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2021年7月28日【テクノロジー】

住友ベークライト樹脂製品が生む次世代自動車への貢献

NEXT MOBILITY編集部

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■部品の小型・軽量化やCO2削減に貢献

「住友ベークライト」では前回紹介した「e-Axle」樹脂化提案など電動化の取組みを推進しているが、並行してADAS(先進運転⽀援システム)や⾃動運転⾞向け部品に対しても⾃社の樹脂製品を活⽤することで、様々な⾃動⾞部品の機能性向上に加えて⼩型・軽量化や⼀体化をはじめ、製造過程におけるCO2削減など、環境視点での取組みに注力している。

 

事故の削減、渋滞解消、環境負荷低減などを目的に、普及や開発が進むADASや自動運転車。だが、一方で自動車の高機能化は、センサやレーダー、ECUなどセンシングや制御系部品の増加が必要となり、従来からの金属製部品では点数が膨大となってしまうものも多い。

 

そのため、各構成部品を軽くコンパクトにしたり、一体化することで点数自体を減らすことが求められている。また、部品の製造過程においても、さらなるCO2削減は業界における大きな命題のひとつとなっており、早急な対応が求められている。

 

ここでは、このような自動車分野における大きな課題解決に貢献する、住友ベークライトの樹脂製品について紹介しよう。

 

■部品を進化させる5つの樹脂製品

まずは、住友ベークライトの数ある製品群の中でも、特にADASや自動運転車向け部品を進化させる5つの樹脂製品や技術を挙げてみる。

 

【特定波長吸収シート】

⾚外線を⽤い⾞両周囲の物体を検知するLiDARの発光部に使用することで、センサのノイズ低減、信頼性向上に貢献する。主な特徴は以下の通りだ。

 

・不必要な可視光をカット、赤外光を89%透過し、センサの信頼性向上に寄与
・表⾯処理により様々な機能を複合化、例えば両⾯反射防⽌処理により必要な⾚外光の透過率を更に5%以上向上することが可能
・ポリカーボネート基材で耐衝撃性に優れており、熱成形により形状の付与が可能
・センシングに使用する⾚外線波⻑に応じ、吸収する可視光の範囲を調整可能

 

 

【3次元回路部品(LDS-MID)用 熱硬化型成形材料】
ミリ波レーダー誘電体アンテナやV2X機器などに使われるMID(Molded Interconnect Device)向け樹脂材料。

MIDとは、電気回路を形成し部品実装が可能な樹脂成形品で、従来のプリント基板が持つ機能を筐体に担わすことで、部品の削減、省スペースによる小型化、軽量化を可能とするものだ。

 

従来、MIDに使われるのは、熱可塑性樹脂で、高い耐熱性が求められる自動車部品には適用が難しかった。そこで、同社では、熱硬化性樹脂を用いたLDS工法用エポキシ樹脂成形材料、フェノール樹脂成形材料および不飽和ポリエステル樹脂成形材料を開発。中でもLDS工法用エポキシ樹脂成形材料は、ベース材料として、同社がトップシェアを持つ半導体封止用エポキシ樹脂を用いており、耐熱性、信頼性に優れた樹脂設計を用いている。

 

製品の主な特徴は以下の通りだ。
・レーザー描画にて、成形物の上に回路作成が可能
・アンテナなどを描画する事により、省スペースでのモジュール設計が可能
・複数のモールド層を設計する事で、機能の違う樹脂レイヤー層の形成が実現できる

 

 

【ポリマー光導波路】
次世代ハーネスである「光ハーネス」の構築とシンプル化に貢献する製品。ADASや自動運転車では、センサを多数搭載する必要があるのは先述したが、データ通信料量が増えることでハーネス本数の増大もまねく。また、情報の高速処理や低遅延などでノイズ対策部品も増えることになる。

 

