■需要が高まる「電動アクスル」市場への挑戦
世界的に自動車の電動化が進む中、「住友ベークライト」が現在開発を進めているのが、自社の樹脂製品を活用した電動車向けパワートレイン「電動アクスル」だ。既に2020年1月に開発プロジェクトを発足させている。
モーターとインバータ、ギアボックスが一体化したこの次世代パワートレインを、樹脂加工メーカーである同社が自ら開発を手掛ける意図とは何か? また、その技術的な独自性や先進性、今後の展望などについて取材した。
■モーターとインバータ、ギアを一体化
電動アクスル(eAxle)は、従来は別々のコンポーネントであったモーターとインバータ、ギアボックス(トランスミッション)を一体化した新しいEV向けパワートレインだ。
その主な効果は、パワートレインのコンパクト化や低コスト化、高いエネルギー効率など。近年の自動車は、様々な先進安全技術や電子制御装置などを採用するため、ひと昔前とは比較にならないほど多様な部品が必要となるが、それらを車載するには特に部品の小型化は大きな課題のひとつ。そして、その解決策として、世界中の自動車メーカーや部品メーカーが注目しているのが電動アクスルだ。
その出力やサイズによっては、普及が見込まれているBEV(バッテリー電力のみで走るEV)だけでなく、HEV(ハイブリッド)やPHEV(プラグインハイブリッド)など、現在すでに普及しているエコカーなどにも採用が可能。幅広い車種で応用できるため、今後かなりの需要増が期待されている。
■製品販売だけでなく技術も提供
住友ベークライトは、長年にわたり、フェノール樹脂などの熱硬化性樹脂の成形材料やレジンを自動車用途の材料として生産・販売してきた企業だ。
また、EVなど電動自動車関連市場においても、モーター用の磁石固定材料やインバータ用SiCパワーモジュール向け封止材等で、すでに一部の顧客(自動車関連企業)と共同開発を行い、採用が進んでいる。
このように、従来から自動車部品の材料供給などに多くの実績を持つ同社だが、新たに当プロジェクトを実施する主な目的は、「電動パワートレインの樹脂化推進」だ。同社執行役員スマートコミュニティ市場開発部本部 本部長で当プロジェクトのリーダーでもある指田暢幸氏はこう語る。
「近年、電動パワートレイン(電動アクスル)の需要が高まる兆しを見せていますが、それに伴い小型・軽量化、低振動・低騒音、さらには高出力時に発生する熱への対処が大きな課題となっております。
そこで、(当プロジェクトは)これまで当社で培ってきた樹脂の設計・配合技術を適用し、当社独自の電動アクスルを設計・作製、実際に作動させデータ取得までを行うことで、(ティア1やOEMなどの)お客様へ電動アクスル向け樹脂製部品の提案はもちろん、放熱性向上等の性能改善を具体的に提示することで、顧客の製品開発に寄与する技術提供も目指しています」
つまり、電動アクスルの様々な課題を、同社製品により解決できることをアピールするだけでなく、ティア1やOEMといった顧客が自動車の設計やシミュレーションの第1段階などでも活用できるデータ提供まで行うというのだ。
指田氏は、その理由をこう挙げる。
「近年は、自動車関連業界の構造変化により、従来以上に高度な技術・知見が顧客から求められるようになってきております。材料を提供するだけでは、競合他社には勝てなくなってきているのが現状です。開発期間が短くなったり、開発コストが低減するなど、よりお客様に大きなメリットを生むソリューションのご提供が必要とされているのです」
同社独自の電動アクスルは2021年半ばに完成予定。それを活用しながら、国内外の自動車関連大手に製品や技術を訴求することで、2025年度には電動アクスル関連事業で売上120億円を目指している。