副社長の十時裕樹CFO
コロナ禍でもソニーの快進撃が止まらない。2月3日に発表した2020年度の連結業績見通しは、売上高が8兆8000億円(前期比6.5%増)、営業利益が9400億円(同11.2%増)、当期純利益が1兆850億円(同86.4%増)と増収増益で、純利益が初めて1兆円を超える。これまで純利益が1兆円を超えた企業はトヨタ自動車、ソフトバンクグループ、三菱UFJ銀行、ホンダ、東芝の5社で、ソニーは6社目となる。(経済ジャーナリスト・山田清志)
PS5は2カ月弱で450万台を販売
「個々の事業が強くなったのは間違いない。年度の利益で見れば、持ち上がったりへこんだりはあるが、中期的には利益水準は上がっていくと思っている」と副社長の十時裕樹CFOは今後の業績についても自信を見せた。
まず主力のゲーム&ネットワークサービス分野だが、第3四半期(10~12月)はプレイステーション(PS)5を発売したこともあって、売上高が前年同期比40%増の8832億円。営業利益はPS5のローンチに関わる費用増やPS5のハードウェアでの戦略的な価格設定による損失計上はあったが、ゲームソフトウェアやネットワークサービスの増収により、前年同期比267億円と大幅に増加して802億円となった。通期の見通しは売上高を前回公表時から300億円増の2兆6300億円、営業利益を400億円増の3400億円に、それぞれ上方修正した。
十時CFOは11月に発売したPS5について、「今期は760万台を超えることを予定しているが、順調でお客さまからの強い需要には十分応えられていない状況となっている。来期も強い需要があり、2年目も1480万台を超える出荷を目指す。ただ、世界的な半導体不足の影響が少なからずあり、これ以上に生産能力を上げるのは難しい。とにかくベストを尽くして、当初予定を超える出荷を目指す」と話す。ちなみにPS5は12月末までに累計450万台を販売している。
いずれにしてもPS5は品薄状態が続いていて、店頭に並ぶとすぐに売り切れてしまう。転売も横行しており、ディスクドライブ付きの5万4978円のPS5が8万円以上で取引されているという。
また、巣ごもり需要が旺盛で、12月のプレイステーションユーザーの総ゲームプレイ時間が、前年同月比で約30%増と大幅に伸びている。さらにPS5ユーザーのプレイステーションプラスの加入率も12月末時点で87%と、極めて高い水準になっているそうだ。
「鬼滅」効果で音楽分野も大幅な上方修正
音楽分野については、10~12月期の売上高が前年同期比22%増の2645億円で、営業利益は234億円増の597億円だった。特に音楽製作では、ストリーミングの売り上げが前年同期比約21%増と引き続き好調だった。また、グループ会社のアニプレックスが製作・配給に関わっている『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』の効果も大きかった。なにしろ1月31日までで興行収入368億円を記録し、日本の映画史上歴代1位となっているからだ。その結果、通期の業績見通しを前回公表時から売上高が500億円増の9000億円、営業利益が280億円増の1800億円に、それぞれ上方修正した。
映画分野は10~12月期の売上高が、劇場公開作品の大幅減により、前年同期比19%減の1912億円。営業利益は減収の影響があったものの、映画製作におけるマーケティング費用の大幅減により、前年同期比168億円増の222億円となった。通期については、売上高が100億円減の7500億円、営業利益が240億円増の720億円と、前期に比べて増収増益の見通しだ。
「今年度は作品の公開延期で広告宣伝費を先送りにできたが、来年度はホームエンターテイメントやテレビへの配信に影響する可能性がある」と十時CFOは懸念を示した。
エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション分野については、10~12月期の売上高がほぼ横ばいの6490億円で、営業利益は前年同期に比べて254億円増の1058億円だった。通期の見通しについては、売上高を200億円増の1兆8900億円、営業利益を580億円増の1250億円に、それぞれ上方修正した。前期に比べると減収増益となっている。
「ホームAV商品に対する巣ごもり需要の継続に加えて、デジタルカメラなどの需要回復も見られ、事業環境には一定の改善が見られた。テレビ事業では、パネル需要がタイトであることも踏まえ、価格維持と高付加価値モデルへの販売シフトに努め、オペレーション費用の削減と併せ、高い収益性を確保できた」と十時CFOは語り、同分野に対して評価して見せた。
赤字計上の2013年度業績とは隔世の感
イメージング&センシング・ソリューション分野については、10~12月期の売上高がモバイル機器向けイメージセンサーの減収により前年同期比10%減の2669億円、営業利益が減収や研究開発費と減価償却費の増加などにより248億円減の504億円となった。通期の見通しは売上高が500億円増の1兆100億円、営業利益が550億円の大幅そうとなる1360億円に、それぞれ上方修正した。
「昨年9月に、中国の特定大手顧客向けモバイルイメージセンサーの出荷を停止したが、11月下旬以降に一部の出荷を再開した。見通しには、この出荷再開の影響を織り込んだ。そのほか、中国顧客以外の大手顧客からの受注状況が、前回10月時点の見通しを大幅に上回っており、その影響も通期見通しに反映した」と十時CFOは説明する。とは言うものの、同分野は前期に比べて減収減益となっている。
こうしてセグメント別の業績を見てくると、全セグメントで営業利益を上方修正しており、十時CFOが「個々の事業が強くなった」というのも頷けよう。ソニーは2013年度に純損益で1283億円の赤字を計上して、電機業界で「一人負け」と言われ、ライバルであるパナソニックの後塵を拝していた。
それが2020年度では、パナソニックの当期純利益が1500億円の見通しなので、ソニーが9300億円以上も上回ることになる。“隔世の感”があるとは、文字通りこのことだろう。