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2020年11月18日【テクノロジー】

住友ベークライトの次世代電動パワートレイン戦略とは

NEXT MOBILITY編集部

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■モーターやインバータなどに独自樹脂

開発中の電動アクスルは、モーター出力150キロワットのタイプ。ガソリン車であれば排気量2L程度のエンジンと同等の出力で、欧州などで人気が高いDセグメントの乗用車にも対応可能だ。

採用する樹脂製部品は、主に以下の通りだ。

 

・モーター用磁石固定材料
モーターのロータ部には、すでに採用実績がある前述の磁石固定材料を採用。高密着樹脂を使うことで、従来から使用されている接着材よりも狭部充填性、高密着性、信頼性が高く、モーターのさらなる高回転・高出力化に貢献する。

 

・ステータコイル封止材料
モーターのローター内に使われるステータコイルには、高熱電導樹脂の封止材料を使用。放熱性を向上させるとともに、コイル近傍に水路を配置した独自の水冷方式も採用することで、従来にない高い冷却性能を実現する。

 

・モーター及びギアボックス用ハウジング
モーターやギアボックス用に高機能樹脂を使ったハウジングを開発中。一般的なアルミ製ハウジングと比べ、樹脂素材が持つ特徴である軽量かつ振動吸収能力を活かした構造により、電動車の小型・軽量化、低振動・低騒音化ならびに原価低減に貢献する。

 

・インバータ用高放熱・絶縁樹脂
400Vから800Vの高電圧を使う電動車では、インバータの熱対策や絶縁も必須だ。それらの対策のため、パワーモジュールに独自の素材・樹脂配合技術を活用した高放熱シートを装備。絶縁を担保する樹脂の特徴を維持しつつ、パワーモジュールの層構造を減らし、薄型で熱抵抗を大幅に小さくした構造を提案する。

 

 

 

 

ちなみに、上記のモーター用磁石固定材は同社のオンリーワン技術であり、またパワーモジュール用高放熱シートは18W/(m・K)クラスの世界最高レベルの熱伝導率を誇る。また、ほかの製品に関しても、同社の樹脂に関する豊富な知見・技術が余すことなく取り入れられている。

 

■まずは日本や欧州で実用化

各製品の優位性や独自性は期待もかなり大きいようで、実はこれら製品は各国の自動車関連企業との間で、すでに実用化に関する話が進められている。

同社によれば、まずは日本や欧州での販売が先駆けとなり、その後アメリカや韓国、中国などが続くという。

 

同社では、特に欧州での新たな需要に対応すべく、車載用エポキシ樹脂封止用材料の生産をベルギーの子会社Vyncolit NV社で2022年から行うことを発表。従来からある日本、シンガポール、中国、台湾などの工場に加え、さらなる生産拠点の強化も図る予定だ。

高放熱シートを装備したパワーモジュールのモックアップ

 

コロナ禍の影響により、世界の自動車メーカーは電動化を加速させているとも言われている。その要因には、例えば、欧州の各国政府では、業績が落ち込んだ自動車産業に対する経済支援策として、需要喚起策の中にEVやPHEVなどへの購入補助金増額を盛り込むなど、電動化を推進する意図が見えるものがあることが影響しているといわれる。

つまり、従来から世界的課題であるCO2削減策として進められてきた「自動車の電動化」が、コロナ対策にも使われることで、より加速化しているとの見方があるのだ。

 

同社はESG活動の一環として従来から電動化モビリティのテーマに注力しており今回の「追い風」も、同社の樹脂製品が近年大きな注目を集めている大きな要因なのだろう。

 

■空飛ぶクルマも視野に

同社は、前述の通り、2025年には電動アクスル関連事業で売上120億円を目指しているが、その後の展開はどう考えているのだろう。

 

前出の指田氏は、まだ具体的な計画はないとしつつも

「将来的にはニューモビリティや空飛ぶクルマ、産業用ロボットなども視野にいれています」

という。先々のビジョンとしては、自動車関連の新たな産業はもちろん、それ以外の分野でも、電動モーターを使う幅広い分野への訴求も十分ありうるというのだ。

 

ちなみに、ニューモビリティとは1~2名乗りの小型EV、空飛ぶクルマとは輸送や災害援助などでの活用が期待されているドローンのことを指す。確かに、産業用ロボットも含め、モーターなどに同社の樹脂製品を使うことで、小型・軽量化ができ、放熱性や耐久性に優れるとなれば高い需要が望めるだろう。

