■モーターやインバータなどに独自樹脂
開発中の電動アクスルは、モーター出力150キロワットのタイプ。ガソリン車であれば排気量2L程度のエンジンと同等の出力で、欧州などで人気が高いDセグメントの乗用車にも対応可能だ。
採用する樹脂製部品は、主に以下の通りだ。
・モーター用磁石固定材料
モーターのロータ部には、すでに採用実績がある前述の磁石固定材料を採用。高密着樹脂を使うことで、従来から使用されている接着材よりも狭部充填性、高密着性、信頼性が高く、モーターのさらなる高回転・高出力化に貢献する。
・ステータコイル封止材料
モーターのローター内に使われるステータコイルには、高熱電導樹脂の封止材料を使用。放熱性を向上させるとともに、コイル近傍に水路を配置した独自の水冷方式も採用することで、従来にない高い冷却性能を実現する。
・モーター及びギアボックス用ハウジング
モーターやギアボックス用に高機能樹脂を使ったハウジングを開発中。一般的なアルミ製ハウジングと比べ、樹脂素材が持つ特徴である軽量かつ振動吸収能力を活かした構造により、電動車の小型・軽量化、低振動・低騒音化ならびに原価低減に貢献する。
・インバータ用高放熱・絶縁樹脂
400Vから800Vの高電圧を使う電動車では、インバータの熱対策や絶縁も必須だ。それらの対策のため、パワーモジュールに独自の素材・樹脂配合技術を活用した高放熱シートを装備。絶縁を担保する樹脂の特徴を維持しつつ、パワーモジュールの層構造を減らし、薄型で熱抵抗を大幅に小さくした構造を提案する。
ちなみに、上記のモーター用磁石固定材は同社のオンリーワン技術であり、またパワーモジュール用高放熱シートは18W/(m・K)クラスの世界最高レベルの熱伝導率を誇る。また、ほかの製品に関しても、同社の樹脂に関する豊富な知見・技術が余すことなく取り入れられている。
■まずは日本や欧州で実用化
各製品の優位性や独自性は期待もかなり大きいようで、実はこれら製品は各国の自動車関連企業との間で、すでに実用化に関する話が進められている。
同社によれば、まずは日本や欧州での販売が先駆けとなり、その後アメリカや韓国、中国などが続くという。
同社では、特に欧州での新たな需要に対応すべく、車載用エポキシ樹脂封止用材料の生産をベルギーの子会社Vyncolit NV社で2022年から行うことを発表。従来からある日本、シンガポール、中国、台湾などの工場に加え、さらなる生産拠点の強化も図る予定だ。
コロナ禍の影響により、世界の自動車メーカーは電動化を加速させているとも言われている。その要因には、例えば、欧州の各国政府では、業績が落ち込んだ自動車産業に対する経済支援策として、需要喚起策の中にEVやPHEVなどへの購入補助金増額を盛り込むなど、電動化を推進する意図が見えるものがあることが影響しているといわれる。
つまり、従来から世界的課題であるCO2削減策として進められてきた「自動車の電動化」が、コロナ対策にも使われることで、より加速化しているとの見方があるのだ。
同社はESG活動の一環として従来から電動化モビリティのテーマに注力しており今回の「追い風」も、同社の樹脂製品が近年大きな注目を集めている大きな要因なのだろう。
■空飛ぶクルマも視野に
同社は、前述の通り、2025年には電動アクスル関連事業で売上120億円を目指しているが、その後の展開はどう考えているのだろう。
前出の指田氏は、まだ具体的な計画はないとしつつも
「将来的にはニューモビリティや空飛ぶクルマ、産業用ロボットなども視野にいれています」
という。先々のビジョンとしては、自動車関連の新たな産業はもちろん、それ以外の分野でも、電動モーターを使う幅広い分野への訴求も十分ありうるというのだ。
ちなみに、ニューモビリティとは1~2名乗りの小型EV、空飛ぶクルマとは輸送や災害援助などでの活用が期待されているドローンのことを指す。確かに、産業用ロボットも含め、モーターなどに同社の樹脂製品を使うことで、小型・軽量化ができ、放熱性や耐久性に優れるとなれば高い需要が望めるだろう。
特に、新たな移動体である空飛ぶクルマの実用化は注目度が高いだけに、今後さらに市場が拡大する可能性は大きい。
長年培った樹脂の技術を、時代のニーズにフィットさせながら新たな事業に繋げていく、住友ベークライトの挑戦はまだまだ続く。
【関連リンク】
住友ベークライト公式ホームページ(電動化)
https://www.sumibe.co.jp/solution/mobility/electric_vehicle/
【参考動画】
E Axle(住友ベークライト公式チャンネルより)