帝人は12月10日、グループとして電気自動車(EV)やハイブリッド車(HV)に求められるバッテリーの環境効率や安全性の向上に貢献することを目指し、マルチマテリアルによるコンポジット製バッテリーボックスを開発したことを発表した。
1.背景
近未来のモビリティ像として「CASE」(*1)が示され、環境負荷低減を目的に自動車の電動化が進む中、EVなどに搭載されるバッテリーには、容量の拡大に加え、サイズの拡大、安定した蓄電能力、軽量化、衝突時の安全性向上が必須になっている。
従来、バッテリーを格納するバッテリーボックスは、主に鉄やアルミニウムなどの金属材料を用いることで強度や剛性を担保しているが、一方でこれらの材料を用いたバッテリーボックスは、軽量性や、バッテリーおよび乗員の保護に必要な耐火性や耐熱性、複雑な車両レイアウトに適応する形状自由度などにおいて課題を抱えていた。
帝人グループは、かねてより独自の高機能素材やエンジニアリング技術、成形技術を駆使して、マルチマテリアルによるコンポジット製の自動車部品の開発・設計に取り組んでいるが、こうしたニーズに対応するため、マルチマテリアルのバッテリーボックスを開発することとした。
(*1)CASE: ダイムラーの前CEOであるディーター・ツェッチェ氏が、自動車業界が将来の進むべき方向性として2016 年に提唱。Connected(つながる)、Autonomous(自動運転)、Shared(共有)、Electric(電動化)の頭文字をとったもの。
2.バッテリーボックスについて
今回、開発したバッテリーボックスは、これまで帝人が培ってきたマルチマテリアル技術を駆使し、複合材料(FRP)と金属材料を最適条件で組み合わせて設計した。顧客の求める特性に応じて、FRPには炭素繊維またはガラス繊維を使用することができる。
FRPをプレス成形することで、バッテリーボックスを形成するトレイやカバーなどの複雑な形状を一体成形できるため、容易にシール性を確保して安全性を担保できる他、製造コストの最適化も実現する。
また、車種ごとに異なるサイズに適切に対応しながら、従来のバッテリーボックスと同等の剛性や耐衝撃性を確保するため、フレームには金属を用いている。
さらに、アルミニウム製の従来品と同等の軽量化を実現した他、バッテリーボックスに求められる耐火性、寸法安定性、耐腐食性にも優れており、FRP製のトレイやカバーには、電磁波シールド性を付与することも可能になっている。
3.今後の展開
帝人は、2017 年に北米最大の自動車向け複合材料部品メーカーである ContinentalStructural Plastics 社(CSP)を買収して以来、グローバル Tier1 サプライヤーとして自動車向け複合成形材料事業を展開。2020年2月には、欧州における自動車向け複合成形材料のデザイン、設計、プロトタイピングなどを担うテクニカルセンターとして、ドイツ・ブッパタール市にテイジン・オートモーティブ・センター・ヨーロッパ(TACE)を設立し、軽量性や強度に加え、デザイン、生産性、コスト効率といった顧客ニーズへの対応を強化している。
今回、開発したバッテリーボックスも、国内の複合材料技術開発センターや、CSP、TACEなどの設備や人財を活用し、顧客ニーズに沿った最適な設計や改良を行うことにより、2025年からの量産開始を目指している。