 

 

特に、新たな移動体である空飛ぶクルマの実用化は注目度が高いだけに、今後さらに市場が拡大する可能性は大きい。

長年培った樹脂の技術を、時代のニーズにフィットさせながら新たな事業に繋げていく、住友ベークライトの挑戦はまだまだ続く。

 

【関連リンク】
住友ベークライト公式ホームページ(電動化)
https://www.sumibe.co.jp/solution/mobility/electric_vehicle/

 

【参考動画】

E Axle(住友ベークライト公式チャンネルより)

 

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坂上 賢治

NEXT MOBILITY&MOTOR CARS編集長。日刊自動車新聞を振り出しに自動車産業全域での取材活動を開始。同社の出版局へ移籍して以降は、コンシューマー向け媒体(発行45万部)を筆頭に、日本国内初の自動車環境ビジネス媒体・アフターマーケット事業の専門誌など多様な読者を対象とした創刊誌を手掛けた。独立後は、ビジネス戦略学やマーケティング分野で教鞭を執りつつ、自動車専門誌や一般誌の他、Web媒体などを介したジャーナリスト活動が30年半ば。2015年より自動車情報媒体のMOTOR CARS編集長、2017年より自動車ビジネス誌×WebメディアのNEXT MOBILITY 編集長。

松下次男

1975年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として国会担当を皮切りに自動車販売・部品産業など幅広く取材。その後、長野支局長、編集局総合デスク、自動車ビジネス誌MOBI21編集長、出版局長を経て2010年論説委員。2011年から特別編集委員。自動車産業を取り巻く経済展望、環境政策、自動運転等の次世代自動車技術を取材。2016年独立し自動車産業政策を中心に取材・執筆活動中。

間宮 潔

1975年日刊自動車新聞社入社。部品産業をはじめ、自動車販売など幅広く取材。また自動車リサイクル法成立時の電炉業界から解体現場までをルポ。その後、同社の広告営業、新聞販売、印刷部門を担当、2006年に中部支社長、2009年執行役員編集局長に就き、2013年から特別編集委員として輸送分野を担当。2018年春から独立、NEXT MOBILITY誌の編集顧問。

片山 雅美

日刊自動車新聞社で取材活動のスタートを切る。同紙記者を皮切りに社長室支社統括部長を経て、全石連発行の機関紙ぜんせきの取材記者としても活躍。自動車流通から交通インフラ、エネルギー分野に至る幅広い領域で実績を残す。2017年以降は、佃モビリティ総研を拠点に蓄積した取材人脈を糧に執筆活動を展開中。

中島みなみ

(中島南事務所/東京都文京区)1963年・愛知県生まれ。新聞、週刊誌、総合月刊誌記者(月刊文藝春秋)を経て独立。規制改革や行政システムを視点とした社会問題を取材テーマとするジャーナリスト。

山田清志

経済誌「財界」で自動車、エネルギー、化学、紙パルプ産業の専任記者を皮切りに報道分野に進出。2000年からは産業界・官界・財界での豊富な人脈を基に経済ジャーナリストとして国内外の経済誌で執筆。近年はビジネス誌、オピニオン誌、経済団体誌、Web媒体等、多様な産業を股に掛けて活動中。

佃 義夫

1970年日刊自動車新聞社入社。編集局記者として自動車全分野を網羅して担当。2000年出版局長として「Mobi21」誌を創刊。取締役、常務、専務主筆・編集局長、代表取締役社長を歴任。2014年に独立し、佃モビリティ総研を開設。自動車関連著書に「トヨタの野望、日産の決断」(ダイヤモンド社)など。執筆活動に加え講演活動も。

熊澤啓三

株式会社アーサメジャープロ エグゼクティブコンサルタント。PR/危機管理コミュニケーションコンサルタント、メディアトレーナー。自動車業界他の大手企業をクライアントに持つ。日産自動車、グローバルPR会社のフライシュマン・ヒラード・ジャパン、エデルマン・ジャパンを経て、2010年にアーサメジャープロを創業。東京大学理学部卒。

福田 俊之

1952年東京生まれ。産業専門紙記者、経済誌編集長を経て、99年に独立。自動車業界を中心に取材、執筆活動中。著書に「最強トヨタの自己改革」(角川書店)、共著に「トヨタ式仕事の教科書」(プレジデント社)、「スズキパワー現場のものづくり」(講談社ピーシー)など。