東レは、水素・燃料電池用部材を開発・製造・販売するドイツの完全子会社「Greenerity(以下、GNT)」の第2工場新設を決定し、3月2日に起工式を行った。稼働開始は来年11月を予定している。
第2工場には、水素・燃料電池の核心部材(※1)である触媒付き電解質膜「Catalyst Coated Membrane(以下、CCM)」および膜・電極接合体「Membrane Electrode Assembly(以下、MEA)」を効率的に生産する設備を導入し、フル生産時には、両製品合わせて年間約1千万枚の生産を行う計画。これは、レンジエクステンダー方式デリバリーカー約8万台分に相当すると云う。
地球温暖化防止のための低炭素化について、各国ではパリ協定(※2)や国連の「持続可能な開発目標(SDGs/※3)」に掲げられた世界的目標の達成に向けて、ガソリン車・ディーゼル車など内燃機関(ICE)自動車のCO2排出抑制に関する政策の導入や法制化を進め、具体的な規制・基準を打ち出している。
そのため、欧州、中国地域では、大手Tier1や自動車メーカーが、バス、トラック、デリバリーカーなどの商用車向けのレンジエクステンダー(REX)や乗用車向けを含む燃料電池車(FCV/※4)に使用する 水素・燃料電池分野へ本格参入している。
東レは、上記のような状況を鑑み、CCM、MEA需要の飛躍的増大を見通して、顧客からの増産・供給の要請に応えるため、今回、GNTの第2工場新設を決定した。
東レグループでは、水素・燃料電池向けに、高圧水素タンク用高強度炭素繊維、プリプレグ(※5)、水素脆性 高耐性ライナー樹脂、電極基材(Gas Diffusion Layer:GDL)、触媒層、高温運転性と水電解・水素圧縮にも好適な低ガス透過性とを備える炭化水素系電解質膜などの素材やその加工品を提供。2015年にCCM、MEAの設計技術を保有していたGNTを買収し、東レの関連素材と融合しCCM、MEAの製造・販売拠点として育成してきた。
東レは、今後も一層、グループ一丸となって、将来の低炭素・水素社会構築のための取り組みを強化していくとしている。
[会社概要]
– 会社名:Greenerity GmbH
– 設立:2015年7月1日
– 所在地:ドイツ連邦共和国バイエルン州アルゼナウ市、
– 資本金:45百万ユーロ
– 出資:東レ100%
– 代表者:Holger Dziallas
– 事業内容:
水素・燃料電池用、水電解用、および、水素圧縮用のCCM、MEAの開発・製造・販売。
[新工場の概要]
– 所在地:ドイツ連邦共和国バイエルン州アルゼナウ市
– 稼働開始:2021年11月(予定)
タイトル画像:3月2日にアルゼナウ工業エリアで執り行われたGNT新工場の起工式(左から4番目が後藤哲哉 東レ専任理事/Greenerity会長、同5番目が須賀康雄 東レ専任理事/東レ欧州代表、同6番目がAlexander Legler アルゼナウ市長、同7番目がHolger Dziallas Greenerity社長)
※1)水素・燃料電池の核心部材:水素・燃料電池での発電は、触媒(水素極)によって水素から電子とプロトン(H+)が生成され、プロトンは電解質膜で伝導され空気中の酸素と触媒(空気極)上で化合して水を生成することで行われる。結局、水素と空気から発電と水生成が行われるが、その効率は触媒と電解質膜(これらを合わせたCCM)、更にこれにガス供給と発生電気の効率よい伝導を司る電極基材(GDL)(CCMにGDLを合わせたMEA)という核心部材の特性に依存する。
※2)パリ協定:2016年11月4日発効の温室効果ガス削減に関する国際的取り決め(国連気候変動枠組条約締結国会議(通称COP)で合意)。締結国だけで世界の温室効果ガス排出量の約86%、159ヶ国・地域をカバーする。
※3)持続可能な開発目標(SDGs):2015年9月の国連総会で採択された『我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ』と題する具体的行動指針。『持続可能な開発目標』(Sustainable Development Goals:SDGs)であり、17のグローバル目標と169の達成基準からなる。
※4)レンジエクステンダー(REX: Range Extender):EV車のモーター駆動用バッテリーを、搭載する水素・燃料電池で発電し充電しながら走行する方式。バッテリーの充電より水素充填の方が短時間、かつ、航続距離を稼げる。なお、燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)とは、アクセルアクションに連動した水素・燃料電池の発電が直接、モーターを駆動する方式。
※5)プリプレグ:炭素繊維に樹脂を含浸させたシート状の半硬化中間成形物。これを積層して熱成形後、硬化させてコンポジット成形体を得る。