半導体メーカーのSTマイクロエレクトロニクス(以下、ST)は6月23日、自動車業界の主要企業向けに車載用マイクロコントローラ(マイコン)「Stellar SR6」の提供を開始したと発表した。同製品はソフトウェア開発用の仮想プラットフォーム・モデルとともに提供される。
2024年に量産開始を予定しているStellar SR6は、優れた拡張性を備え、高性能・高効率の車載用プラットフォームとして設計された。特に、車両の配線を簡略化するドメイン / ゾーン・コントローラに最適で、ソフトウェア定義のプラットフォームへの移行による柔軟性向上、多機能化、およびシステムの信頼性向上に貢献するという。
STのオートモーティブ & ディスクリート・グループ社長であるMarco Monti氏は同製品について次のようにコメントしている。
「主要顧客との協力により、STは革新的な車載用マイコンであるStellar SR6のテストに成功し、量産が予定されている新しい自動車向けに最初の製品を提供するというマイルストーンを達成することができました。Stellar SR6は、コネクテッドでスマートな次世代の自動車において、優れた安全性と持続可能性、および、より価値のあるユーザ体験を実現します。また、自動車メーカーやパートナー企業に対して付加価値の高いサービスを提供することで、顧客との関係強化に貢献します」
Stellar SR6は、STの堅牢性の高いFD-SOIプロセス技術を採用しているとともに、優れたソフト・エラー率(SER)耐性を備えた製品。そのため、自動車用機能安全規格(ISO 26262)の安全性レベルASIL-Dに準拠する高い信頼性と可用性を備えた車載用システムの開発が可能になるという。
また、ハードウェア・ベースの仮想化技術が搭載されているため、単体で複数のソフトウェア・アプリケーションを処理でき、リアルタイムで確定的かつ個別に実行することができる。さらに、複数の独立したアプリケーションや仮想電子制御ユニット(ECU)を実装処理することができるため、設計の柔軟性向上にも貢献するとのことだ。
まず最初に提供される「Stellar SR6 P / Gシリーズ」は、最大20MBの堅牢な相変化メモリ(PCM)を搭載しており、高いデータ保持性能を実現し、AEC-Q100 Grade 0に準拠。Stellarのデュアル・イメージ・ストレージは、OTA(Over-The-Air)での効率的なアップデートを可能にしている。OTAアップデート時にPCMセル構造を2倍のメモリ・サイズ(最大 20MB x2)に構成するSTの技術により、メモリ・サイズを大幅に抑えて効率的に利用することも可能になっている。また、PCMは、他の不揮発性メモリ(1Tのシングル・トランジスタNOR Flashなど)と比較してアクセス時間が高速化されているとのことだ。
Stellar SR6ファミリは、同じプラットフォームをベースとする2つの製品シリーズ(P / G)から構成される。
同社によると、Stellar SR6 Pシリーズは、次世代のドライブ・トレインおよび電動化向け統合 / ドメイン・システムの要件を満たすよう設計されており、強力なリアルタイム性能および確定性による優れたドライビング体験と安全性が特徴。
Stellar SR6 Gシリーズは、CAN、LIN、およびイーサネット・ネットワークを介してセキュアなデータ・ルーティングを可能にする高効率アクセラレータを搭載し、さまざまな通信インタフェースを提供。また、低暗電流に対応した柔軟な低消費電力モードと高機能モニタリング・サブシステムを搭載し、システム全体の電力効率向上に貢献するとしている。
【技術情報】
Stellar SR6の高性能アーキテクチャは、以下の機能を搭載し、自動車業界における高性能、確定性、柔軟性、安全性、およびセキュリティ要件に対応。
• 6個のArm® Cortex®-R52と、ISO 26262 ASIL-Dの要件を満たすロックステップ機能およびスプリット・ロック機能を搭載
• アプリケーションを統合する高効率なソフトウェア分離プラットフォーム: Cortex-R52のハイパーバイザ権限レベルによる組込み仮想化技術、ハイパーバイザとアプリケーションの仮想マシンID(VMID)に基づく、あらゆるアーキテクチャ・レベル(主にコアMPUやネットワーク・オン・チップのファイアウォール)におけるリソース・アクセス保護
• 性能向上とシングルビット・エラーの防止を実現するシングルビット変更機能、革新的なアプリケーション設計を実現するNVM / RAM機能の統合、EEPROMのネイティブ・サポートなど、優れた性能および機能を備えたPCMを搭載
• 外部メモリ用のeMMC(組込みのマルチ・メディア・カード)およびHyperbus™インタフェース
• 3つのArm Cortex-M4、浮動小数点演算ユニット、およびDSP拡張命令による特定用途向けのアクセラレーションおよびセキュリティ・サブシステム
• EVITA(E-safety Vehicle Intrusion Protected Applications)のサイバー保護アーキテクチャに完全対応したハードウェア・セキュリティ・モジュール(HSM)。このHSMとマルチバス・ルーティングを組み合わせることで、実行時間に制約のある車載ネットワーク(イーサネット / CAN-FD / LIN)の通信を保護
• MACsec(媒体アクセス制御セキュリティ・プロトコル)、IPsec(IPセキュリティ・プロトコル・スイート)、CAN認証向けの専用暗号化アクセラレータ