方針を据えている。今契約にあたり同社では「UAM特有の諸課題に応える炭素繊維複合材料の開発を通して、都市部における環境問題の解決に貢献していきます。今後も、東レグループ内の連携をさらに強化し市場のニーズに迅速に対応していくことで、素材の力で社会を変革してまいります」と話している。
但し、空飛ぶクルマで先行するドイツ勢に対して、東レが炭素素材を供給したということ自体は、日本国内事情を踏まえるとあまり手放しで喜べない側面もある。というのは当初、日本国内でも空飛ぶクルマの実現に対しては官民挙げて積極的に推進していたからだ。
しかし今回、東レは結局、世界でも商用化で最も先行しているリリウム社への素材提供を決めた。それはビジネス上の選択ではある意味正しい判断ではあるのだが、一方で日本国内に於いては開発・試験環境面での開放が現段階では大きく進まず、日本の空飛ぶクルマに係る国家プロジェクトが、海外勢の後塵を拝しているということに繫がるからだ。
これを契機に我が国でも、空飛ぶクルマプロジェクトがより進展するよう、行政を巻き込み規制緩和の動きを進めるなど、取り組みの一層の加速に期待したいところだ。
リリウム社については以下の通り
(1)会社名 :リリウム(英名:Lilium)
(2)所在地 :ドイツ ミュンヘン
(3)設立 :2015年
(4)代表者 :Daniel Wiegand
(5)事業内容 :UAM(Urban Air Mobility)の機体製造、輸送サービス提供
(6)URL :https://lilium.com/