東京大学大学院新領域創成科学研究科の藤本博志准教授らの研究グループは9月10日、ブリヂストン(以下BS)、日本精工(NSK)、ローム、東洋電機製造(TD)と共同で、道路からインホイールモータ(IWM)に直接、走行中給電できる「第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ」の実車走行実験に成功したと発表した。(佃モビリティ総研・間宮潔)
第3世代走行中ワイヤレス給電インホイールモータ(IWM)の開発に世界で初めて成功
世界的な潮流となっている電気自動車の普及のなかで懸念されているのが、リチウム・バッテリーの資源枯渇であり、充電インフラの社会的な整備である。この課題に応えるのが、走行中のワイヤレス給電で、欧米だけでなく、韓国でも研究開発が本格化している。その開発コンセプトは、車体下部に受電コイルを配置するタイプ。しかしこの場合、走行中に車体が上下動するため、車体底面の受電コイルと、路面に埋め込まれる給電パネル(コイル)との間隔が安定せず給電効率が落ちる。
これに対して、東大研究グループが提案している第3世代のIWMは、タイヤ・ホイール側の内側に下向きに受電コイルを配置するタイプを考案。この場合、路面に埋め込まれた給電パネルと受電コイルとの間隔変動が少なくなるため給電効率が高まる。今回は東大・柏キャンパスで、実車走行を行いその様子を報道機関に向けて公開した。
東京大学の藤本准教授ら研究グループと日本精工、ブリヂストン、ローム、東洋電機製造による“産学連携”
東大研究グループとBS、NSK、ローム、TDとの5者共同開発体制は2015年につくられ、国家的プロジェクトとして内閣府が推進する戦略的イノベーション創造プログラムの一つとして取り上げられ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)などの支援を受けている。政府のスマートシティ構想のなかでも、走行中給電の電気自動車の未来像が描かれており、開発に拍車がかかっている。
17年3月に第2世代IWMが発表され、今回さらに進化型の第3世代IWMをお披露目した。第3世代IWMは、第2世代に比べ、1輪当たりの給電量が12kWから20kWと67%アップさせ、モータ出力水冷採用で25kWと倍以上に引き上げるなど、「軽自動車から登録車並み」に性能をアップさせた。
タイヤ車輪内側に受電から駆動までの機能を配置したインホイール一体タイプもお披露目
駆動部品をタイヤ内に配置し、熱衝撃に強い超小型SiCを基盤に配置したコンバータ/インバータにより、機電一体のコンパクトなモータを新設計している。また給電(送電)側のコイル、受電側のコイルも大幅に性能アップ、総合高率で92.5%を実現、さらに「95%を目標に開発を進める」としている。
今回の記者発表では、先の通りタイヤ・ホイール側に外付けされる受電コイルを、ホイール内部に格納する世界初の「ホイール内給電」を提案している。タイヤ幅は広くなるが、物理的にスペースをとる受電コイルを内蔵することによって、車両設計の自由度を広げる。とくに給電(送電)コイルと受電コイルとの間に、缶などの異物が侵入すると送電停止などのリスクが生じる。
新コンセプトは、受電コイルがホイールに内蔵され、タイヤでガードされることで、リスクを大幅に低減できる仕組みとしている。タイヤの構造部材として、スチールベルトは渦電流を生じるため採用はできないので、全て有機繊維ベルトを採用する。現在、タイヤを介した送受電試験をクリア、さらなる性能アップを目指し、開発中である。
2025年の実証実験を目指し、他企業の知見を求めて、オープンポリシーの特許管理を標ぼう
さらに今回の第3世代IWM記者発表会で強調されたのは、東大を軸にした産学連携の共同開発体制に加えて、今後、多くの組織・企業の知見を求め、電気自動車の中核技術として育成する「オープンイノベーション」の理想が示した。新しい世代の電気自動車普及には、特定の企業がノウハウを秘匿、特許を独占するのでなく、「給電コンセプト」を無償で解放し、その上で被差別ライセンスを基盤にした「知財共創エコシステム」の考えを打ち出した。
第3世代IWMの研究開発には、中心の5者に加えて、新たに樹脂材料の評価で東レ・カーボンマジック社、またアプリ開発でカーメイトが協力企業に名乗りを上げている。今後の開発スケジュールは、2022年までにタイヤを含めた車両評価を行ない、基礎技術に磨きをかける。そして25年には実証実験フェーズへの移行を目指しており、開発拠点となる千葉・柏などスマートシティにおける社会実験が想定される。
高速道路上での給電システムは、例えば9㎞ごとに、1㎞程の給電区間を設けるなどして、ノンストップでの走行を可能にする。一般道路では交差点の手前区間30mで給電パネル(コイル)を埋め込み、信号待ちを捉えての給電を行なうなど社会インフラの整備が検討されている。