そこで、各センサ類などとECUなどを繋ぐハーネスを、同社のポリマー光導波路を活用した光ハーネスに代替することで、配線数を50分の1程度に減らすことが可能。配線の集約や分配といった光信号の交通整理ができ、車両の軽量化や省スペース化などに貢献する。また、ノイズレスのため、安全性の向上にも繫がる。

 

製品の主な特徴は以下の通りだ。
・⾃動運転を⽀えるカメラ、センサの膨⼤な情報を光で瞬時に伝える光ハーネスに最適
・光導波路によりシンプルな情報網を構築するだけでなく、軽量化、ノイズ耐性も向上

 

【メッキ複合化技術】
EVの次世代パワートレインとして注目されているモータとインバータ、トランスミッションを一体化した「e-Axle(イーアクスル)」のインバータケースなどに樹脂を用いる際、メッキと複合化する技術。ほかに、ECUケース(写真)にも活用が可能だ。

 

製品の主な特徴は以下の通り。
・熱硬化性樹脂成形材料に金属メッキを施すことで、電磁波シールドなどの各種特徴を付加し電動化、軽量化に貢献する

 

 

【一括封止専用材料】
ECUやセンサモジュールを一括封止技術を用いて樹脂化することで、部品の一体化や点数の削減、軽量化や信頼性の向上などを実現する。

 

製品の主な特徴は以下の通り。
・狭部充填や優れたシール性があり、⼩型・⾼信頼性化に貢献
・8W/mkレベルの樹脂自体の熱伝導・放熱性やヒートシンク⼀体成形による熱マネジメントが可能
・成形装置と製品用途に適した成形材料の提案が可能

 

このほかにも先進運転支援に欠かすことが出来ない5G・DX時代に対応する高機能材料の強化を進めており、低誘電基板材料なども提案している。

 

 

■構想段階からのサポートが可能

同社のスマートコミュニティ市場開発本部 スマート・自動車材料市場開発部 の岸 一光 担当部長は、上記製品群の優位性や独自性についてこう語る。

 

住友ベークライト(株) スマートコミュニティ市場開発本部 スマート・自動車材料市場開発部 担当部長 岸 一光氏

 

「お客様により多様な開発目標がございますが、当社の強みである、ポリマー設計・合成からコンパウンディング、成形加工まで一連の開発業務を通じ、お客様と一緒になって考え、一つひとつのプラスチックの用途に対して、最適なご提案をすることができます。

特にこのたびご紹介する5つの製品、技術においては、従来構成素材の金属など無機物からプラスチックへの転換による小型軽量化や形状設計の自由度向上だけではなく、センシング精度、通信速度など機能向上にも貢献します」。

 

同社では、樹脂材料を活用した顧客の製品開発などをサポートする目的で、2019年に静岡工場内(藤枝市)に「オートモーティブソリューションギャラリー」も開設した。

ギャラリー内では、実際に樹脂材料を用いて製造した部品などの現物展示を行うほか、映像で解説用資料も閲覧できる。

 

 

さらに、モビリティ関連では、国内3か所の工場や、北米、欧州、中国、台湾などの海外拠点には、各研究所内に設置された樹脂製品の成形設備を活用して可能性検証や初期実験をすることができる「オープンラボラトリー」も構築。

同社の樹脂材料を活用した部品を生産するには、実際にどのようなプロセスが必要であるかなどが分かるようになっている。

 

 

岸 担当部長は、これらを「お客様を構想段階からサポートしてお客様の『想像』を『創造』に変えるお手伝いする体制」だという。

お客様である部品メーカーなどをはじめ、今まで金属素材を使った部品のみしか扱った経験がない担当者も多い。そこで、まずは、実際に樹脂で製作した部品や生産設備を見せることで、「(樹脂材料で)こんなことができるんだ」といった認知をしてもらう。そして、そこから「こういったことができるだろうか」といった「想像」が生まれ、それが後々の樹脂材料による部品生産、つまり「創造」へと繫がる。

 

これらギャラリーやラボは、製品の構想から実用化まで、顧客に「寄り添う」一貫したサポートにより、顧客のニーズにより細かに応えることを可能とする。そして、こういった独自の体勢は、同社の「CS(顧客の満足度)最優先」という理念を具現化した好例でもある。

 

 

■樹脂材料で機能向上とCO2削減を

住友ベークライトでは、今回紹介している製品群について、ADAS、自動運転向けを含めて、「2025年には100億円の販売」を目指している。また、顧客のADAS、自動運転に関する機能向上への貢献を通じ、エンドユーザーである自動車利用者に「さらなる安心・安全と快適性を提供したいと考えている」という。

 

また、同社では、これら目標達成のために、特に以下のような樹脂材料の利点を訴求していく。

 

1、部品の機能向上、小型軽量化や部品点数の削減
2、製造プロセスの簡略化
3、CO2排出量の削減(環境視点の取組み)

 

1については、各製品の解説で既に述べた。2については、従来の⾦属製部品と⽐べ、例えば切削加⼯などが不要になるため、製造プロセスを短くでき、ひいては製造現場の負担軽減にも貢献する。

 

更に今後、同社が強く訴求したいのが3だ。

 

日本政府は、2030年までにCO2を含む温室効果ガスを46%削減する目標を掲げているのはご存じの通り。自動車分野でも、原油を掘る井戸(well)から車の車輪(wheel)に至るまでの燃料のエネルギー効率である「ウェル・トゥー・ホイール」や、原料の採掘・採集から自動車の燃料タンクに至るまでのエネルギー効率を意味する「ウェル・トゥー・タンク」などが話題となっている。自動車そのものだけでなく、生産工程など自動車業界全体でCO2削減が求められているのだ。

 

こういった環境問題について、岸 担当部長は「例えば、部品の材料にアルミを使っている場合、製造段階でかなりのCO2が排出されます。⼀⽅、一般的な樹脂材料の場合は、CO2排出量はアルミの約5分の1という統計があります」という。

顧客である自動車メーカーやティア1などとのディスカッションで、この点を紹介すると「なるほど」と納得する担当者も多い。だが、まだまだ業界や一般には広まっていない事実だ。

特に、部品メーカーなどにとっては、新たに樹脂材料を使った部品に切り替える際、いかに製造コストは下がるとはいえ、初期段階では設備投資が必要となる。だが、樹脂材料が環境対策にも貢献する事実を知れば、新たな投資の強い後押しになる可能性は高い。

 

岸 担当部長は「今後はますます、自動車関連に限らずCO2削減や資源循環など地球環境と共生するための取り組みが必要だ」と語る。そのために、同社ではADASや自動運転車に限らず、EV関連についても積極的だ。例えば、今後普及が見込まれるe-Axleでは、樹脂化による軽量化などでエネルギー効率改善などで顧客と開発取組を推進。また、ほかにも植物由来のフェノール樹脂開発なども行い、環境に関し幅広い取り組みを目指す。

 

一方、ケミカルリサイクルに対しても、既に実証プラントを立ち上げて検証開始済みである。さらに、樹脂メーカーのパイオニアとして、中期経営計画2021-23においては、カーボンニュートラルに関し「2050年にCO2排出量ゼロ」という目標達成に向け、まずは2030年日本政府目標46%削減に取組むことを決めた。またSDGsでも、以下のような項目を掲げている。

 

 

今後も、同社は自動車はもちろん、幅広い分野で環境やSDGs視点に立ち、顧客や社会へ様々な提案や取組みを行うことで、持続可能な未来へとつながるプラスチックとの共生を目指すという。

 

(文:平塚直樹)

 

【関連リンク】
住友ベークライト公式ホームページ(AD/ADAS関連)
https://www.sumibe.co.jp/solution/mobility/AD_ADAS/

 

 

【参考動画】

運転支援ソリューション(住友ベークライト公式YouTubeチャンネルより)

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

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1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

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1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

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日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

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(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

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経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

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1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

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株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

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1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。